18話:森の中

「……ま、魔女」


 最初に沈黙を破ったのはアルシアだった。

 魔女と言う言葉自体はこの世界でも聞いている事もあり確かに知っているが、この世界でも魔女は幻のような存在として描かれている本ばかりだった。

 そう思っていながら僕は咄嗟とっさに彼女の方を見る。

 彼女は魔女と言う単語にトラウマをもっているものと考えたからだ。

 しかし意外にも拳を強く握り締める彼女は強い眼差しで僕の目を見返す。

 少し小刻みに震えながらも、まるで"もう私は大丈夫"とでも言わんばかりの表情かおをしている。

 どうやら僕の心配は要らなかったのかもしれない、そう思い胸を撫で下ろしホッとする。


「えっと、何かあったの?」

「まぁちょいと前に色々とな、話せば長くなるから先にそっちの話をしてくれて良いぜ」


 僕達はアデラに同意するよう小さく頷く。


「了解。話を戻すとアタシは昔…十年程前にそう名乗る人に一度会っていてね。この国の外の人なら知ってるかと思ったんだけど…」

「悪ィが、俺は見たことがないな」


 そう言う彼に僕と彼女は同意する。


「そっかなら大丈夫だよ、ごめんねいきなりこんな困惑させるようなこと聞いちゃってさ」


 ミナツのその声にはさっきまで聞いていた声と異なり、明るくハツラツとした声に戻る。


「でも絶対入っちゃダメだよ!まだアタシが出会った森の中に居るかもしれないんだから」

「森の中って言われてもこの国ほぼ森と同化してんじゃん…」


 思わずツッコミをいれてしまう。


「この家から真っ直ぐの所の森に居たの!」

「そうなんだ…」


 だとしてもあまり変わらないような気もするけど…てか昔って言われても十年も前なのだろう?それなら今は居ないかもしれないと、そう思い質問を投げかけようとしたが、それを察知したかのように頬を膨らませていた彼女は会話を切り替える。

 まるでもう魔女に関する話をしたくないとでも言うように。


「せっかく家に来てもらったんだしお茶の一つくらい出すよ」


 そう言いながら台所の方へと向かっていった。

 その後は特にこれと言った特別な話をすることはなく、日常的な会話をして時間が過ぎていく。


「そう言や三人とも今日はどこの宿に泊まるの?」


 ミナツのその質問に僕達はきょとんとし、顔を見合わす。

 そう言えばどこの宿に泊まるかなんて一切考えていなかった、無言ながらも焦りの表情を顔にだす。


「あー、その顔は三人とも考えてなかったんだね」

「いやー全くもってその通りでして…」


 僕は気まずさと恥ずかしさから少し目を逸らしながら応える。

 まさか誰一人そんな初歩的なことを考えていなかったとは思わなかった。

 お恥ずかしい限りの話である。


「全くしょうがないな~せっかくこうして来てくれたんだし、このミナツさんが泊めてあげよう!」

「良いの!?」


 その言葉に僕は身体を大きく前に乗り出す。

 正直泊めてあげると言うその言葉を期待していない事はなかったがまさか本当に泊めてもらうことになるとは思ってもいなかった。


「ありがたや~」


 思わず手を合わせ泊めてくれる少女を拝む。

 今のミナツは正に女神様である。


「ふふ~ん苦しゅうないぞ」


 こうして僕達男組はこのまま直結してる隣の家に泊まり、女子組は変わらずと言うことになった。

 その日の夜、僕達はとある行動に出る。


《"気配追跡バイオロジカル"》


 アデラは三人が爆睡していることを確認する。


「にしてもその魔術凄いな、まさか寝てるかどうかも分かるなんて」

「だろ?感謝するってんならベッド譲れよ」


 そう部屋にある一つのベッドに指をさしながら得意気な顔で僕の方を見る。

 一度魔術書を読めばその魔術を使えるようになる僕でも、身体の強化とかそう言うのはてんでダメだから尊敬しているのは本当だ。

 それはそれとしてこのドヤ顔…ちょっとムカつく。


「うん、一歩間違えれば完全に犯罪者だもん」

「あん?」


 さっきとは打って変わって睨んでくるアデラを横目に家から出る。

 ここまですればお察しだろう、そう、あの魔女が出たと言う森の中に僕達は向かうのだ。

 でも目的は魔女を見つけることではないそこに魔女がいたと言うのなら何かしらの痕跡が残っていると思ったからだ。


 と言っても魔女を十年前…可能性はかなり低いが場合によっては痕跡を見つけることが出来るかもしれない、兎も角現状どの本にも実際に存在としたとは載っていない魔女がこの世界に本当に存在するとなると心を踊らさずにはいられない。

 僕達は夜道の中出来るだけ音を立てないようにミナツの言っていた森の方へと足を運んだ。


《"魔力光球ルクスィエラ"》


 僕は光の球を二つだし懐中電灯のようにして夜道を歩く。

 と言っても誰かに見つかるわけにもいかないから光量は控えめだけど。


「なぁ本当にあんのかよ、その魔女の痕跡ってのは」

「うるさいなぁ分かんないから探してるんだろ」


 後ろでアデラが文句をずっと垂れている。

 まだ森に入って数分しか立っていないっていうのに。

 でも確かにこのままでは何の成果も得ずに終わることになりそうなのも事実だ…多少のリスクはあるがこうなっては仕方がない。

 僕達は二手に別れて捜索する事にした。

 集合するとなれば僕の光球を飛ばすと言っているし何とかなるだろ。


────────◆◆◆◆◆◆───────


 俺はトランに言われるがまま探索を続けていた。

 俺も魔女については気になってはいるが、そんな簡単に見つかるもんとも思えないんだがな…

 にしてもあいつやっぱすげぇな、こんな球作れるんだから…絶っ対あいつには言わねぇけど。


「にしても本当に見つかんのかよ、そもそも居てもこんな夜中に出歩かねぇと思うけど」


 そんな愚痴を吐きながら我武者羅に、それでいて何かに惹き付けられるように歩いていくと水の流れる音が聞こえてきた。

 そう言や来る時に水の音なんて聞かなかったな、そう考えている内に自然と音の方に進んでいた。

 恐らく川の音だろう…そうして進んで行くと影のようなものが目に映る。

 マジで魔女が居たのかと言う期待からか、少し胸を高鳴らせながらじっと見つめていると、とうとう月明かりに照らされその正体が顕になる。


「ふぅ~」


 そう息をつきながら姿を見せたのはただの老婆であった。

 んだよッ!と少しズッコケそうになりながら心の中でツッコむ。

 期待した俺が馬鹿だったよ…そう思い帰ろうとするがあの老婆の顔に見覚えがあり、もう一度よく見るとあの時アルシアを殺すよう俺達に頼み込んできた老婆だった。


「何でアイツがここに…」


 老婆を凝視しているとさっきよりも若返っているように見える、見間違えかと思い目を擦ってもう一度見るとどんどんと若返っていっていた。


「嘘…だろ……」


 老婆の姿がみるみる内に黒髪ロングの美女の姿へと変貌した。

 あまりの美しいさに見惚れてしまっていたが、すぐに何か違和感を抱く。

 初めてその姿を見る筈なのに知っているかのような、美しいと思っている筈なのにどこかドス黒いものが渦巻いているような、言葉に言い表せづらい感情が渦巻く。


「早く伝えねぇと」


 俺はこの場を素早くそれでいて出来るだけ気配を消しながらトランの元へと向かった。

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