チキン

修学旅行2日目。歴史的な寺院を巡り、観光地はどこも賑わっていた。快晴の空の下、生徒たちはグループに分かれて笑い声を上げながら歩いている。


壮太はその中で、少し後ろを歩きながら目立たぬように、けれど何度も前方を気にしていた。


視線の先には、愛美がいた。


彼女はクラスの女子たちの中心、陽キャグループの中でもキラキラとした存在。その左右には、仲の良い女子たちが常に並んで歩いている。


(…今、声をかけたら…確実にバレる)


壮太は視線を逸らしつつ、内心でずっと葛藤していた。


――昨日の夜、あれほど勇気を出そうと決めたのに。

――「話しかけるきっかけ、作ってやるよ」って、彰と春翔も言ってくれたのに。


でも、現実は甘くない。


実は、彼らは別クラスだった。だから今日の行動班も別。昼食のレストランも、回るコースも違った。

そして壮太の班はというと、男子3人、女子1人のちょっと気まずい構成。ズギューンときたあの子と同じ班ではなかった。それどころか、今日一日ほとんど別行動だった。


しかも――


(うちのクラス、7割が陽キャ…)


やたらテンションが高く、声も大きい男子たち。SNS用の写真を撮りまくり、バカ騒ぎが日常。彼らに愛美の取り巻き女子たちが加わると、空気は完全に“陽キャの世界”になる。


(あの空間に、俺みたいなチー牛が不用意に割り込んだら…)


──目立つ。

──バレる。

──からかわれる。


それが恐怖だった。


「うぇーい!愛美のこと好きなんか〜?!」

「ぬいぐるみ抱いてたとこ見てキュンですか〜!?深山君〜w」


そんな声が頭の中に響いてしまい、彼の足は止まってしまう。


実際、いじめられはしない。うちの学校はそこまで空気が悪くない。けど、「笑いのネタ」にされるのは一番キツい。


(…無理だ。今の俺には話しかけられない…)


愛美の方は何も知らず、笑顔で友達と話しながら歩いていた。昨日、バスの中でウサギのぬいぐるみをぎゅっとして寝ていた、あの無防備な寝顔を思い出す。


(…やっぱ、可愛いよな…)


でも、その想いはまた今日も、心の中にしまわれたまま、声にならなかった。


その日の夜、旅館に戻った壮太は、心の中でこう思った。


「話しかけられなかった。悔しい。でも、彼女のこと、もっと知りたい。」


ふと、同好会の仲間の言葉を思い出す。


「勇気ってのは、無理に突っ込むことじゃない。タイミングを見て動けるやつが、強いんだぜ。」


(…次こそは)


決意はまだ、心の中に息づいている。

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