38話:時の眸

 ─────暗い。

 それでも音は聞こえてくる。

 でもそれは先程までとは違い大きく腹の下に響く音だ。


ガコン──、ガコン────


 何なんだろうこの音は・・・一定の時間置きに聞こえてくるけど。

 僕・・・何してたんだっけ?・・・・・確かアデラと別れて兄さんと・・・・兄さん───そうだ僕は兄さんに負けたんだ。

 あの時の事を鮮明に思い出す。

 加速する小石に胸尖きょうせんを強打され倒れ行くその瞬間を。


 最後何て言ってたっけ?ハッキリとは聞こえなかったけど何か説明めいたものを言っていた気がしたんだけど───そうだ。

 "お前とは逆"兄さんは確かにそう言っていた。

 それは僕の眸と対になっていると言う事を言っているのだとしたら・・・僕も・・・・・


ドクンッ・・・・・


 聞こえる筈の無い鼓動が胸の中で響く。

 そうだ僕はこの眼に生かされているんだからこの眼が有る限り死ぬことはない。

 だったらまだ動けるだろ。

 どこでも良い身体を動かせ──意識を集中させろ。

 その時右腕が微かに動いた。

 もっとだ・・・もっと強く、激しく動かせ!!


 拳をぐっと握り締める。

 そうしてその拳はあの瞬間と同じ様にレンカの顔面に一撃加えた。


「なん・・でだ・・・・」

「はぁはぁ……まだ止まれないだけだよ」


 意識を取り戻した僕は咄嗟に光時計を見る。

 まずいな、後五十分程しか猶予はない。


「何処までも俺の言う事を聞かないヤツだなお前はァ!!」


 近くに落ちていた小石を投げ飛ばし加速する。

 あれをまともに喰らえばまた意識は闇に沈むことだろう。

 だがそう易々と手放す事はもうしない。


カンッッ!


「何だ・・・それは!!」


 盾の様に現れたそれはガコン、ガコンと音を鳴らしながら回る。

 それは僕の身体を隠す程大きな二つの歯車だった。


「"時之歯車テンカルチェス"・・・・・簡単に言えば"時之剣テンシュヴァート"の歯車版と言った所だよ」

「・・・そうか・・・・なら力比べといこうか」


 彼も剣を発現される。

 きっと"時之剣テンシュヴァート"発現時には物体の加速は出来ないのだろう。

 しかしそれは僕も同じことだ。

 "時之歯車テンカルチェス"を出している時は物体の減速は出来ない。

 それならばシンプルな実力差だけが勝負の鍵となる。


「そォら!!!」


 剣がまとめて飛んでくる。

 だけど今までみたいに逃げてばかりじゃない!


ガキンッッ!!!


 歯車を盾の様に使い攻撃を防ぐ。

 それの中央にある穴を通り抜けようとするがそうはいかない。

 差し込まれたその瞬間歯車のサイズを縮めその場で高速回転することで動きを止める。

 残りの二本はまとめて止めてやるっ!


「チッ──」


 剣は姿を消し今一度レンカの近くに現れる。

 成る程・・・そう言う使い方もあるわけか。

 歯車を戻した僕は兄さんに向かい一気に走り出す。


「ハッ・・・それじゃ自殺行為だ!」


 ブォンブォンと剣を振り回す。

 剣が僕の体に当たりそうになるその瞬間──発現!!


ガンッッ


 剣を弾く。

 そうしてまた眸の中に刻む。

 それを繰り返し止まることの無い猛攻を防ぎきり兄さんの目の前まで辿り着く。


(また単調な拳か・・・・)


 そう思うレンカは三本の剣を一勢に振り下ろす。

 ・・・・今だ・・・・・・発現ッ!!


ガガガンッッッッ!


 一つの歯車が僕の頭上高速で回転する。

 そうすることで振り下ろされた三本の剣は弾かれ僕が攻撃する程の余裕が生まれた。

 なぁ兄さん・・・・・これもまたただ殴るだけって考えてる見たいだけど・・・・・・そうじゃないんだよ。


ギャルルルルル・・・・・


 彼はシオンの腕の周りを回っている小さな歯車を目にする。

 防がなければ・・・そう思い剣を消滅させた時にはもう遅かった。

 先ずは拳が当たる。

 しかしそれは何とか両腕で防ぐことが出来たが問題はあの歯車だった。

 ぶつかった拳を押し出すと同時に歯車が射出される。


ボキッ…ベキベキッ・・・・・


「ぐぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!??」


 それは肉を抉り取る様に・・・骨を粉砕する様に・・・・・めり込み回転する。

 彼はそのまま端まで飛ばされ背中を壁に強打する事になった。

 これでもう決着は付いただろう。

 だからもう止まってくれ・・・・・!


「はははっ───こんなにも強くなっていたとは・・・想像もしなかったな」

「なぁ兄さん・・・もう良いだろ。あの時計を消して世界を止めるなんて止めてくれ」


 彼は答えない。

 それは止めるつもりは無いと捉えて良いのだろうか?もしそうだって言うのなら───


「確かにアレを発現させたのは俺だ・・・・・だが俺では止められない」


 止められない・・・どう言うことだ?魔術と言うものは発動した術者本人しか解除は出来ない筈なのに・・・・・どうして止められない何て言うんだ。


「その表情・・・ま、当たり前か。なぁシオン・・・・アレを止めるならお前が止めてくれ」


 僕が止める?術者本人が止められないって言うんなら僕が止められる訳が───

 その瞬間、頭を悩ませる僕を更に困惑させる言葉を発した。


「俺の眼を・・・・・お前が使え・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る