Aパート(序盤)+α
ここで、本編に入る前に一つの動画を見てもらいたい。
若干メジャーではある物の大手の動画サイトで投稿されている動画だが、早いタイミングで10万再生を突破している。
サムネには『10分で分かる転売罪の重要ポイントを紹介』と書かれている一方、動画のタイトル的に「そもそもの転売罪って何?」と言うようなつぶやきも散見されていた、
『今回は皆さんに転売罪を解説したいと思います。これをざっくり知っているだけで、思わぬ犯罪に巻き込まれにくくなるでしょう』
動画に出ていたのは、一人の男性Vtuberだった。
いわゆる雑学系の内容を扱う配信者、と言ったところか。服装から、そう予測はできるだろう。
しかし、開口一番で「転売罪」というワードが出てくるので、いわゆるバズり優先な煽り系や炎上系動画……と思われそうだが、実は違うのである。
喋り方も若干丁寧であり、感情を表に出すようなことはない。
わかりやすいほどに煽り系などのような動画として認識されないようにしている、と言うことか。
『そもそも、ここ最近でも様々なジャンルで……』
その後に出てきたボードでは、予想外の物が書かれている。
【他人のクレジットカード情報を使い、商品を購入しての転売】
【ショッピングサイトをハッキングし、商品を不正に入手しての転売】
【問屋から不正取引を行い、転売】
【大人買いの領域を超えた商品を購入し、転売】
他にも様々な事例が書かれているが……どれもニュースで話題になった転売ヤーの事例だ。
転売ヤーに関して悪意を持っているものであれば、こうした話題を利用して「転売ヤーは悪である!」のような煽り動画などを作るレベルだろうか。
実際、こうした転売ヤーを専門で狩る転売ヤーハンターも実在し、転売ヤーに賞金をかけるシグルドリーヴァのような存在だっている。
転売ヤーの問題は、もはやフィクションだけのものではなくなっていた……と言っても、これもフィクションではあるのだが。
『こうした行為で商品を入手し、それを転売すること自体が転売罪となります』
『しかも、転売罪は証拠が確定した段階で裁判なしの即日認定。それも、証拠が確定していれば約10分の手続きで確定します。刑に関しては罰金刑のみになります。懲役などは一切ありません』
『その罰金が低くて数万円、最高で1億円を即日支払い。出来なければ借金で支払うという展開になるでしょうが……』
『借金を転売で支払おうとして、1億まで罰金が膨れ上がったというケースもフィクションではなくリアルで存在しますので、転売罪はなんとも恐ろしいものです』
『……裁判なしなので、当然ですが転売の証拠不十分で無罪になるようなケースは一切ございません。証拠が発見された段階で、すでに転売ヤーと認識される……それが転売罪です』
他にも彼の解説は続くのだが、ここではざっくりと省略する。
重要なのは、この世界では転売が犯罪であると認識され、それを狩るという転売ヤーハンターが実在するようなルールが整備され、転売ヤー以外の犯罪は皆無と言っていいレベルで起きない世界である、と言う事。
自然災害の類は散見され、熊の目撃情報などはあるかもしれないが、特殊詐欺グループや暴力団、テロリストが関係するようなニュースは報道されない。
それこそ、全て転売ヤーの仕業である、と言う報道がされるから……。
ガーディアンが転売ヤーを素早く一掃するのには、こういう背景もある模様。
日本で犯罪と言えば、99%で転売ヤー……という認識が印象操作の類ではなく、実際にそう認識されている事なのだ。
ただ、動画内でガーディアンの事には触れていないし、何となくガーディアンと連想できそうなワードも出てこない。一体、どういうことなのか?
