第7話 クソ親


「ただいマンモスのすね毛~」




いやー、本当ならあと何時間も前に家に帰れたたのになー。ソシャゲのログイン済まさないと。


そう思っていた矢先、廊下の奥からパタパタとスリッパを激しく地面にたたきつける音が聞こえてくる。


あーこれめんどくさいやつだ。




「塁くーん!うう、お姉ちゃん不安だったよー」




「姉さん離れて」




「やーだ。お姉ちゃんは塁君成分摂取しないと死んじゃうのー」




グググ!!


僕の身体が姉さんに締め付けられる。


ヤバい血液が…止まる!!


僕は長年の姉さんホールドの対策のために生み出した脱出法でヌルっと抜け出す。




「あーん、もう!塁君たら い け ず☆」




なぁーにが 「い け ず☆」だ。




「怜、あなたは4年後頭首になるのですからそのような行動は控えなさい」




奥から現れたもう一人は僕の………母さんだった。


僕のことを嫌い。血のつながった家族でありながらも僕のことを他人のように扱う。


ちなみに姉さんの名前は怜。神白怜。


ちょうどこの前、神白家頭首『神白力策』つまり、僕の父さんを姉さんが倒し頭首になることが確定した。もともと姉さんはこの家では一番といっていいほど権力が強い。僕がこの家で普通の生活が送れているのも姉さんのおかげだ。




「それに、そんな出来損ない………」




母さんがボソッと僕への罵倒をつぶやく。


その声を姉さんは聞き逃さず母さんに近づいて行った。




「お母さん、塁君を出来損ないなんて呼ばないで」




姉さんがすごい剣幕で母さんを睨む。


そしたら母さんはバツが悪そうに何も言わず去っていった。




「……ごめんね塁君。変な空気にしちゃって」




「いや、僕は別に気にしてないから……」




嘘である。


正直、めちゃくちゃ気まずい。


そもそも姉さんはなぜ僕にこんなに優しくしてくれるのだろうか。


姉さんは普通の異能力者よりも霊力が以上に多い。それも普通の異能力者数十人分の霊力を保持している。もしかしたらその霊力はもともと半分くらい僕のだったのかもしれない。


姉さんは僕が生まれる前までは霊力の量は普通だったらしい。しかし僕が生まれたらその量は何倍にも増え、今に至る。


昔、僕がなぜ自分には霊力がないのかと一人で泣いていた時に姉さんが「ごめんね」と何回も言いながら抱きしめて一緒に泣いていたのを覚えている。


もしかするとこのやさしさは姉さんなりの罪滅ぼしなのかもしれない。


けれど今となっては何とも思っていない。


確かに霊力があればもっと楽しい人生を送れたのかもしれない。しかしそんなことを考えたって意味はない。


これが、これこそが、現実なのだから………。




          ◇




 夜中、僕は一人で暗くなった道を歩いていた。


あの後、ご飯を食べたりラノベを読んだりしたけれど心の中にあるモヤモヤは無くならなかった。


こういう時、僕はいつもこうやって一人外に出る。


星がきれいだ。といっても一等星しか見えないけど。頑張って二等星あたりだ。


たまにはこういう何も考えず、ただぶらぶら歩くってのもいいじゃないか。


適当に歩きながらふと周りを見ると僕の見知った場所の近くだと気づく。


あ、ちょうどいいか。


僕が入ったのは家から少し離れたところにある神社。氷室神社に来た。


少し先の方に行くと小さめの鳥居が見えてくる。


そしてそのもう少し奥の小さい社の上に座る少女が見えた。


月の光が反射して銀色に輝く髪。そしてその要旨とは全く似つかわしくないもの、日本酒を持っている少女が見えた。日本酒がなければムードとしてはよかったのにな。


その少女は月を静かに見上げていた。風で靡く髪がより一層綺麗だ。


僕が鳥居をくぐるとその少女はこちらに気づく。




「誰じゃ?儂の域に踏み入るものは」




ちょうど僕の顔が影で見えないのだろう。


僕は一歩前に進み、月明かりで顔を照らす。




「なんじゃ塁坊じゃないか。どうしたんじゃこんな夜中に」




この人は僕の知り合いで、僕の理解者である。


この人はツキ様。神様である。


神様というと、皆キリストのようなものを思い浮かべるがこの人はガッツリ『ロリ』なのである。


この方とは割と長い付き合いで、昔お参りでこの神社に来た時、賽銭が少ないって文句を言ってるのを見たのがきっかけだった。それからというもの、神が視える人間は珍しいのか僕にしつこく話しかけてくるようになり、当時の僕は力を欲していたことも相まってこの方に剣術を教えてもらうことになった。


