男女逆転の女尊男卑の異世界に転生した、前世は女の「私」は困惑しながら男として生まれて生きていく

bibi

第1話 始まりの記憶

眩い光と遠くで聞こえる喧騒、それが私の最初の記憶だった。いや、正確には「私」という認識すらまだ曖昧で、ただひたすらに押し寄せる情報に混乱していた。


次に認識したのは、柔らかな布に包まれた身体と甘い匂い。そして、視界の端に映る優しく微笑む女性の顔だった。彼女の瞳は深いエメラルド色で、私を覗き込むたびに微かに光を放っていた。


「あら、起きたのね。いい子だわ」


優しい声が耳に届く。その声に、なぜか胸の奥がざわついた。懐かしいような同時に理解できないような感覚。


私はゆっくりと瞬きをした。天井は木の梁が剥き出しで、壁には素朴な刺繍が施された布が飾られている。どうやら、私は産まれたばかりの赤ん坊らしい。


赤ん坊……。その事実に、私の脳裏に電流が走った。


(え、ちょっと待って……私、女だったはずでは?)


突如として、前世の記憶が鮮明に蘇る。現代日本で、ごく普通の女性として生きていた「私」。それが、なぜか今は身体が小さく、そして、どうやら男性の身体に生まれ変わっているようだった。


混乱する思考とは裏腹に、身体はただ泣き声を上げる。甲高い産声は、女性の笑い声に包まれた。


「残念ながら男の子のようね。」


男の子。その言葉が、私の耳に重く響いた。前世の知識では、男の子は歓迎される存在だった。しかし、今いるこの世界はどうも様子が違うようだった。


その後も、断片的な情報が私の意識に流れ込んできた。この世界は「アストライア」と呼ばれ中世に似た時代。そして、決定的に異なるのは、女性のみが魔法を使えるということだった。


魔法はこの世界の基盤であり、女性たちの絶対的な力を示していた。政治、経済、そして家庭。あらゆる場所で女性が上位に立ち、男性は彼女たちに仕える存在として認識されているらしかった。


私の母親らしい女性は、度々そのエメラルド色の瞳を輝かせ、手のひらから小さな光の玉を生み出してみせた。それはまるで遊びのようだったが、私にはそれがとてつもない隔たりに見えた。


そして、聞こえてくる会話から、私が男爵家の嫡男として生まれたことを理解した。この世界では爵位を持つ家であっても、男性はあくまで女性の補佐であり、決して当主にはなれない。


私は男として、この世界に生まれた。 前世が女だったという記憶を抱えながら、女尊男卑の社会で魔法も使えない「男」として生きる。


これは一体どんな運命の悪戯なのだろう。


私は、この新しい生をどう生きていけばいいのだろうか。

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