第四章:残ったもの

誰もいない図書館。

ページのめくられない本たちが、眠っている。

 

誰もいない美術館。

色彩は時間を超えてなお、静かに輝いている。

 

誰もいない劇場、誰もいない市場、誰もいない学校。

けれど、そこにはまだ、人の痕跡が残っていた。

 

子どもが描いた「おうち」の絵。

抱きしめられたままのぬいぐるみ。

洗いかけの皿、書きかけの手紙。

どれもが、誰かが確かに生きていた証だった。

 

その“誰か”はもういない。

けれど、消え去ったわけではなかった。

人間という存在は、この世界の隅々に、今なお染み込んでいる。

 

それは、祈りのようでもあり、

悔いのようでもあり、

そして、愛に似ていた。

 

そんな静けさの中。

かつて“希望”と呼ばれた存在が、

今もまだ、世界のどこかで揺らめいている。

 

光の粒となり、風とともに舞う。

誰に触れられることもなく、

誰を裁くこともなく、

ただ、そこに在るだけ。

 

それは“祝福”ではなかった。

けれど、“呪い”とも言いきれなかった。

 

それは――人類の、願いのかたち。

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