闇に照らされる光の世界に飛び込んで

後藤 悠慈

第1話 眠らない街

 夜の19時、世界は徐々に闇に沈んでいく。それに対抗するようにして、街は光に溢れ、それは日が昇るまで続く。果てしなく続くお店やビルの森は、ごはんや娯楽、大人の2人だけの時間を満喫するような場所を人々にアピールし、それぞれの人たちの物語が展開される。

 私はそんな闇に輝く光の町を歩くのが好きだ。良い匂いもあれば臭い匂いもあり、それが逆に街の生きてる証と感じてなんだか心が躍る。そんな私は、金曜日の夜、大学が終わってから気が済むまで、夜の街を散策することにしていた。遊びに行くような友達はいない。入学式から今日までで円滑に学生社会に溶け込めない奴は、自分の世界を構築するしかないし、むしろ私にはそっちの方が好都合だった。


 「程よい風、ちょうど良い気温、オシャレで動きやすい服に体の動きを邪魔しにくいボディバック、骨伝導イヤホンと、今日の軍資金良し!」


 私は大学で数少ない屋上に出られる建物に出て、ベンチに腰掛けて荷物を確認する。こういう散策をするときに持っていくセットがあり、それは今日もすべてそろっている。私はボディバックをかけ、屋上の淵に腰掛ける。脚をぶらぶらとさせながら風を感じ、風に流されてくる車や人の話し声に耳を傾ける。


「今日はあっち方面に行こうかな~それともこっちの方にしようかな~」


 どっちに行っても、多分私は満足できる。自信を持って言える。それくらいにこの街のネオンと人混みは毎日変わる生き物なのだ。


「決めた。よし、それじゃあ」


 私は骨伝導イヤホンをセットして、最近ハマったKawaii Future Baseを流す。爽快感のある電子音はネオンの森を流すのに最適なのだ。私は一度深呼吸し、そして屋上から飛び降りる。すぐに右手を空へと掲げた。

 サイコエネルギーで出来た太い糸を出して空間に固定、糸が縮む勢いを使って、私は夜のネオンへと飛び出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る