第91話

「王都の方がやっぱり品揃え良いのな」


 ハリスト道具店で家具をまとめて購入した俺は、レッグポーチぱんぱんにして王都のクランハウスに向かっている。

 そして4階建てのクランハウスが見えてきたところで、何人かの人が建物の前に集まってるのが見えた。


「あのー、何か用ですか?」


「おっと、君は……まさかS級冒険者の」


「あ、はい。ルイです。ここはそのクランハウスなんですけど、何がありました?」


 何人かいる内の、青い髪と瞳を持つ男がなるほどと頷きた。


「そう言う事か。いや、一日で急に出来た建物だから、不気味だし何かいるのではないかと言われててね。調査に来てたんだ」


「うわ、マジか。すみません、配慮がなってなかったです。ただ建物自体は普通なんで心配はないですよ?あ、もし心配なら見てきます?」


「いいのかい?ならすまないがお邪魔するよ」


 周りの人達は心配そうに青髪の男を見ているが、男は気にした様子もなく微笑んでいる。


「んじゃどうぞ。……あれ、他の人達はいいんです?」


「あぁ、彼らも忙しいからね。ここは心配いらなそうだし他の場所に行ってもらってる」


 そうですか、と返してから建物に入り、内部を軽く案内していく。


「まだ何もないんだな。でも良いクランハウスだね、住みやすそうだ」


「守護星の一人であるジークさんにそう言われると自信つきますね。ここ俺が作ったんですよ」


 と、ここらでお互いネタバレすると、男ーー守護星ジークは目を細めて笑った。


「なんだ、バレてたのか」


「以前依頼先でたまたま遠目に見まして。元冒険者の守護星ジークさん、お会いできて光栄です」


「ふふ、こちらこそ。自己紹介が遅くなってごめんね。騙す気はなかったんだけど、変に畏まられたくなくてさ」


「あー、少しなら気持ちは分かりますよ。俺も敬意は払っちゃいますし。ですが冒険者の先輩としてってのも大きいですし、これくらいの対応で許されますかね?」


 冒険者同士ならある程度緩い話し方でも問題ないしね、と含ませる。

 捉えようによっては無礼な俺の発言にも構わないよ、と笑った。が、次の瞬間にジークから気力が満ちる。

 別に戦闘モードという訳ではなく、単純に隠蔽していた覇気が戻ったというだけだ。


「………。で、調査の方は大丈夫そうです?」


「うん、問題ないよ。まぁ次からは一声かけて制作してくれると助かるよ」


 了解ですと頷き、せっかくだからと机と椅子をポーチから出して、お茶と菓子を置く。


「少し休憩していっては?他の人達も今頃休憩してるでしょ」


「ふ、そうだね。今頃ファンネルさんの店でご飯でも食べてるんだろうね。羨ましい」


「ファンネル……あぁ、デリンジャから王都に護衛した…うわ懐かし。繁盛してるんですね、良かった良かった」


「あぁ、知り合いかな?あの人行動力あるから色んなとこに飛び回ってるしね」


 それからファンネルさんの話や料理の話になり、なんか盛り上がってきてしまったからドラゴン燻製肉やらも出して食事がてらの会話となった。


「ほほう!ルイは料理が上手だね!あはは、これはファンネルさんも食いつく訳だ!」


「聞いた感じだと俺が渡したレシピを更に改良してるっぽいすね。さすが商人、探究心がすごいっすわ」


 俺も更に敬語を崩して話すようになり、ジークさんも俺を呼び捨てになった。

 予想外に馬が合い、ケラケラと笑いながら食後のお茶を飲む。


「あ、そういえばルイはセレスティーヌ殿下につく事になったらしいね?」


「あー、ですです。ほら勇者ローズマリーいるでしょ、その子が殿下と仲良くてっすね。兄としては妹の頼みを聞いてやらないとなーって事で、政治関係は正直面倒ですけど、まぁ手を貸すことになったんすよ」


