第3話

魔族は基本的に、こちらから排除したり攻撃しなければ自らは何もしてこない。稀に膨大な力を持ち、物騒な考えの魔王が台頭すると争いになるが、その時は何故か必ず[勇者]が現れ魔王は討伐される。


魔族的には、ダメな王でも一応王だし従うしかないのでその時だけは敵になるが、基本的には人と全く一緒だ。


愚王は民衆の命を軽んじて飢えさせ苦しめる


人族も魔族も差異はない。むしろ強大な力を持ちなから、愚王の時以外は自分達の土地から出ず暮らしている。下手な欲に塗れた腐った貴族より常識的だ。


意識が逸れたが、

魔族に先に手を出して、エードランドが返り討ちにあった時、魔族とエードラントの戦いに、ナトゥーア王国の北部がいつ巻き込まれてもおかしくなかった頃、民を守る為に、ヴァルド国から騎士団を借り受けた。


騎士団長は、エストラゴンといい身の丈230のクマの様な大男だ。


エストラゴンは、私がゴルドファブレン王国にある学園に留学していた時、護衛兼親友として共に過ごした存在だった。


彼は途轍もなく強く、防衛の戦いの際、ナトゥーアの民をエードラントの民と見誤り、怒り狂って襲ってきた魔族の一団を、たった1人で殺さず撃破し無力化した後、傷ついた魔族兵を治療し、一団の頭を解放し、


「ナトゥーアは関係無いから巻き込むなと魔王に伝えろ」


と伝令に使った。その後こっそり魔王から謝罪の手紙がきたそうだ。


その手紙には[大魔神]の怒りに触れたと書いてあったらしく、それ以来、エストラゴンは大魔神と呼ばれている。


エードラントは魔族に手を出し、勝てる算段をしていただけあってそれなりに強く、戦いはその後もかなり長引いた。


魔族はナトゥーアに攻めては来ないが、何があるか分からないからと、騎士団が帰った後もエストラゴンと小隊が長らく残っていてくれた。


私とて、親友が居てくれるなら心強かったが

暇を持て余すのも何だなと、ハーレムの従者達に護身術や守る為の剣を教えて貰った。


教えて貰った剣を、芸術的な剣舞に昇華した者達も居た。強さに惹かれて騎士を目指したくなった従者も子供もいた。


エストラゴンが来て直ぐの頃に、5人目の息子が産まれた。産まれたら伝えろ、と北に行った大魔神と呼ばれた彼は、出生の知らせを受けると、疾風の如く産まれた我が子を見に来た。


今までも産まれていたけど、遠くにいたから直ぐに祝えなかったからと、クマの様な大男が小さな我が子を宝物の様に愛でていたので


「男の子だし、鍛えてやってくれないか?」

と、迂闊にもお願いしてしまったんだ。


「良いのか?俺は厳しいぞ?」

ニコニコしながら嬉しそうにしているから


「よろしく頼む。ただ、まだ無理だ」

と伝えたら、


「とりあえず、北の戦いが収束しないと不安が残るな・・・」

と言い


「3歳ごろからなら何とかなるかもな」

ちょくちょく顔を見に来るぞ!

と、颯爽と立ち去って行った。



長引いていた二国の争いはその後

一年半程で終わりを見せた



両者とも既に、引くに引けなくなり、魔族側は元々全てを滅ぼすつもりは無いし、いつまでもエードラントが絡んでくるから辟易し、このままだと、エードラントを更地しない限り終わらないなと感じ、どうしたものかと迷いながら構い続けていたところ、


少しづつ情報を集め、様子を見ていたエストラゴンがとうとう痺れを切らせて動いた。


「お前らいつまでチマチマやっている?目障りだし煩わしいぞ!俺はそろそろ子供達とゆっくり遊びたいから、今すぐ終わらせないなら、どちらも全勢力を総動員して、チリひとつなく滅ぼすが良いか?」

と、それぞれの王に戦場から使いを送った。


勿論、戦っていた全員を無力化した後だ。


その後、二国の王は何故かエストラゴンの立ち合いの元、お互いに不干渉とし、戦争の利益は双方無しにした。お互い様と言う奴だ。戦後処理も各々の国でやる様、言ったらしい。こちらに迷惑をかけるなと。余計な事したら、速攻潰すと言い置いて。


