壱の章:帰還、白猫は机上に眠る

第6話 吾輩は、今日も眠い

心地よい揺れを感じながら寝ていたら、いつの間にか探偵社に戻ってきていた。


初任務。猫になる以外何もできないと思っていたけど、村の人に『ありがとう』って言われた。

はじめての気持ち――ちょっと胸の奥があったかくなる。

うーん、やっぱり、深く考えるのはやめとこう。

だって眠いんだもん、仕方ない。


「吾輩は――猫である」


そうつぶやくと、まりこは大きくあくびをして、再び机の上で丸くなった。


「お、おい! また俺の机を占領しやがって!」


後から現れた国木田が、いつものように声を荒らげる。

太宰も敦も、猫だから…と見て見ぬふり。


太宰「良いじゃないかぁ、国木田くん。まりこちゃんは君の机がお気に入りなんだよ。あぁ私も猫になってみたいものだなぁ」

敦「そうですよ、国木田さん。まりこちゃんのご機嫌を損ねたら、猫パンチ食らうこと間違いなしです……」

国木田「もしかして敦、やられたのか?」

敦「いや、僕じゃなくて、太宰さんが――」


国木田は、はぁ……と深いため息をついて、まりこと距離を置くように別の席へ座った。

当然『理想』通りには、猫は動いてくれない。


敦「鏡花ちゃん? なんか固まってるけど、どうしたの?」

鏡花「まりこ……もふもふ、かわいい。私も、触りたい」

太宰「あら? 鏡花ちゃんも、猫ちゃんには弱いんだねぇ」


眉間にシワを寄せる国木田の横で、鏡花はまるで大好きなクレープを眺めるように、瞳を輝かせていた。


与謝野「なぁ、鏡花。そんなにまりこが気になるんなら、次の任務に連れて行くのはどうだい? 名案だろう?」

鏡花「はっ! その手が!」

敦「与謝野さん、ナイスです!」

国木田「あぁ、早く連れてってくれ……俺の仕事が溜まらないうちにな」


鏡花は早速、福沢に直談判。

しかし福沢に理由を問われると、「仲良くなりたいから」とは言えず口ごもった。


福沢「ふむ、鏡花とまりこは歳も近い。同行は構わない。――ただ、ひとつ条件がある」

鏡花「条件……」

福沢「『夜叉白雪』は封印してくれ。それと、二人だけでは危険だ。敦も同行させる」

鏡花「分かった。約束する」


「可愛い猫には旅をさせよ、か――」


福沢はひとり、会議室でぽつりとつぶやく。


鏡花が戻ると、まだまりこは夢の中。

静かに寝息をたてる真っ白な毛並みを、優しい眼差しで見つめる鏡花。

目を閉じた猫に、そっと心の中で言葉をかける。


「……次は、私が隣にいるから」


そのとき、猫の耳には何が聞こえていただろうか。

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