非モテ同盟を結んだ親友がいつの間にかリア充になっていた

桜野弥生

第1話 親友にリベンジを誓った日

「恋人なんていらねえぇ!」

「ま、マジで、そう・・・・・・」

 春の暖かいそよ風が吹く中、そんな叫び声が学校の屋上から響いた。

 片手にはローカル対戦中のゲーム機。ポーズ中なので一旦画面から目を離すことができる。

 学校にゲーム機を持ってきているという御法度を犯しているが見つかった時は見つかった時だ。ちなみに今まで見つかった事は一回たりともない。

 中学生活も残り一週間となり、いよいよ卒業が間近となった。

 俺、黒谷翠は卒業なんて心底どうでも良いなんて思っている。

 別に環境が変わるだけで他は何も変わらない。生き方も性格も卒業と同時に何かが変わったりしない。

 だから相変わらず俺は自分の好きな事をやって昼休みを謳歌している。

 ここまで聞いたら一人でそんな事言っている寂しい奴だと思われていそうだがそれは心配無用である。

「非モテは非モテらしく大人しくしてるのがお似合いなのさ」

「じ、自分で、自分の首絞めてて草」

「そもそも恋人なんて作ったら自分の時間取れなくなるじゃん。趣味も合わなかったら辛いし」

「ま、まあそれは一理ある。て、てか、そもそも私ら恋人できるようなルックスじゃないし・・・・・・」

 その瞬間に言葉が途切れる。お互いの地雷を踏んでしまったのである。まあ自分でも恋人なんてできるような容姿や魅力なんて持ち合わせていないことくらい分かっている。言葉にする方がダメージ倍増してしまう。そして残っているのはどちらが言葉を挟んでこの気まずい空気を払拭するだけだ。

「よし、じゃあ続きやるか」

「う、うん・・・・・・」

 俺は先ほどまでのことを無かったかのように言葉を挟みを再びゲームを再開させる。

 俺の隣で同じゲームをプレイしているのは、春川真央。俺の唯一の友人である。

 肩まで長い髪は、いつも三つ編みをしており見た目よりも機能性を重視しているらしい。真央曰く、三つ編みの方がゲームしている時に髪で気が散らないからとか。

 そして目には度が強そうな縁が黒の丸メガネをかけている。

 女子というよりかは仲の良い男友達のような感覚で俺は接している。

 内気で他人とのコミュニケーションが苦手で会話する時も言葉が途切れ途切れ聞こえてくる。真央曰くコミュ障らしい。

 だがこうして今ゲームを真央とやっている時間が意外と心地良い。恋愛感情よりもこちらが優先だ。


 今やっているゲームはローカル通信で対戦ができる格闘ゲーム。幅広い年代に親しまれており世界中かなり人気のゲームである。

 ストーリーなどの要素は無く、ただひたすらに戦う。勝つも負けるも自分次第といったところである。やり込み要素が深く、何時間やっても飽きない。

 ローカル通信ならインターネットを使わずに対戦できるのでとてもありがたい機能である。

「てかこのキャラ強くない?」

「そ、そんな、事はない・・・・・・私のど、努力の、た、賜物」

「た、確かに、コンボちゃんと決まってる」

「え、えへへ・・・・・・」

 ニヤニヤと口角を上げながら真央はそのままコンボで追い打ちをかけてくる。ほんの一瞬でも隙を作られたらそこから反撃されてしまうのでゲーム機のボタンを押すのをやめない。

 一方、真央のコンボ技を喰らっている俺はと言うと・・・・・・何もできなかった。多少なりとも抵抗は見せたつもりだった。

 なんとか隙を見つけて距離を取り反撃の糸口を見つける段取りだったがそんな事はさせまいと容赦無く攻撃は降りかかってくる。

 そうするとダメージが蓄積され場外へ吹っ飛んでしまう可能性が上がってしまう。


 そんな嫌な予感を抱きながら気がつけば・・・・・・場外へ吹っ飛んでいた。


 ゲームセット!の声がゲーム機から響き渡ると慌しかった指も動きを止める。

「うげ、負けた・・・・・・」

「み、見たか・・・・・・私のコンボ。その名も、真央コンボ」

 なんの捻りもないコンボ名に笑いそうになったがグッと堪える。

「それにしれも上手くなったよな。もう全然勝てないや」

「い、いや、私もまだまだ・・・・・・まだNPCレベル10には勝てないし・・・・・・」

「レベル10って一番強い設定じゃん。それに勝てたらすげえよ」

 自分で練習したい時はNPCを使って対戦するのがオーソドックスになっている。 そのNPCにもレベル、強さも自分で設定することができるのだ。

 レベル1が一番弱い、そしてレベル10が一番強い設定である。

 レベル10にもなると勝つことも困難、泥臭い戦いを経て残機を一機減らすのでやっとである。

「ちなみに今まで勝ったことのある最高レベルは?俺は7」

「わ、私は9かな・・・・・・」

 あもうだめだわ。こりゃ勝てないのも納得がいった。このゲームを先にプレイしていたのは俺だったのに、いつの間にか技術も戦略も一歩、いや、二歩三歩先へと追い越されてしまっていた。


 でもどうしてだろうか。この高揚感は。不思議と心の奥がワクワクしている。思わず口角がニヤリと上がる。

 てっきり負けて子供みたいに不貞腐れるのかと思っていたがそうでもなかった。

 負けたという事はまだその先の道がある。伸び代があるということ。

 このままで終わるわけにはいかないと思ったのだ。

 たかがゲームだが、されどゲーム。でも相変わらず、真央と一緒にやるゲームが、とても楽しいのだ。

「ど、どうしたの? 急にニヤニヤし出して。ちょ、ちょっときもい・・・・・・」

「なあ、今度ゲーム教えてくれよ。ちょっとした目標ができてな」

「そ、それって?」

「も、もちろん。真央に勝つ事だ」

「あはは、そ、そんなこと言うのなんて七千年早い」

 真央に嘲笑われてしまったが、俺の信念はそんなことで曲がったりはしない。

「まあ、俺は七千年も待てるほど呑気じゃないもんでな」

「生意気・・・・・・でも分かった。そこまでの覚悟が、あ、あるなら教えて、あ、あげる」

「まじ、やったあ」

 こうして俺は真央からゲームを教わることになったのだ。だが中学卒業式まで後一週間。そして一週間後の卒業式の日に俺は真央にリベンジをする。

 たった一週間で勝てるほど甘くはないのはそんなこと分かりきっていることだ。

 それなのになぜやる気に満ち溢れているのか。それはただの負けず嫌いなのか。


 今はまだよく分からなかった。

 



 

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