だから僕はこの人を師匠と呼んでいる。




「お酒の飲み過ぎは体に悪いですよ」




「神を侮るでないぞ。この程度じゃ屁でもないわ」




へーじゃあ、いくら脂っこいもの食べても筋肉の質が落ちないってことか。便利だな。




「で、じゃ。お主は何しに来たのじゃ?」




「いやまぁちょっと…」




僕が目をそらすと師匠は目を細め僕を見つめる。




「またあの愚親に何か言われたか」




やはり神様。鋭いな。


ちなみに師匠の見た目はロリだけれど全部の神様がそうではない。


師匠が珍しいパターンで普通なら人の姿はしていないらしい。蛇とか鹿とか、そもそも立体じゃないとか。




「筋トレですよ、筋トレ」




「ハッそうかい」




「そうですよ」




僕は地面の小石をどかし、なるべく滑らかな地面を作る。




「カゲロウ、『負荷』」




そしてカゲロウに命令を出す。するとカゲロウはマフラーの形から全身に纏うようにして広がっていき徐々に体にとてつもない圧力がかかる。いつものルーティンだ。


体に負荷をかけ肉体を鍛える。これぐらいしないとモノノケを、あの悍ましい存在を、己の拳で打ち砕けるだけの絶対的な力は決して手に入らない。




「さてと」




深く息を吸い込み、僕はまずアームカールを始めた。カゲロウをバーベルに変えて質量を構築しているから相当な重さだ。筋肉が悲鳴を上げる寸前まで追い込み、ゆっくりと下ろす。血管が浮き上がり、握る手に汗が滲む。頭の中には、あの蜘蛛型のモノノケを右ストレートで吹き飛ばすイメージが鮮明に焼き付いている。一回、また一回。数を重ねるごとに、腕の筋肉がパンプアップしていくのを感じる。


 次はスクワットだ。少し陰陽炎の負荷をあげ、深く腰を下ろす。太腿の筋肉が限界に近づき、プルプルと震え始める。立ち上がるたびに、全身の血が沸騰するようだ。かつて母に「そんなに鍛えても意味がない」と言われた言葉が脳裏をよぎるが、僕はそれを力に変える。




意味がない?そんなことはない。




この鍛え抜かれた肉体こそが、異能を持たない僕の唯一の武器なのだから。


 スクワットの後は地面に寝転がり、腹筋運動に移る。上体を起こすたびに、腹の筋肉が硬く収縮する。単調な動きだが、気を抜けばすぐに楽をしてしまう。意識を集中させ、一つ一つの動きを丁寧に行う。過去には、腹筋が痙攣して動けなくなるまで続けたこともあった。


 最後に腕立て伏せだ。。床に手をつき、体を一直線に保つ。ゆっくりと体を下ろし、床ギリギリで再び押し上げる。大胸筋、三角筋、上腕三頭筋、全身の筋肉が連動して動く。回数を重ねるごとに、腕が重鉛のように感じられる。額から汗が滴り落ち、地面に染みを作る。




「ハァハァ、カゲロウ『サンドバック』」




カゲロウが形状をサンドバックに変える。




「師匠、ここの社ちょっと借りますよ」




師匠はさっきから僕の筋トレを見ながら酒を飲んでいる。




「壊すなよ」




よし師匠から承諾を得たから仕上げはこれだ。グローブをはめ、呼吸を整える。脳内でイメージした右ストレートを、渾身の力で叩き込む。鈍い衝撃が拳を通じて全身に響く。何度も何度も、狙いを定め、力を込めて打ち続ける。時には、血管が切れそうになるほどの痛みが走るが、決して手を緩めてはいけない。


息は上がり、体中が汗でびしょ濡れだ。しかし、その疲労感の中に、確かな充実感があった。今日もまた、昨日の自分よりも少しだけ強くなった。


 壁に凭れかかり、荒い息をつきながら、塁は静かな夜空を見上げた。満月が優しく 僕の汗ばんだ顔を照らしている。まだ、道のりは遠い。それでも、諦めるわけにはいかない。この鍛え抜かれた肉体と、決して折れない意志がある限り、僕は前へ進み続けるだろう。




あ、やべちょっと壁凹んだ。

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