21話:幼き悲劇
「説明をしていなかったね、アルシアちゃんは一階で寝てる…と言うか気絶って言うか」
「気絶!?」
魔術書を取り出し、同じくアデラも戦闘体勢をとると慌てた様子で訂正をしようとする。
「待って待って!ちゃんと説明するから!」
ミナツは淡々と説明を始める。
内容としては…[アルシアは魔女と言う単語に怯えるように見えたから、それに関連する事に関わることのないようにしようとした]との事だった。
ミナツなりに気を遣ってくれていたのかと思い、一先ず魔術書を収める。
そんな僕達の様子を見てホッと胸を撫で下ろす。
とは言ったものの、アデラはまだ警戒気味だがそこは触れないでおこう。
てか、そう言うことなら誤解するような言い回しをしないで欲しい…きっと本人もその自覚がないからこう言ったんだろうけど。
取り敢えずアルシアが無事なことは分かったのだから、ネフィがこうなってしまった出来事を聞くことにしよう。
震える彼女は一息ついた後ゆっくりと過去の出来事を話し始める。
◆時は
あの日記帳にもある通りネフィの六歳の誕生日の日に事件は起こる。
【ネフィちゃん!お誕生日おめでとー!!】
「ありがとー!」
沢山の友人が誕生日のネフィに対し祝いの言葉をかける。
それに応えるように、笑顔で感謝の意を示す本日の主役が椅子に座っている。
なんの変哲もないありふれた誕生会、プレゼントを渡す等の一通り行事を終え、パーティーは終わり解散かとなった時だ。
「誕生日おめでとっネフィ!」
一人の少女が話し掛けてくる。
それはネフィの大親友であるミナツだ。
「ミナツちゃん!ありがとう。そう言えば昨日言ってた良い所って何処なの?」
「それは行ってのお楽しみ!」
人差し指を自分の唇にあて笑顔で応える。
ネフィには色々とお世話になっているからそれ込みの恩返しをしたかった。
むーっと頬を膨らませる彼女の手を引き、扉を開け真っ直ぐと家を飛び出していく。
少し躓きそうになりながらもミナツの手を繋ぎ、横に並び共に走る。
いくら走ったのだろう、二人とも息を切らし少しずつ足が重く感じていく。
特に変わらぬ木々が生い茂っている風景ばかりを見ていると、自分が草木の一部なのではないかと錯覚してくるほどだ。
「見えてきた!」
周りの木々が少なくなってきている。
それは確実に目的地に近づいていると言う何よりの証拠だ。
変わらぬ風景における変化はどれだけ小さかろうとこれ程嬉しいことはない。
先程まで疑いの目を向けていた少女がやっとかと言った表情に変わる。
もう少しだ、やっと見せたかったモノを見せることが出来る。
日光が目に当たる。
視界がぱぁっと白く視界がぼやける、隣の少女が目を慣らすよう目を擦る。
「わぁ!」
目の前の光景はとても森の中にあるとは思えない、辺り一面が鏡のような湖が広がっている光景だった。
キラリと太陽の光が反射する。
ネフィも負けないほどに目を輝かせる。
キラキラするものが好きな彼女には必ず見せたかったのだ。
「凄いよミナツちゃん!わたしの顔が映ってる!!」
ぴょんぴょんと飛びはね今にも飛び込んでしまいそうな勢いだ。
そんなに喜んでくれると、こちらも連れてきた甲斐があるものだ。
「早く行こ!」
「うわ!?ちょっと!」
裸足になったネフィはミナツの手を振りほどき、湖に向かい走る。
ネフィは好きなものが目の前にあると我を忘れる癖がある。
さっきまでこっちが引っ張っていたのにあっという間に立場が変わってしまった。
我が親友ながら切り替えが早いと言うか、単純と言うか。
まぁ、喜んでくれてるならそれで良いか。
「ほら早く~~!」
「ちょっと待ってってば」
満面の笑顔を浮かべながら、水上を跳び跳ねる。
服がびしゃびしゃに濡れる事なんて少女は気にも留めない。
「冷たっ」
素足になり興奮する彼女の元へ向かおうとしたアタシは思わず声を漏らす。
こんな冷たい所でよくもあんなに跳び跳ねられるなと、思わず感心してしまう。
ゆっくりと冷たさに慣れ、いよいよ足を進めよとした時だ、アタシの遅さに頬を膨らませる少女の後ろから人影が現れる。
少しずつ日が当たり姿が見えてくる。
その姿は、夜空のように紺藍色の髪を靡かせ、推定一七〇cm程の女性がそこに居た。
「あなたは誰?…お姉さん綺麗な髪だね!」
笑顔で振り向き、女性の髪を褒める。
誰にでも気さくに声をかけるのは、ネフィの大きな長所だが今回ばかりはこれが最悪の選択だった。
「貴女は…魔女…?」
紺藍色の女は目の前に居る無垢な少女に問いかける。
距離が離れている事もあり、殆ど聞こえなかったが、あの女が危険な存在であることだけは感じ取れた。
「魔女?わたしはネフィだよ!」
握手を求めるように手を伸ばす。
不気味女はそれに応えるようにゆったりと手を上げ、ネフィの頭の上に乗せる。
「わっ、撫でてくれるの?」
「……違うならさようなら」
女は小さく呟く。
瞬間、アタシは嫌な予感に襲われ走り出す。
一歩進み、違和感に気づく。
そこまで深くないにも関わらず、足がハマったように上手く動かせない。
前には進んでいる。
しかし一向に近づいている気がしない、バシャバシャとその場で足踏みをしているような感覚だ。
「離れてっ!ネフィ!!」
大声で叫ぶ。
しかし叫んだ頃にはもう遅かった。
ネフィの身体がゆらりと倒れる。
女は親友の頭から手を離し、後ろに下がっていく。
影に隠れながら見えた女の瞳は一瞬光り輝くのが見えた。
────────◆◆◆◆◆◆───────
「これがアタシ達の過去・・・そしてこれが戻ってからネフィが書いていたモノよ」
そう言いながら彼女は僕達に一冊のノートを渡す。
そこにはミナツの名前と魔女、この二つがページが尽きるまで殴り書きされていた。
「だから魔女の事を聞いてきたんだね」
「ええ、外から来たのなら何か知ってるかもと思ってね」
確かに魔女と言う単語自体はこちらの世界でも、元の世界でも存在するが、あくまでも架空の存在だった。
今の話を聞く限り本当に存在するようだが、にわかかに信じがたい話だ。
そう考え込んでいると隣でパタンッとノートを閉じたアデラは静かに返す。
「それで、ミナツは俺達に何か頼みがあるんだろ?」
とても落ち着いた声で問いかける。
その声はまるでこれから何を頼まれるか知っているかのような声だ。
もちろん僕だってどんな頼みがくるかは解っているつもりだ。
「うん、頼みたい事ってのは一緒に魔女に会いに行ってほしい」
予想道りだ。
逆にこれ以外の頼みを予想する方が難しいと言った話かもしれないが、既に僕達はそうする覚悟は出来ていた。
「もちろん無理になんて言わないよ!危険な事は間違いないし、アタシの勝手な都合だしで…」
「んな心配すんなって、俺達三人の答えはとっくに決まってんだよ!」
そうだ、僕達は魔女に会いに行く。
それは決まっている…決まっているんだが……三人!?僕は思わず彼を二度見する。
「待って三人って僕とアデラと…」
「そこの寝坊助に決まってるだろ」
そう言いながらミナツの後ろにある扉を指差す。
そこにはひょっこりと顔を除かせるアルシアが居た。
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