第88話 995階層の中ボス。



 黒獄ダンジョン第995階層。

 俺たちの快進撃は、ここで唐突に止まった。


「さすがには、通用しなくなったか……」


 995階層の最深部となる中ボス部屋。


 入口となっている巨大な洞窟といい。

 中にある、広さ1平方キロほどもあるバトルルームといい。


 S級ダンジョンのラスボス部屋を遥かに凌ぐ規模だ。


 995階層は、溶岩の滝とマグマの荒波が叩きつける灼熱地獄だった。


 いわゆるフィールドタイプのダンジョンだけど。


 中ボス部屋だけで1キロ平方もあることから判るように、フィールドも大陸なみの広さがあるんじゃないかって思うくらい広大無辺に感じられる。


 でも、いまの俺たちなら。

 楽勝で中ボスの居所を探し当てることができる。


 俺の広域探査魔法でもいいし、カイラスの超広域索敵魔道具でもいい。


 ともかく995階層の入口から。

 左14度方向・1522キロ先に中ボスを探知できたのだ。


 居場所さえわかりゃ、もうこっちのもん。


 カイラスの『突貫カプセル』に押し寄せるSSS級魔獣や悪魔を蹂躙させながら、まっしぐらに索敵点へと突進した……。


 ……のだが。


 洞窟入口風の、中ボス部屋の扉を突き破った途端。

 いきなり突貫カプセルが何かに衝突し、そこで止まってしまったのである。


「こいつにぶつかって止まったのか?」


 俺が指さす先には。

 幅100メートル、高さは判らないくらい高い、巨大な金属製の柱が建っている。


「ああ、カプセルはこいつを粉砕できずに止まった。レン、騙されたと思って柱を鑑定してみろ」


「鑑定? 柱だろ、これ?」


「いいからやってみろ」


 しつこくカイラスが言うものんだから。

 しぶしぶ鑑定してみる。



********************************************

名称:黒獄ゴルゴン

種族:究極魔道具(オートマタ完全体)

総合レベル:1298

HP:A〃%sd&ぉ’dfaF

MP:どすて%23X@ETS

物理攻撃:h3J4&/~~~☆!

魔法攻撃:qQ☆?>*+pD

物理防御:+{L*あ1zMU

魔法防御:¥)#cぇVⅡ3K

素早さ:3254

知能:452

幸運:1535

特殊スキル:******

     :******

     :******

その他:*******

********************************************



「な、なんじゃーこりゃあ!!!」


 鑑定できるところのほうが少ない。

 ってことは、一部のステータスは俺様を上回ってるってことだ。


 レベルは俺より低いけどな。


 それから特殊スキルとかが『*』になってるのは、まだ知らないスキルだから。


 それに『究極魔道具(オートマタ完全体)』って、錬金術の専門家であるカイラスの担当じゃん!


「吾輩も、ここまで凄まじい魔道具は見たことがない。オートマタとある以上、魔導錬金で産み出された自動人形なんだろうが、どこをどう見ても金属製の柱にしか見えん。もしかすると、接近したら変形するのかもな。

 さらに言えば、吾輩にしかできん『超級組成鑑定』を行なってみたら、柱を構成している金属は未知の合金で、硬さはアダマンタイトの120倍、魔力伝導率はミスリルの40倍、魔法防御能力はオリハルコンの100倍だそうな」


「それって……なまじの物理攻撃は効かないのに、魔法攻撃耐性も、オリハルコン・ゴーレム100匹を縦に並べたくらいあるってことだよな?」


「ああ。吾輩の突貫カプセルは、各種物質の強度特性の50倍まで貫通できる設計だから、こいつを突貫できなかったのも当然の結果というわけだ」


「ど、どーすんだよ!?」


「残りあと5階層。おそらく中ボスは、こいつが最後のはずだ。となれば……」

「戦うしかない、か」


 俺とカイラスが合意した途端。


 リンを除く全員が戦闘態勢に入った。


「リンさん、戦うそうですよ?」


 親切にも、あーやがリンに教えてる。


「ほへ? でもさー。あれ、攻撃しても無駄。


 なにワケわからん事を言ってる?

 聖女の秘技かなんかで、なんか察知した?


「とりゃーっ! 万物破壊キィーック!!」


 おっ!