「ふはは、継承権争いに飛び込む理由が妹の為か!過保護だなルイは」


「それ最近めっちゃ言われる……やっぱもうちょい放任した方がいいんすかね?」


「どうだろうな。まぁ見守らなくてはいけないタイミングでちゃんと手出しせず見守れたら良いんじゃないか?」


 おぉ、良い事言うねぇジークさんや。


「あ、でもジークさんも過保護っすよ。俺が敵だったりこの建物に何か仕掛けてるかもって警戒して、さっきの人達逃したんでしょ?」


「あははは!そうかもな!だけどいくら兵士とはいえまだ新人だしね。君相手には荷が重すぎるさ」


「これでも平和的な性格してると思うんすけどねぇ……」


 手出しされなきゃ何もしないってば。

 

「そのようだね。君の気配は穏やかだ。とてもあの『古代獣王』を倒したとは思えない程だよ」


「あー……あれも目的の為に仕方なくですからね。戦いを求めて、とかのアグレッシブな理由じゃないっすから。ジークさんもじゃないすか?確か大規模スタンピードをほぼ一人で全滅させたとか聞きましたけど」


 いやもう都市伝説とかレベルの話だよね。でもそれがあり得るのがこの世界の強者であり、守護星なのだ。


「あぁアレね。もう思い出したくないよ、潰しても潰しても湧いてくる魔物の群れに辟易したもんさ」


「だはははは!それ飽きてるだけっすよね!実力的には余裕なんじゃないすか」


 ケラケラ笑い、お茶を追加する。

 美味いと笑ってから、ジークさんは目を細めた。


「せっかくだし聞いていいかな。君は王国をどうするつもりだい?もしくはどうしたい?」


 ピリッと首筋に走る感覚は、何度か経験した事で理解した。危険を感じた時に走る感覚で、おそらく『超感覚』による影響だろう。

 まぁそれはともかくとして。


「王国を、ね。ジークさん……その、なんか真面目な空気のとのすんませんが、マジでどうでもいいし好きにしてくれたら良いっす…」


 俺の知り合い達が無事なら、ね。


「……ふ、そうか。実に冒険者らしいな」


「あ、それでいうとジークさんはS級じゃなくて守護星になったんすよね?なんか理由とかあるんすか?」


「いや理由も何も、普通はS級より守護星や爵位の方が嬉しいからね?自由は減っても金や名誉は増えるしさ」


 あー、そういう感じか。でもなんかこの人は違う気がするんだよね。言うだけで自分も魅力を感じてないのに、あえてそう言ってるようなズレを感じる。建前みたいな。


「金はともかく名誉はね……あれば便利なのかも知れないんすけど、その分の責任がなぁ……」


「ふふ、同感だよ。たまに私も討伐にでも出て思い切り暴れたくなるしね」


 やっぱりストレス溜めてるじゃん。そう考えたら守護星も大変だよなぁ。


「それなら魔王軍と戦う時は思い切りストレス発散しないとっすねー」


「だねぇ。四天王オウガスはルーク君に取られちゃったしさ」


「あー、ありましたね。アレもやっぱルークさんの成長の為ですか?本当ギリギリ勝てるくらいの格上でしたし」


「あ、やっぱりバレるかい?グレゴリーさんのお願いでね、断る訳にもいかないからさ」


「出た、王国最強。一回会ってみたいっすわ」


 現在守護星の3人よりも強いとされてるグレゴリー護国卿にして、ルーク卿の父親。


「良い人だよ。戦う時以外は穏やかだしね。だいぶ歳は重ねて体力は落ちてるけど、魔法だけで一軍を退けるし、剣もいまだにルーク君より上だしね」


「すっげ……絶対手合わせとかしたくない」


「ふははは!君はルーク君やブライアン君とも戦ったそうだね。私とも一度くらい戦うかい?」


「勘弁してくださいよ。やりたくてやった試合なんて一回もないんすからね?俺は妹や仲間とのんびり暮らせたら満足っすよ」


 いや本当に。なんで色々起こるのかな。まだ帝国や魔王も控えてるしさぁ。


「まぁ気持ちは分かるよ。私も王城でのんびりルーク君やリーゼさんとのんびり茶を飲むのは嫌いじゃない」


「あー、守護星リーゼさん。陛下の妹さんでしたっけ?」


