凜々ルート

30話

凜々を助ける


俺は咄嗟に凜々を庇った。

凜々を押しのけて、その衝撃で尻もちをつく凜々。

「痛っ」

彼女を狙った刃は、俺の腹部を軽く擦れる。

破れた制服からは血が軽く流れて、ズキっと痛む。

切られた部位を抑える。

軽く薄皮が1枚やられた程度で、臓器には問題なさそうだ。

「凍子、なんでこんなことを!?」

「うるさい!あたしは元からこいつが嫌いだったの!それなのに、邪魔者がもう一人増えて、あんたはあたしに振り向いてくれない!だったらこうするしかないの!」

涙声で叫び散らす凍子。

涙は頬を伝い、コンクリートへとこぼれてそこに跡を残す。

こいつが俺のことを好きなのは当然知っている。けど、それでも俺は……。

「ごめん、凍子、紅葉さん。2人が俺に好意を示してるのは知ってる。だけど、俺が本当に好きなのは凜々なんだ。2人の気持ちには応えられない」

「っ!?」

キンっ!

ショックを受けた凍子はナイフを乱暴に投げ捨てて、ダッダッダと屋上から走り去っていった。

凍子を追うべきだろうか?

いや、今追いかけても火に油を注ぐだけだ。

それよりも今は。

「凜々、無事か?」

「健人ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして、ごめんな、押し倒して」

「ううん、助けてくれてありがとう」

凜々に手を差し伸べる。彼女は俺のその手を掴み、立たせる。

「えへへ、健人ちゃん」

「うん?」

「私もあなたが好き」

照れた表情で、凜々からの直球の返事。

勢いで凜々を好きだと言った自分の姿を思い出して、かぁっと顔が赤くなるのが、自分でもわかった。

「わたくしは邪魔ですね」

紅葉さんがそう言い残して、彼女も去っていく。

「…………」

「…………」

二人で見つめ合う。

照れてしまってかける言葉が見つからない。

「健人ちゃん」

「う、んっ!?」

凜々が俺の唇に自身の唇を重ねた。

時間にして10秒くらい。体感は1分くらい。

凜々から離れるまで、キスをしていた。

「これからも一緒にいてね」

紅く染った頬のまま、照れた笑みを浮かべる。

「こちらこそ、よろしくな」

「うんっ」


学園祭から数日後、まだ祭りのテンションが残って浮かれてる生徒たちは多い。

心無しか、男女で手を繋いで登校している生徒たちが増えた気がする。

まぁ、俺達もその一組だけど。

「えへへー、健人ちゃん」

「うん?」

「好きー」

「……俺もだよ」

当然のように俺たちは正式に付き合い始めたが、人前で好き好き連呼されるのは照れてしまって、左手で自身の頬をかく。

「ほんとにー?」

ジトーと上目遣いで疑いの眼差しを向ける。

「その、あれだ。大勢の前で好きって言われると、こそばゆいっていうか……」

「じゃあ、またキスしよー。今度は、大人がやるやつ」

「2人っきりの時にな」

「約束だよ?」

「おう」

あれ?この約束、安易に受けていいものじゃないよね?

気づいた時には時すでに遅し。凜々は満面の笑みで「2人っきりの時に、キースキース♪誰の目のない時に邪魔されずにー♪」とウッキウキでオリジナルソングを熱唱していた。

そんな恋人を横目で見ながら、俺はポツリとこぼした。

「守れて、良かったよ」

「何か言ったー?」

「恋人になった瞬間、わがままになったなって言っただけ」

「私ってもしかして重い?」

ずーんと表情が強ばる。

「いや、そういう意味じゃない」

「じゃあ、どういう意味!?」

「…………可愛さが増したなって意味………」

顔が暑くなったので、凜々とは反対方向を向く。

「健人ちゃん……」

「うん?」

お互い、相手の顔を見ない。

「これから先もよろしくね」

「……おう……」

こうして学校につくまで俺たちは無言だった。

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