第二十四話 洞窟に眠る秘密




「あの、先生。この洞窟、一本道じゃありませんけど……」


素直にそう伝えると、ジェズアルド先生はきょとんとした表情をした。


「そうですか? 私が以前通った時には一本道だったと記憶していますが」

「いや。俺たち、さっき分かれ道見つけましたよ」


サバスの言葉にジェズアルド先生は考え込み始めた。気になるな、だのぶつぶつ小さく呟いてから踵を返す。


「それは気になる話です。少し確認してきます」

「え、私も行きたい!」

「わたくしも気になります」


アーサーと和佳子が先生についていきたいと言い出した。先生は少し考えたあと、私とサバスの肩に手を置く。


「お二人とも、お疲れのところすみませんが案内していただけますか」

「あ、は、はい……?」


ジェズアルド先生はためらいなく洞窟の中へと入っていく。アーサーと和佳子がそれについていき始めたので私とサバスも続いてきた道を戻った。


「そういえばあやめさん。着てるそれ、もしかしてサバスの外套ですか」

「えっ、ホントだ!」

「寒がってたら貸してくれて……あ、返す?」

「船に戻るまで着ておけ」


サバスのぶっきらぼうな言葉に和佳子がひゅうひゅうと口笛を吹いた。


「流石、イケメンだねえサバスくんは」

「色男ですね」

「うるせえ」


和佳子とアーサーが囃し立てるのをサバスは顰め面をしてあしらった。話をしながら来た道を戻っていく。先ほどは下るのが大変だった岩場も、登るのはあまり苦ではない。あっという間に分かれ道に辿りついた。


「……確かに、これは分かれ道。しかし見覚えがありませんね……」


私たちが来たのと別の道を確認して、ジェズアルドはそちらに足を踏み入れる。私たちもそれに続いた。先ほどは上り坂かと思ったが、想像より平坦で普通の道だ。


「なんでしょうね、この道。なんというか……先ほどと雰囲気が違って見えます」


アーサーの感想にはおおむね同意だった。分かれ道に入る前の洞窟は岩がごろごろとしていたのに対し、この道はあまりにも平坦でシンプルだ。まるで絵の中の洞窟のようだった。歩きやすく、転びそうにない。


「自然にできた洞窟、みたいな感じはしないねー」

「そうですね。まるで人工的につくられたよう」


そこで初めて、違和感の正体を理解した。洞窟にしてはあまりに整然としすぎているのだ。延々と続いてもおかしくないその通路はすぐに終わった。そこになんの前触れもなく広がった光景に、私たちはそろって動きを止めた。


「なんだ、これ。壁画……か?」


突然開けた空間。目の前には奇妙な絵が描かれた巨大な壁。


「ふむ……これは……」


歴史の教科書で見るような象形文字がのたくったものではなく、青い蛇のような絵が大きく描かれた不思議な壁画だ。


「これ……もしかしてこの青いの、ロトアルドじゃありませんか!?」


一歩引いたところで壁画を見つめていたアーサーが、不意に興奮したように大きな声を出して叫んだ。先生が弾かれたように壁画の蛇を見つめる。


「……確かにそうですね。この絵、ロトアルドです」

「えっ? そうなんですか?」


和佳子が壁画に近づき、じっとロトアルドの絵を観察し始める。かく言う私もロトアルドの絵をじっと見つめていた。アーサーの部屋で見た図鑑の絵とそれを脳内で重ねて、確かに似ている、と納得した。


「なんでこんな洞窟にロトアルドの壁画なんて大層なモンがあるんだよ」

「ロトアルドは冷たい深海を好みます。ノースフォール山脈はアヴァニ大洋に隣接していますし、もしかすると何か逸話が残っているのでしょうか」


手が冷えてきたことに気が付き、サバスのコートの裾をさばいて中に着ているスラックスのポケットに手を突っ込んだ。指先に何か固い感触があたった。引っ張り出すと置いてくるのを忘れたスマホだ。


「あれ、あやめちゃんスマホ持ってんの。じゃあこの壁画写真撮ったら?」

「あ、そうですね」


ロックを解除してカメラを起動し、大きく後退って壁画の全体図を写真に収めた。シャッター音が無機質な洞窟に鳴り響く。私のすぐ傍にいたジェズアルド先生が感嘆の息を吐いた。


「オーバーワールドの技術はやはり目覚ましいものがありますね。記録もできたことですし、船に戻りましょうか」


撮った写真を確認すると、壁画の細かい部分がくっきりと写っていた。なんとなく画質のいいカメラが付いている機種にしたのが功を奏したかもしれない。

壁画にくぎ付けになっていた和佳子たちが先生の声で洞窟の外へと向かい始める。


「アーサー、帰ろう」

「……あ、はい!」


アーサーは後ろ髪を引かれているのか、洞窟を抜ける間何度も後ろを振り返っていた。

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