「そうそう。王位継承権を子供のうちに自分で放棄して放浪、王国に戻ってきたら守護星になる実力になってるという変わり者さ」


 変わり者も限度があるだろ。どんな王族だよ。


「行動力振り切れすぎでしょ。絶対変人っすよね、会いたくないなぁ」


「あははは!素直すぎるでしょ、本人に言わないようにね?あ、でもリーゼさんは会いたがってたよ」


「えぇ〜〜〜!」


 嫌な予感しかしねぇ……。


「まぁこう言ってはなんだけどね、諦めなよ。お披露目の時に絡まれると思うよ」


「気配制御で逃げれねぇかな……」


「無理だろうね。ほら、一度ルーク君に王城で捕まっただろ?あの時もリーゼさんにバレてたし」


 ぐぁああマジかぁ。本当対応してくれたのがルーク卿で良かったぁ。


「あ、ちなみに魔王軍の幹部に一人リッチの強いのがいるみたいっすよ。公爵級、って言い方で伝わります?」


「伝わるよ。そうか公爵級のリッチか……それだけで国家の危機レベルだね……これはルーク君だけじゃ無理だな。もしかしたら守護星全員出陣かも知れないね」


「ただでさえリッチは面倒くさいですしねぇ。まぁうちのクランメンバーが割とやる気なんで、こっちで片付ける可能性もあるんすけどね」


 俺を魔王にぶつけない為に戦ってくれるという。

 ありがたい話だ。シヴァ様は俺と生きろと、メンバー達は人として生きろという。

 俺だけが揺れてるんだよな、情けない。


「それは助かるよ。私たち守護星は基本的に王城、そして王都の守護が任務だからね。そうやって自由に動ける戦力の『王』級がいてくれると安心だ。できたら『悪食』も味方につけたいけどね」


「あぁ、『悪食』も『王』級って知ってたんですか?」


「まぁね。そういえば風の噂で君の暗殺を『悪食』に依頼したと聞いたけど本当かい?」


「そうなんすよ、マジなんすよ。まぁ向こうもそこまでやる気なかったから普通にさよならしましたけどね。ただ第一王子の教育見直してくださいよ」


 金と権力を持つバカ程困る相手はいない。本当頼むよ。


「あらら、ジェラール殿下はオイタが過ぎるね。ただ内緒にしておいて欲しいんだが、殿下はそろそろ国王陛下から罰がくだると思うよ」


「お、やっとですか。それでパトリック殿下が王になるんすね。過激派とかいう派閥でしたっけ?」 


「お、詳しいね。さすがシンシア嬢だね」


 ごもっとも。そしてそれらを当然のように把握している守護星もやっぱ怖いわ。


「もう対抗馬もないし、そうなる可能性が高いよ。そしたら戦争かなぁ……思い直して欲しいんだけどね」


「ですねぇ。戦争って民が疲れて一部の人間だけが潤うだけでしょ?今は平民の俺としては反対ですよ」


「私もさ。せっかくグレゴリーさんが戦争にならないようグランバルツで止めてくれてるのに、わざわざこっちが仕掛けるとか、ねぇ」


「ですね。軍が国内を出る前に俺が潰して、王都に叩き返そうかな」


「お、いいね。期待してるよ」


 ケラケラ笑って言うジークさんに苦笑いを浮かべる。この人冗談が通じすぎるだろ。

 

「あ、さっき一緒にいた人たちが戻ってきてますよ」


「ん?……本当だね。よし、そろそろ仕事に戻るよ。ありがとうね、ごちそうさま」


「いえいえ。また話でもしましょ。さしあたってはまたお披露目の時に」


「うん、そうだね。ではまたね」


「うす、お疲れでした」


 こうして二人目の守護星に合った訳だが、実に明るく社交的な人だったな。


 けどなぁ……ずっと首がチリチリしてたんだよね。


 これは多分敵意とかじゃない。純然たる危機に対しての反応だろう。


 ………あの人多分、『王』級だ。


 表面上は侯爵級だけどね。制御してるんだろう。

 意外といるなぁ、『王』級の人。

 さて、良い出会いで終われば嬉しいんだけとな。

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