 ライダーの究極技のひとつ。

 あらゆる物質を破壊可能な超絶キックだ。


 ――ゴゴーーーン!!


 割れ鐘を特大ハンマーでブッ叩いたような音が響く。


「むっ!?」


 ライダーが、蹴った左足を押さえながら着地する。


 見れば柱の表面が、一ミリほどの薄さで、広さ1メートル四方ほどめくれてる。


 ライダーの究極技は、たしかに柱を破壊した。

 ただし、1メートル四方・一ミリの厚さで。


 その代償として、ライダーの左足が盛大に骨折している。


「聖光修復、聖光回復。ダメだよ~、ムリしちゃー」


 ライダー、リンに完全回復してもらいつつ、しっかり怒られてる。


「来るぞ。究極錬金魔法『完全天蓋』!」


 カイラスが長杖を大きく振りまわし。

 俺たち全員をすっぽり包む、最強の半球状バリアを張った。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――――ッッッッ!!!!


 足もとの床だけでなく。

 背後の壁や、上空はるかに霞む天井まで。


 鼓膜が破れそうなほどの轟音とともに崩れていく。


 崩落はゆうに10分以上続いた。


「レン、吾輩はバリアを維持するので忙しい。邪魔な堆積物を、どっかに空間転移してくれ」


「おん? わかった。『大規模空間転移』、転送先は黒獄入口付近の空き地」


 ビッカ――――ッ!!


 さすがにこの規模の転送ともなると。

 膨大な魔力のせいで全体がまばゆく光輝く。


 これは単位時間あたりの魔力投入量が多すぎて、対象となる物質の原子振動が光を放つまで増大した結果だ。


「転送終了……」


 すっきりはっきり。

 塵ひとつなくなった中ボス部屋。


 広大な中ボスエリアの隅々まで見通せるようになった。


 さっき柱があった場所には、巨大なクレーターが開いている。

 天井も大きく崩落して、上は暗くなっているため見通せないほどだ。


 そして……。


「いいいいいーーっ!!」


 思わず声が出た。


 上にむかって巨大な穴が開いた天井。

 そこに金属製の肩と両手、そして首が生えている!


 いや、柱と思っていたのは、リンがいう通り胴体みたい。

 で、その上に肩と両手が乗っかってる感じ。


 頭部は暗くなってる天井の穴の中にあるらしく、ここからじゃ見えない。


 視線を地面に移してみると。

 巨大クレーターの中に、胴体から続く金属製の2本の足が延びている。


 足首から先はまだ埋まってるらしく、地面の中に消えていた。


。ええと……高さ135メートル、最大幅57メートルの金属製巨大立像ですね」


 あーやが機転をきかせて、中ボスの全体像を計測してくれた。


「……あ、動く!」


 リンが珍しく、最初に声を上げる。


 ……ズッコン!

 ……バッコン!


 片足ずつ、地面から足を引き抜いた。


 黒獄ゴルゴンは、自由になった両足でクレーターから出ると。

 今度は頭を引き抜くため、ゆっくりしゃがみはじめる。


 ……ガガガガッ!


 天井から新たな岩石が落ちてきて、半球状バリアにあたって弾け散る。


 やがて……。


 昔見たアメリカ映画に出てきた、金属製ののっぺりとした宇宙人の頭部みたいなものが現われた。


「おい、カイラス。どーすんだよ、こんなバケモン!」


「倒すしかあるまい? こいつを倒さぬ限り、最下層には行けないのだからな」


 なに余裕こいて返事してるんだよ!

 どう見ても強すぎだろ、こいつ!


「リン殿、後は頼む」


 ライダー、一言残して。


「万物破壊キィーック、限界まで連打!!」


 ――ドガガガガガガガガッ!


 先ほどライダーが放った究極キック。

 今度は左右の足で空中連打しはじめた。


 しかし、すぐにはね返されて地面に落ちる。


「……うっ、ぐうっ!」


 両足が完全に潰れて、長さが半分以下になってる。

 さすがに痛そう……。


「聖光修復、聖光回復!」


 ああ、ライダーはリンに、回復してって頼んだのか。

 痛い目にあう覚悟で蹴ったのね。


「あたいもお願い! 木刀破魔残幻流九の太刀『さざれ銀月』!」


 エリが俊足を生かして黒獄ゴルゴンの足もとに滑りこむ。

 そこから目に止まらぬ速さで木刀を振り回した。


 ――ズガガガガガガガガッ!