『皆さんも、転売ヤーから商品を購入すれば転売罪に問われる可能性があります』
『転売ヤーから商品を買わず、正規の許可を得たリサイクルショップなどで商品を買う事をお勧めします』
『どうしても、その辺の判断ができない場合は新品で購入した方が早いです。その場合ならば犯罪には巻き込まれないで済むので』
『食品は転売罪以前に別の犯罪で逮捕されるので、その辺りの転売は認知していませんし、デジタル系のコンテンツも最初から転売禁止なので……この分野もないでしょう』
オークションサイトでは転売ヤーのアカウント取得ができないように、確定申告の提出が必須な許可を得たストア系しか認めないケースが増えた。
これにより、どうしても商品が不要となった場合には、リサイクルショップなどで売る……の一択になってしまった。
町会などのイベントでもバザーが出来ない、買い物をするにしても不用品には手を出さない節約志向が増えた……という弊害はあったかもしれない。
それでも、日本から生まれたと言っても過言ではないような転売ヤーをフィクションだけの存在に追い込み、現実から一掃するという強い表れなのだろう。
『最後に、今回の動画を作るにあたって……』
最後はまさかの種明かしがされた。
この動画自体、実は警察との協力で製作された動画だったのである。
ガーディアンの『ガ』すらも出てこないような動画内容だったのは、これも影響したのかもしれない。
実際、シグルドリーヴァも向こうは認識している可能性はあったとしても、動画内では触れていなかった。
もちろん、今回出演した男性Vtuberはシグルドリーヴァも認識している可能性は高いと思われるが……。
CM明け、舞台はガーディアン池袋支部の内部に移った。
そこには複数のガーディアンメンバーが動いているような気配もする。
一連の転売ヤー事件もあるのかもしれないが……。
「先ほど他の支部から連絡があったのですが……」
支部長室に入ってきた男性ガーディアンメンバーが、目の前の支部長と思われる人物に報告を行う。
「転売ヤーを狩る転売ヤーハンターに偽物がいるらしいという連絡が来ました。偽物は調査中とのこと」
まさかの内容なのだが、それに目の前の人物が驚くような気配はない。
最初から、このマッチポンプをある程度だが予想出来ていた、それ位の反応だ。
「最初から転売していたのが、ニュースで騒がれているものだという段階で、怪しいと他の支部も考えていたようですが……」
それを聞いた、支部長の一言は……まさかの物だった。
「転売ヤーの指名手配制度……あれが現実化した以上、賞金目当てでマッチポンプをする勢力が出てくるのは想定出来ていた」
「池袋支部は、引き続き偽ハンターの捜索を続行せよ」
支部長の人物は女性である。
その一方で、その外見は何処かのメイドカフェを思わせるようなメイド服を着ており、両腕にはガントレット……異色の外見なのは間違いない。
彼女の名はデンドロビウム、いわゆるコードネームのようなものだが……。
「炎上勢力を一掃したと思ったら、また似たような勢力が姿を見せる……その繰り返しだというのか」
ため息交じりな彼女は、デスクに置かれているノートパソコンに表示されたニュースを見ている。
偽の転売ヤーの次は、転売ヤーに極刑……という極端すぎるような炎上系配信者の流したフェイクニュースだった。
こうしたフェイクニュースはAIで作られているパターンと思わせて、実は手打ちである事実は知られていない。
AIのフェイクニュースでさえ、ガーディアンは即時に一掃できるような技術を持ち、それさえも敵ではない、と考えているからだ。
日本で存在する犯罪は、あの動画でも言及されているように、転売ヤーが絡むものだけである。
(それに、あの人物も疑わしいが……)
ブラウザのひとつに表示されていた動画のサムネと思わしきもの、それは【10分で分かる転売罪の重要ポイントを紹介】とタイトルが見える。
その動画自体、警察との協力で作られたものである一方で、何か不穏なものがあるのでは、と彼女は考えていた。
警察でも転売ヤーを一掃するために動いてはいるのだが、そのやり方に関して若干だが強引なものがあるのではないか、とも考えている。
ガーディアンのワードは出していないものの、明らかに対抗意識があるような動画なのは間違いない。
果たして、これが意味するものとは何なのか?
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