Track 02 共鳴覚醒
「やっぱり。あなたが“
勇者でも賢者でもなく、果ては無職でもなく、“
それだけじゃない。テンションの置き方、ブレイクの間合い、転調の伏線回収――全部、理屈じゃなく“見えた”。
さらに言えば、ビル・エヴァンスの和声の濁りと解像度のバランスとか、バッハのフーガがなぜ“構造美”と呼ばれるのかまで――全部が、まるで一つの法則で編まれているように、透けて見えたんだ。
地球で何年かけても絶対に辿り着けなかった場所に、今の俺は立ってる。
心臓がまだドクドクいってる。たぶんアドレナリンが出っぱなしなんだろう。
イリヤは、ずっと無表情のまま俺を見ている。
でもその目には、俺の想像よりずっと深い何かが潜んでる気がした。
――てか、“
◇
例の地下遺構――壁一面の譜面が俺の脳をクラッシュさせたあの部屋で、イリヤは淡々と世界設定を語る。
曰く、昔この世界は“旋律”が原因で戦争になり、都市が崩壊し、教会と帝国が「これは神罰」と大合唱。そこで発布されたのが
「こっちの世界、歴史改変どころかリズムごと改変してんじゃん……」
思わず漏れた愚痴に、イリヤが小さく首肯する。
「でも、構造は消えていない。忘れられているだけ」
と、突然頭上で警告灯が赤点滅。嫌な機械音とともに、通路奥から黒い外套の連中が殺到してくる。
「……
イリヤが指先で空間に五線譜を描く。浮かぶ光のライン、鳴らない音、しかし空気が瞬時に凍る。
「共鳴式・偏向領域」
──バリア魔法、発動。突進してきた監察局員が目に見えない壁に激突し、鈍い音を残して吹き飛ぶ。うお、リバーブ0でも迫力満点。
「な、なに今の! 防御壁!? てか魔法!?」
「構造魔法。維持コスト高いけど、今はこれで」
どうやら MP的なものがごっそり削れるらしく、イリヤの額に汗。少女一人の残弾管理に世界がぶら下がるゲームバランス、怖すぎる。
◇
逃走ルートは非常用シャフト=ダンジョン的鉄パイプ地帯。足元は排水溝、壁はコンクリの素肌、匂いはデフォルト湿気オプション。
「ここ抜ければ地上?」
「ええ、あと少し」
光のハッチを押し開けると、一面の丘陵と青空が視界にビッグバン。さっきまで低域ブーストしかなかった世界に、突然ハイとミドルが帰ってきたみたいで、思わず深呼吸。
──でも、音は相変わらずバラバラ。鳥のさえずりと風のざわめきが、スコアを失った楽器のように空中を漂うだけ。
「BGM のないオープンワールドって、案外ホラーだな」
◇
丘の向こうにイリヤの里、そして“教授”と呼ばれる人物が住むらしい。
「教授って、まさかRyuichi Sakamoto…!? こっちの世界に転生してきてるのかよ!」
「りゅういち……さかもと?」
「うん、ごめん、俺のいた世界の話。音楽である種の革命を起こした偉人って思ってくれればいい」
「革命……それなら、同じね」
彼女のいう教授とは肩書は元・帝国の追放学者。つまり禁忌研究オタク。彼女の育ての親であり、俺の召喚を予言した張本人とのこと。
「世界は変えられる、きっと音楽を取り戻せるって、教授は言ってた。だから私はあなたを迎えに来たの」
そう言って差し出されたイリヤの手は、指が震えていた。強がりの無表情系ヒロイン、実はガラスメンタル。はい、俺の弱点ど真ん中。
「わかった。とりあえず、その教授に挨拶してからこの世界で何をして過ごすかゆっくり考えてみるわ」
自嘲とテンションと、ちょっとだけ前向き。俺のグルーヴはまだ音にならないけど、心拍だけは 4/4 で刻んでいる。
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