魔王は納得したが、エードラントは渋った。バカな王は、エストラゴン相手にゴネ出した。あのままやれば勝てた筈だ!と言い張った。


それを聞いた魔王がウンザリして


「今、こいつの国一瞬で焼け野原にしてもよいか?」

とエストラゴンに尋ね、


エストラゴンが

「人の命は辞めてやってくれ。人のいなくなった村なら更地にしても大丈夫か?」


と、エードラントの王に尋ねたので、エードランドの王は漸く力の差を理解し、相手が譲歩してくれている事を知る。


今、目の前に居るのは、一瞬で数多の命を刈る事ができる化け物で、連れている兵士だけでなく自分の命も、吹けば飛ぶ位軽い事も理解した。


真っ青になりながら

「条件を飲みます。失礼した」

と納得して、この醜い争いは終わった。




既に産まれた息子は5歳になっていた。


エストラゴンはちょくちょくどころか、暇さえ有れば息子を構って構って構い倒していた。

3日開くと皆が心配する位には会いに来ていた。


仮にもハーレムだ。美女揃いだ。そんな美女には目もくれず、息子とわんぱくな従僕見習い達を振り回して投げ飛ばしていた。物理的に。


「エストラゴン、嫁はとらないのか?」

若い時に聞いた事はあった。その時は、


「こんな熊に来る嫁は居ないよ。剣があればいいんだ!」

と当時は言っていた。


「昔とは違うだろう?子供もかなり好きなな様だし?自分の子を持たないのか?」

私は無知だったのだ。


「俺は基本的に、あちこちに派遣される部隊なんだ。長期滞在が当たり前だろ?今までも色々行っていたぞ?まあ、自分の子が欲しいかと言われたらまあ、欲しいかな?とは思うが、俺の仕事はいつ死んでもおかしく無いだろ?家庭なんて、まして子供なんていたら死にたくなくなっちまう。捨て身で戦えなくなるだろう。「守る者がいる方が強くなる」とか言うけどな?俺は守るなら側で守りたくなっちまうんだ。だからよ、弱い嫁と子供なんて側から離れられないだろう?俺には向いてないな」


泣きたくなった。


自分の甘さに、今回、国を丸ごと守って貰った事に。エストラゴンの大魔神と呼ばれる強さは、彼の優しさや願いを踏み台にした上にある事に。自分の子は持てずとも友人の子を心底我が子の様に可愛がる優しさに。


思わず感極まって抱きついてしまった。


「何だよ、いくら顔か凄く綺麗でもヤローに抱かれるのは遠慮したいんだが?」

エストラゴンはケラケラ笑いながら涙目な俺の背中をバシバシ叩いている


「煩い、黙って国1番の色男に抱かれろ

あと、叩くな!死ぬ!」

背中はきっとあざだらけだ。


少し成長した小さな息子は、早すぎる反抗期なのか、エストラゴンと兵士達の居る宿舎に入り浸りになってしまい、私に会うとちょっと冷たい目をする様になってしまった。


困った私はエストラゴンに助けを求めたら

「ソージュは皆に気持ちを無視して構われすぎたんだろうな?それよりも、ソージュはかなり強くなる素質があるぞ!頑張り屋だしな。自分で何でもやりたがるし、集中力も凄い。頭も良いしな?それ故、大人の自分が気持ちよくなる為の可愛がりに気付いてる。都合の良いオモチャの様に扱われる事を好んでいない。ソージュの事を思うならそっとしてやれ、あまり構いすぎるな」

そうなのか?構いすぎたのか?


「なぜ、嫌なら嫌だと我々に言ってくれなかったのだろうか?」

言ってくれたなら辞めたのに


「ソージュは優しい子だからな。自分としては不満だが、周りが愛してくれてる事はわかっていたんだろう。だからされるがまま我慢していたんだろうな?自分より人の気持ちを大切にできる子だよ」

聞いていて情けなくなってきた。


「エストラゴンの方が父親みたいじゃないか?俺は今までソージュの何を見てきたんだろうな」

何が父親だ。


「それは、国の在り方的に仕方がないのではないか?ここは自由恋愛の国だろ?王様の愛は沢山与えるし与えられる。多分ソージュには沢山の愛は必要無いんだよ。考え方の違いだな?ほら、初代ハーレム王も、たった1人を愛したかったんだろ?たった1人を守る為に、全て妻にするとか、どれだけ重たい愛の持ち主だ?ソージュはたった1人が必要なタイプだ。先祖返りみたいな者じゃ無いか?」

それなら仕方がないのかも知れないな


「ソージュは今は7歳だよな?10歳になったらゴルドファブレンの学園に留学するのか?留学するなら、引き続き鍛える事は可能だ。最近は平和だからら次の任務は近隣の魔物の討伐と、学園の騎士団見習い達を鍛えるのが仕事だ。学園に来るなら見守るぞ」

エストラゴンはニヤリと笑う


「ソージュ本人は、行きたがるだろうな?一度話をしてみるよ」

息子を幸せにしてやらなきゃな。

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