第2話『コスプレイオブパルクール』

アバン前+アバンタイトル

 ここで、第2話が放送される前に放送された、朝のニュースの一部を見てもらいたい。


 ある意味でも今回の転売ヤー狩りが、事実として起きているのではないか、と思うようなものである。


 そして、この世界が抱えるもう一つの顔を目撃できる、と……。



「おはようございます」


 テレビには、二人のニュースキャスターの姿があった。左が男性、右が女性キャスターだろう。


 二人体制なので、民放ではないのは見てわかるし、今回のニュースをあるテレビ局だけは取り上げていない。


 何故かと言うと、今の時間帯は午前7時であり……あのテレビ局は子供向けバラエティー番組を放送していた。


 余程の事件ではない限り、このテレビ局が特番を組むことはない。それを象徴するようなニュースなのだろう、これから伝えられるものは。


 海外情勢であれば、他のテレビ局でも速報で伝えるかもしれないので……そういう事にはなるだろう。



「速報です。コンビニエンスストアの大手であるE社は、リサイクルショップの大手A社にコンビニ事業を売却することを発表しました」


「全てのコンビニEがリサイクルショップAへ切り替えられることとなり、作業は急ピッチで進められているようです」


 女性キャスターによって読み上げられたそれは、ある意味でも転売ヤーが急速に活動するきっかけになるのではないか、そう読み取る勢力が多かった。

 

 コンビニ大手のE社が起こした消費期限偽装問題は、まさかの展開を生み出し、リサイクルショップ大手であるA社にコンビニ事業の売却を決めた。


 これにより、小規模のミニリサイクルストアが展開されることとなり、そこで通販サイトのアイテムを受け取るようなことが可能になったという事らしい。


 しかし、このリサイクルショップ大手A社、様々な問題は抱えていた。


 転売ヤー問題は、どう考えても転売ヤー側の問題ではあるのだが、それ以外の個所で……である。

 

 その辺りは触れない形で報じられていたので、SNSのまとめサイト上の噂でしかない、という認識の様子。


 余談になるが、このニュースは別の意味でもシグルドリーヴァが転売ヤー狩りに動くことになった事件とは無関係である。


 その一方で、転売ヤーがこうした店舗も利用し、オークションサイトなどで転売を続ける展開になるのは目に見えているが……。



 次のニュースは少し飛ばして、スポーツの話題である。


 海外情勢や一部政治的なニュースを取り上げても、その内容を理解するには難しいため、スポーツまで飛ばすことにした。


「スポーツです」


 原稿を読み上げたのは、オープニングで姿を見せた人物とは別の男性キャスターだ。


 スポーツ担当、と言えば話は早いだろうか?