 一撃が音速を越えている。

 そのため衝撃波と打撃音が重なり、ほとんど連続した轟音に聞こえてる。


 エリの木刀は、すでに『聖木刀』とでも言うべき能力を獲得している。

 その最たるものが『絶対非破壊』だ。


 その名の通り、なにをしようと壊すことができない。

 傷ひとつ付かないし、おそらく太陽に放りこんでも燃えない。


 しかし……。

 そのぶん、打撃の反動はエリの両腕に返ってくる。


「うがあーッ!」


 エリの両手が背中側に弾け飛んだ。


 こっちは折れる段じゃない。

 両腕が一瞬でちぎれて後方へ吹っ飛んだのだ。


 エリの足もとに、無傷の木刀が落ちる。


「聖光修復、聖光回復!」


 リン、大活躍。

 惜しみなく聖女の力を大盤振舞いしている。


「レン。ライダーとエリが、傷つけた部分に集中攻撃するようだ。なので吾輩は足を狙うから、貴様は胴体を狙え。極大錬金魔法『万物溶融』!」


 カイラス、長杖を左手に持ちかえると。

 右手で極大魔法の魔方陣を構築しはじめた。


 こうしないと、バリアを維持しつつ魔法を行使できないんだ。


 本来なら、あらゆる物質を溶かしてしまう錬金魔法だけど。

 ライダーの攻撃と同じく、皮一枚を引っぺがす程度にしかダメージを与えられない。


「ええい! 重力極大魔法『ミニブラックホール』! こいつで、どうだっ!!」


 究極重力魔法の『無限重力重積』を応用した、ミニブラックホール。


 こいつは俺のオリジナル技。

 一度生成すると、どこまで物質を吸引するか判らない。


 そのため、日頃は危なすぎて使えない禁忌技なのだ。


 ……ズズズズズッ。


 バスケットボールくらいのミニブラックホール。

 それが黒獄ゴルゴンの、5皮くらい剥けた胴体部分に密着する。


 ……ズッズズズズッ。


 吸いとってる。

 ミニブラックホールが、あらゆる事象を吸い込む勢いで密着してる。


「うわ……吸い込んでることは吸い込んでるけど……あれ、ミリ単位じゃん!」


 をもってしても。

 やっぱ、皮一枚ずつしか吸い込めないらしい。


 こうなると持久戦しかない……。


「先が長くなりそうだ。休める者は手分けして休んでおけ。吾輩はバリアを解くわけにはいかんから、自前のポーション類でなんとかしのぐ。とくにリン。貴様は聖女だから、皆の世話を頼んだぞ!?」


 さすがにカイラスも余裕がないらしく。

 長杖を掲げたまま、早口で言った。


「りょー」


 リン、敬礼した。


 カイラスに敬意を示したの、初めてじゃないか?


「神術『常闇の冷気』!」


 あーやが絶対零度の神術で、黒獄ゴルゴンの動きを止めようとしている。


 原子振動すら停止する冷気が黒獄ゴルゴンを包み込み。

 足もとから凍りつかせて行く。


「うがうッ!」


 ナル様、大ジャーンプ!


 一気に黒獄ゴルゴンの頭部にまで飛び上がり。

 そこで神獣術『天地裂懐の咆哮』を放つ。


 ――――――!


 もはや音にすらならない。

 神様の咆哮が、巨大なゴルゴンの後頭部に炸裂する。


 さすがに効いた!

 今度は皮10枚くらい、まとめてはがれ落ちる。


「……うがっ?」


 でもナル様、御不満な様子。


 相手は、たかが中ボス。

 こっちは亜神様というのに、思ったほどのダメージを与えられなかったと思ってるみたい。


 いや、充分すぎるダメージだと思うぞ?

 いまや俺たち、全員が亜神なみ。


 その中で最大のダメージを与えたんだから、誇っていいと思う。


 ともあれ……。

 こりゃ先が長くなりそうだ。


 まだ3日と半分くらい時間は残ってるけど。

 ここでどんだけ費やせばいいのか、俺にはまったく判らなかった。


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