White Robot ─ロボット葬儀屋の事件簿─

@Jun_58

第1話 さよなら、カンタくん

主要な登場人物

・小津マモル…ヒューマノイド専門葬儀R/F社員 特殊能力ALA(アンチ・ロジカル・アビリティ)を使う。ロボットの記憶を読み取ることができる。ロボットオタク

・袋小路ナギサ…ューマノイド専門葬儀R/F社員 ALA 重力操作

・赤井オリザ…ューマノイド専門葬儀R/F社長 ALA所持者

・フレイヤ…小津マモルのガーディアンAI

・ソフィア…警視庁のデータベースにフルアクセス可能なオラクルAI

・ナギラ・ユリ…天才科学者、小津の同級生、フレイヤを創り出した人物

・周防タダユキ…警視庁第九系特異犯捜査一課 課長 ALAの存在を知る警部

・藤堂キョウヘイ…警視庁第九系特異犯捜査一課 新人刑事

・椎名コウタロウ…警視正

・大田黒レオ…H.ニューロン社元CTO

・龍樹院リショウ…宗教団体「天則」代表

・君嶋アンナ…ジャーナリスト

・ロディ…子ども型ヒューマノイド

・ユウリ…太田黒を殺害した容疑をかけられている子ども型ヒューマノイド

・カンタくん…犬のぬいぐるみロボット

・瀬戸山リエ…カンタ君の飼い主、大田黒とは元夫婦

・瀬戸山ユイ…瀬戸山リエと大田黒レオの娘

・冴木…警視庁、AI技術管理特別室 室長

・満島ノブユキ…検察官


***

◾️第一章-1

「カンタくんの一部を、記念品として保存されますか?それとも全て当方で決めさせていただいても良いでしょうか?」

小津マモルは、務めて落ち着いた物腰で、丁寧な発音を意識しながら目の前に座る依頼主に聞いた。

依頼主の女性とその横にいる女の子。言うまでもなく母子である。

そして女の子の横には、犬のぬいぐるみがいた。


「カンタくんは〈テクトロニカ・ファジィペット〉シリーズの三代目ですね。耳の内側に第 2 世代の超小型サーボが入っているタイプ。量産機なのにカム駆動で尻尾を振る設計が凝ってるんですよねぇ。職人技が必要だったんですよ」

小津が目を輝かせてつぶやくと、母親は「そ、そうなんですか?」と戸惑い、娘はきょとんと首をかしげた。

「えぇ、モノづくりはいつの時代のどの分野でも拘りと誇りを持って作っている人がいます。そして十年もの間大切に飼われてきたのは、状態を見ればすぐにわかります」

「そうですか」

といって母親は、隣に座る娘の方に眼差しを向ける。

娘は母親の袖を、その小さな手でぎゅっと掴む。目が赤く、今にも泣きそうだ。

その頭を優しく撫で、小津に視線を戻した。

「カンタのメモリユニットを保存したいです。可能であれば写真と一緒に小さなケースに入れて飾りたいと思います」

「かしこまりました。透明なケースがついた写真立てをおつけしましょう」

小津がそう言うと、犬のぬいぐるみは赤いリボンを咥えて尻尾を振りながらぴょこぴょこと飛び跳ね、そして女の子に向かってワン!と吠えて。

グリッチがかかり、消えた。

「あのね、ユイちゃん」

小津は、ぐずついている女の子に視線の高さを合わせ話しかけた。俯いていた女の子は少しだけ顔を上げ、小津と目が合った。

「カンタくんが、赤いリボンのこととっても喜んでたよ」

女の子は、一瞬だけ不思議と驚きが混ざった顔をしたがすぐに

「本当?!」といって小津に顔を近づけるように前のめりになった。

「うん、本当だよ。すごく気に入ってたみたいだね。だからこのケースにリボンをつけてあげようと思うんだけど、どうかな?」

「うん!つけて!ママいいでしょう?」

母親はまだ驚いた表情をしていたが、我に帰ったように「え、えぇ」とだけ言って女の子に微笑んだ


「…では今日の内容と詳細は、またメールでお送りしますね」


玄関先で小津は母親に挨拶をする。

「あ、あの…、カンタの身体は、どうなるんでしょう?」

「環境への負荷を軽減するために、基本的にはパーツや素材はリサイクルして、新たなロボットに再利用されます。もちろん、国が指定する工場なのでご安心ください。それよりも…」

といって、小津は母親の背後に視線を向ける。女の子がいないことを確認するためだ。

「本当に良いのですか?ロボット犬であるカンタくんのメモリユニット自体は損傷がありません。記憶を移植して新たなボディをつけてあげることも可能ではありますが…」

古い型番のロボットは、メーカーがアップデートのサービスを終了すると修理を受け付けなくなってしまう。そうするとボディやメモリが修復できず、人間でいう「死」に近い状態となる。だが新たなロボット犬にカンタの記憶をコピーし、移植することは技術的には十分可能だ。

「えぇ、そうですね…でもやはり、ユイももう十歳になります。ロボット犬とはいえカンタはぬいぐるみです。親として、卒業させてあげるべきだと思ってましたが…」

ダメですね、私もロボットに感情移入してしまったようです。と言って悲しそうに微笑んだ。


「でも決断は変わりません」


カンタというロボット犬、厳密に言えば犬のぬいぐるみロボットは、娘のユイが生まれた時に買ってあげたのだそうだ。つまり十年の間、彼女たちはカンタと共に過ごしたことになり、ユイや母親にとっては既に家族という枠の中に入っていたのだろう。

「お母様にも可愛がられてたんですね。カンタくんは幸せなロボットだと思いますよ。

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