第35話 向き合うために


『……なにこれ?』


「コーヒーというものだ。まぁ飲め。味は悪くはないはずだ」


とりあえず俺は、もう一人のセシリア?を説得して今は部屋に来てもらった。

『あの子を好いている人の提案を断るのはよくない』と渋々だが、了承してくれたが……セシリア、本当にありがとう。またお礼はするからね。


『……苦い。私、苦いの嫌い』


「なに?この味の良さがわからないのか?」


『……そんなの知らなくていい。これ、飲めない』


「むむっ……い、致し方あるまい……」


その苦さがいいのになぁ……と思いながらも、俺はそばにあったものを彼女のコーヒーに入れる。


「私は好かんが、もう一口飲んでみろ。貴様でも飲めるはずだ」


『?……毒入れた?』


「そんなわけがなかろう。なんなら私が飲んでやろうか?」


『……』


怪訝そうな顔をしながらも、彼女は再びコーヒーを飲む。


『……さっきより美味しい。魔法かけた?』


「ただミルクを入れただけだ。カフェオレというものだが、これを好んでいる者もいるらしい」


『…………それちょうだい』


「むっ?あ、おい……!」


そんなドバドバって入れたらコーヒーの意味が……!?


だが、俺の忠告を聞くことはなく、もう一人のセシリアはめちゃくちゃミルクを入れたコーヒーを一口飲む。


『……これがいい』


「き、貴様……最早それではコーヒーではなくミルクがメインではないか……」


たまにいるよね。コーヒーに物凄い量のミルクを入れる人。

……この子、そういうタイプなのね。


実際にその光景を見て若干ドン引きしながらも、俺は自分のコーヒーを飲む。

……やっぱりセシリアが淹れてくれた奴が一番美味しいな。


『……それで……私と話をするってなに?』


さっきまで美味しそうにカフェオレを飲んでいたのが嘘のように彼女は静かに圧を出す。

そんな彼女に心の中では少し怖いと思いながらも、ヴァイスは特に臆する様子はない。


「言葉の通りだ。貴様と話す。ただそれだけだ」


『……化け物だと言われてた私を?』


「貴様の昔の話など興味ない。私が知りたいのは今の貴様だ」


『…………変な奴』


その言葉で観念したのか、それ以上何かを言うことはなくなった。さて、これで色々と質問できるな。


「ではまずは名前だ。名をなんと言う?」


『……名前なんてない。そんなの忘れた』


「なに?名前がないのか?」


はへぇ……やっぱりそういうものなのか?まぁ気を取り直して他のことを聞いていこう。


その後、俺は彼女に気になることを質問を続けた。


「好きな食べ物は?」


『……生き血?』


「こっわ」


本物の吸血鬼のような回答を貰ったり。


「暇な時は何をする?」


『……基本、寝て過ごす。あと……あの子の中にいた時は、物語を考えてた』


「ほぉ、意外だな」


意外な趣味を発見したり。


「そうだな……生きてきた中で一番印象に残ったことは?」


『…………セシリアを弄んだあの男、いつ八つ裂きにしようと思ったか』


「うわぁ……」


ラルトが想像以上に嫌われていたかが分かったかなど……色々分かった。


(……ふむ。とりあえず分かったことはこれぐらいか。常闇の吸血鬼に関与している割には随分と人間臭いな。まぁそっちの方がいいが)


『……こんな質問、意味あるの?』


すると、いい加減痺れを切らしたのか、彼女は目つきを鋭くさせてそう問いただしてきた。セシリアのはずなのに、彼女とは表裏一体に思えるその表情を見てやっぱり思った。


(……この子も、一人の生きてる人なんだな)


そんな感想を抱きながら、俺は答える。


「あぁ。貴様のことを知れるからな」


『……何度も言ってる。私のことなんかどうでもいい』


「貴様がよくても私がよくない」


『…………なぜそこまでして拘る?私如きに時間を無駄にしたいの?』


「時間を無駄に、か。貴様にとってはそうかもしれんが、私にとっては無駄ではないのでな」


セシリアに頼まれたからね。そんな意図が伝わったのか、初めて彼女は怒りとは違う困惑の表情を浮かべた。


『……意味わからない。理解が追いつかない』


「……一つ気になったが、だったら貴様はなんのために生きてるのだ?自分のことなどどうでもいいなら、なぜここにいる?」


『そんなの決まってる。あの子を……セシリアを守るため』


その目は本気であった。虚だった瞳が、セシリアを守るという発言を言った時、使命を抱いているそれに変わったのだ。


『あの子は、生まれた時からずっと不遇だった。力があった私は外敵から守ることはできても……その心を癒すことはできなかった。その方法を、今も私は知らない』


「……」


『……でも、あの子には幸せになったほしい……だったらせめて自分にできることを……この力で彼女に寄ってくるハエ虫を散る——それだけが、私が生きる目的だ』


「……そうか。なら、貴様はこれからも見守り続けなければならないな」


『?』


「だったら貴様、これからも私のことを監視をしていろ」


『……は?』


……多分、この子には俺もセシリアにも知らない何かがある。それを俺が救ってみせる、なんとかしてみるなんて無理だ。

だったら……今俺がやれることをやればいい。


『……貴方、自分で何言ってるか分かってる?貴方は、セシリアに認められた。なのに、私がすることなんて』


「事件は起きてからだと遅いのだ。だからこそ、監視というものが必要になる。貴様のような強者にな」


『…………貴方の考えてることが、わからない。結局は、何をしたいの?』


「……そうか。なら直接言ってやろう——貴様、これから表に出て私たちと共に過ごせ」


『……』


意味が分からないとでも言ってるような表情をしてるな。そりゃ、今まである意味孤独だったのに一緒に暮らせって言われたら意味わからなくなるか。


『……いみ、分からない……ほんとに……わからない……』


「……そういえば、まだ名前を決めていなかったな。早速今ここで決めると——」


すると、突如として辺りが明るくなった。なんだと思っていると、目の前にいたセシリアが元の姿に戻った。


あ、あれ?もしかして……失敗した?


「せ、セシリアよ。まさか失敗してしまったか?」


「……いいえ」


俺の言葉に首を横に振り、彼女は穏やかな表情を浮かべた。


「……やはり、ヴァイス様に頼んで……出会えて、本当に良かったです」


「む、むっ?」


成功、したのか?よく分からないまま、俺は頭の中で考えるのであった。





(……きっと、私以外の人に初めて対等に扱ってもらったのが、嬉しかったのでしょう。ただその感情が分からなくて……ふふっ、本当にこの方は凄いですね)


心の中に手を置きながら、セシリアは戸惑っているヴァイスを見る。


(私はこの方に救われました。だから貴方も……きっと、救われますよ。たとえ、吸血鬼の血を引いていようと……絶対に)


「……あの者の名前はなんというのだ?」


「あっ……ふふっ、そうですね。では、私たちで一緒に考えましょうか?」


「う、うむ……」


……そう。この不器用な優しさを持つヴァイス様なら。









《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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『会社にクビと宣言された俺が登録者500万人以上の独占欲の高い配信者に拾われる話』


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