――卵かけご飯の恐怖――

 昔の人は、栄養を付けて元気になるには、取りあえず、卵と云うような凝り固

まった考えがあったのだろう。


 生卵の記憶は、まだ叔母おば達が結婚前で家に居た頃だ。

 と云う事は、上の叔母おばの秀子が昭和三十三年に結婚だから三歳になる前の記憶だろう。


 叔母おば達は、私が大人になってからも会う度に、ご飯を余り食べない私に栄養を付け

るため、どれだけ苦労して卵かけご飯を食べさせたかと言う話をした。


 「は~い、コッコちゃん卵よ、はい、コッコッコ…コッコッコ~」と言って、スプ

ーンに卵かけご飯を入れて追いかけて来た。


 私は、あのヌルヌルした生臭い生卵が大嫌いだった。


 無理矢理、口を開けさせられて、一口入れるだけで、吐き気がした。

 その場で吐き出すと、お茶碗から吐き出した卵かけご飯を、そのまま、すくって

又、口に押し込められた。


 その気持ち悪さから、食べたふりをするため、口に含んだまま、フラフラ歩き回

る振りをして、縁側から庭に吐き出したり、勝手口の土間に吐き出したり、ゴミ箱や

台所の流しに吐き出しに回った。


 それが、ある時にバレて、余計に厳しく監視され、口に入れられた後、「あ~ん、

してごらん」と口の中を検査された。


 口に入った途端に気持ち悪くなり、噛まずに、ご飯を丸呑みしたが、飲み込むの

には苦労した。子供用の小さいお茶碗だったが、一杯分を食べるのが拷問だった。


 最後の方は、飲み込む度に、涙が溢れて来る。

 目に涙を浮かべているのを見た叔母おば達は「嫌やわ、そんな嫌?これ食べな元気になれへんよ」と言い、


 「ホラ、ホラ、コッコちゃん卵よ、はい、コッコッコ…コッコッコ~」と言いなが

ら、食べ終わるまで追いかけて来た。拷問だった。


 そんな辛い思い出を、叔母おば達は、自分達が卵かけご飯を食べさせたおかげで私が、大きくなったように自慢し続けた。


 勿論、今でも生卵は食べられない、半熟卵も苦手だ。

 そのため、すき焼きも食べられない。生卵を付けなくても、すき焼き自体も牛肉

も嫌いになった。 

 半熟卵を使った、親子丼などの丼物もトロトロのオムライスなども食べられない。


 最近では、ハンバーグやステーキなど、何にでも半熟卵が乗っている料理が多

い。 

 困った事に、それだけで気持ち悪くて食べることが出来ない。


 70歳になろうとする今でも、テレビのグルメ番組などで、生卵や卵が乗った料理

を見るたびに吐き気がする。

 卵かけご飯なんて、とんでもない。見るのも気持ち悪い。


 どうして、日本人は、卵がここまで好きなんだろう?と思ってしまうと同時に、半

煮えの卵や生卵が食べられないことによって、世間を狭くしているようで情けなくな

る時がある。




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