第22話 悲しみと憎しみの狂変


その空間にいる誰もが唖然としていた。

ラルト達はセシリアが生きていたという事実に対して。

リオネッタは彼女から感じる不可思議な魔力に対して。

そして……セシリアはラルトの前で血を流し、倒れ込んでいるヴァイスに対して。


「ヴァ、ヴァイス、さま……」


彼女はヴァイスの名前を呼びながら、徐々に彼に近づいていく。

先ほどまで軽かった足取りは、重りのように重く、距離はそう遠くないはずであるが、セシリアがヴァイスに辿り着くのに数分の時間が経過した。


「……ち、ちょっと。なんであいつが生きてるのよ。魔王ヴァイスにやられたんじゃないの?」


「わ、私に聞かれても……なぜ彼がセシリアを生かしていたのですか?」


完全に死んだと思っていたエミリーとカーミヤにとって彼女が生きていたという事実は受け入れられなかった。

それもそのはずだ。もし彼女が生きているのであれば、自分たちにとって都合が悪い。なによりまたラルトが狙われる……そんなことが脳裏に浮かんだのだ。


「せ、セシリア?生きてたんだ。よかった……よく耐えてくれたね。魔王は倒したから早くかえ……」


正気に戻ったラルトは彼女に声を掛けて手を差し伸べるが……セシリアが彼の手を取ることはなかった。


「え?」


彼女を知っている誰もが驚いた。今のセシリアはまるで彼に眼中がないようであったのだから。


「治さなきゃ……」


その声にも感情が篭っておらず、セシリアは身体を屈み、光魔法の一つである癒しの魔法をかける。

だが、治癒をしているにもかかわらず、ヴァイスの傷が塞がることはなかった。


「な、なんで?傷が塞がらない……?ヒール……!ヒール!ヒール!ヒール!!ヒール!!!」


何度も、何度も彼女は治癒の魔法をかける。自分の魔力である光の魔法が闇魔法の適性を持つヴァイスには効かないとわかっていても関係ない。


魔王を回復させようとするセシリアの行為に全員が再び唖然とした。リオネッタでさえもそれは同様だ。


だが、すぐに正気を取り戻したラルトはセシリアに声をかける。


「やめるんだセシリア!そんな奴の傷を治してどうするんだ!!復活すれば世界が滅ぶんだぞ!!」


彼はセシリアの手を無理やり掴もうとする。


「離して!!!!」


「ッ!?」


だが、彼女はラルトの手を振り解いた。反論しようとするラルトであったが、セシリアの目を見て言葉が出ることはなかった。


彼に向けられたセシリアの憎しみに篭った瞳。そんな目を他人から、特にセシリアから向けられると思ってもみなかったラルトは怯んでしまったのだ。


「ヴァイスさま……!ヴァイスさま!!」


涙を溜め、一心不乱に名前を呼びながら再び治癒を始める。だが、傷が塞がることはない。


「なんで傷が塞がらないのですか……!?また私から奪うのですか!?お願い……お願いだからこの人だけは……ヴァイスさまだけは奪わないでよぉ!!」


まだ流れ続ける血を見て彼女は叫ぶ。何もかも奪われた子供のように。理不尽に振り回された幼子のように。

聖女の立場など関係ない。今の彼女にとってヴァイスを失うことは自分の心が崩壊するということと等しかった。


「ヴァイスさま!!!ヴァイスさまぁ!!!!」


「……エミリー」


だが、そんな彼女の命を狙う者がいた。

カーミヤは剣を持ち、標敵をヴァイスからセシリアに変え、同時にエミリーもまた彼女に魔法を放とうとする。


「な、何をしようとしてるんだ二人とも……?」


「……ラルト。そいつは魔王を復活させようとしている悪魔よ。もう私たちの知っているセシリアじゃないの」


「最悪な状況を防ぐにはこれしかありません。心が痛むと思いますが……どうかお許しを」


なんの迷いもなく、彼女たちは攻撃を仕掛けた。

セシリアの心臓目掛けて迫る剣と、彼女の身体をズタズタに引き裂かんと言わんばかりに放ってくる雷の刃がセシリアに迫った。


「ヴァイスさまあぁあああああああ!!!!!」


……だが、そんな二人の攻撃はセシリアに直撃することがなかった。


「がはぁ……!?」


「ッ!?ぐっ……!」


瞬間、セシリアの地面からとてつもない黒い魔力が溢れ出た。

直撃したカーミヤは吹き飛ばされ、自身の魔法を掻き消されたエミリーはその風圧に怯む。


「……なんですか、あれは?」


黒い何かは鎮まり、そこにはセシリアと思わしき人物が立ち尽くしていた。

黒く荒んだ赤き瞳から涙を流し、表情からは感情が消え失せる。光に身を纏ったオーラは反転し、深淵の黒い薔薇が咲き始める。


黒の装束に身を包み、彼女は立ち上がり、ラルト達の方に視線を向けた。


その瞳の奥には……言葉では表せないとてつもない悲しみと、地獄の業火が生温いと感じさせる果てしない憎しみが存在していたのだ。







《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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