第3話


 メリクは魔術師である自分の精神がこれほど弱いと思っていなかった。


 だが数日経っても彼の体調は復調せず、それどころか朝起きて大丈夫かと思い、学院に向かうと本当に何の前触れも無く頭が痛んだり、気分が悪くなったりした。

 しかし今回のことはアミアや、もちろんリュティスにさえそれを少しも勘付かれてはならないのだ。


 あの夜メリクがサンゴール大神殿の神官達の命を奪ったことは誰にも言えない。

 言ったら最後、全てを話すことになるからだ。

 城を抜け出してあんな所へ言った理由。

 彼らに殺意に転じるほどの強い憤怒を覚えた理由。

 全て繋がっていた。


 画策されていた暗殺計画のこともリュティスの耳に入れたくなかった。


 あの後人づてにリュティスがラウシュでの神儀をつつがなく執り行ない終えたということを聞いた。

 もう過ぎ去ったことなのだ。だからわざわざリュティスの耳に入れたくない。

 これ以上【魔眼まがん】のことで彼を傷つけたくなかった。


 考えても解けない悩みを抱えているのはひどく辛いことだった。

 体調を崩していることも、アミア達には気づかれたくなかったから学院も休めなかったし、週末城に戻った時もメリクは自分を取り繕い、いつもと何ら変わらない様子で過ごした。

 しかし当然のことながらサンゴール王宮で気を張りつめ続けていた彼は、魔術学院に戻ると更に具合を崩してしまったのである。

 時悪く魔術学院は二週間後に総学の試験が差し迫っており、一瞬の気も抜けなかったのだが、メリクは講義以外は部屋に籠ったままほとんどを臥せって過ごしていた。


 イズレン・ウィルナートは何度か気を遣い声を掛けてくれたが、メリクが何でもないとしか言わないと、そのうちに何も言わなくなった。



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