「パルクールの世界大会が日本で実施されることになり、そこでの……」


 パルクールの世界大会、それが何と日本で開催される事が報道されていたのである。


 場所に関しては選定中ではあるものの、市街地などのような場所を会場にするような話の流れだった。


 山などをフィールドにすれば……と思われたが、近年は熊の出没報告も出ているので、危険性を考慮しての物らしい。


 それだけではなく、生身でのパルクールではない。


 ガジェットを使用した、ざっくりと言えば……エクストリームパルクールと同じような、システムの物を実施する、と言うのだ。



【テレビを見る時は部屋を明るくして離れてご覧ください】


 そして、第2話のアバンへ。


 テロップに関しては【テレビを見る時は~】以外は表示されていない。


 他のアニメだと、いわゆるニチアサやドアサと言ったジャンルや一部を除き、他にもテロップは入る。


 しかし、本作は別の意味でも円盤購入などを推奨するようなテロップは採用せず、唯一のテロップが【テレビを見る時は~】なのだ。


 確かに違法配信などは犯罪なのであるのだが……それでも本作で類似テロップを追加したら、それこそ商業面を表に出しすぎている、という批判は避けられない。


 実際、本作の前作品に当たる『アバターシノビブレイカー対電忍』も……。



 冒頭は第1話の転売ヤーが捕まり、その事情聴取から始まっている。


 ただし、捕まった転売ヤーはデュランダルが確保した方ではない。別シーンで捕まっていた転売ヤーだ。


 賞金金額は、申し訳程度に100万円、それも複数人単位……と言う転売ヤーの一人。


 そう、クリアファイル転売で戦国武将のコスプレをした転売ヤー狩りに通報された転売ヤーの男性だった。


 その場所は警察ではない。ガーディアンさいたま本部の一室なのだ。


「不正転売行為は犯罪である……と言うのは、すでに小学校低学年からの学習内容に含まれている。それをわからないわけではあるまい?」


 その外見は、明らかに警察や軍関係の意匠とはかけ離れたような、ある意味でもSFを思わせるスーツを彼は着用している。


 ガーディアンのメンバーの一人で、今回の転売ヤーを捕まえた人物の一人でもあった。


「自分はただ、欲しい人物の手に……」


「だからと言って、高額で転売したら、それは転売ヤーなんだ」


 転売ヤーの言い訳すらさえぎり、ガーディアンの彼は目の前のテーブルを軽くたたく。


 強く叩いても脅迫になってしまうため、この取り調べルームには、AIによる事情聴取を行うガーディアンの監視も入った上での……事情聴取を行っている。


 万が一、脅迫と認知された場合、ガーディアンメンバーにはペナルティが入る。即座にクビではないが、相応の重いペナルティが入る、と言われていた。


 だからこそ、ガーディアンメンバーの話し方も脅すような話し方はしない。普通な話し方が求められている。


 誘導尋問になってしまったら、それこそAIから警告が入りそうだが。


「転売ヤーが、今やフィクションにおける暴力団に類する存在、それこそ世界に存在するテロ組織やマフィアと同等レベルになっているのは知っているだろう?」


「そういった勢力に加担すれば、自分の命が危ない……ざっくりいえば消されるのは確実だろう」


「不正転売行為から手を引けば……警察に通報することはしない」


「これは司法取引の部類ではない。これからも長生きをしたいのであれば、と言うお願いだ」


 脅迫の部類で言及すれば、それこそ警告をされるのは目に見えているので、ガーディアンメンバーの男性は転売ヤーを説得することにした。


 これで説得に応じてくれれば……何とかなりそうだが。


「転売ヤー罪が執行されれば、数億……最大で1兆円もあり得る。それを即日執行……裁判も数日、早くて1日で終了する」


「ある意味でも、有名な裁判を題材にしたゲームと同じくらいには……裁判がテンポよく進むのは確実だろうが」


 その後、ガーディアンメンバーのこの発言を聞いてかどうかは知らないが、彼は転売ヤーから足を洗う事を約束した。


 数万円で転売できたとしても、その百倍以上の罰金を即日に支払うなんて不可能だ。


 裁判の方も転売ヤーの案件は、あまりにも多すぎて……それこそ有名な裁判ゲームのように簡略化されたような裁判が展開されている、とも聞く。


 つまり、この選択肢を選ばざるを得ないのだ。



 転売行為が犯罪であるのは、すでに小学校低学年から学習することとなり、そこから転売ヤーからは商品を買わないと言う事を学ぶ。


 夏休みなどでも電子メールで『夏休みの過ごし方』に【オークションサイトから不正転売商品を買わないようにしてください】と言う一文がある。


 不正転売商品を転売ヤーから購入したら、そのお金がジャパニーズヤクザや特殊詐欺グループに渡ってしまう……と言う事らしい。


 実際、本作の世界観ではそういった事例は複数目撃されており、もはやノンフィクションと言っても差し支えはないだろう。


 だからこその第1話の放送ラストにあったあの一文が……物語るのだ。



【転売ヤーに対する指名手配制度はフィクションですが、転売ヤーに対する罰則は実在します】


【不正転売行為は重大な犯罪です。そうした転売行為を発見した際は、即座に警察への通報をお願いします】


 日本では転売ヤーの存在は、それこそジャパニーズマフィアや特殊詐欺グループ、それに匹敵するような規模で増えている。


 いわゆる殺人事件などはゼロになっているような一方で、転売ヤーによる犯罪は激増し、警察の逮捕者でも転売ヤーは全体の8割を占めていた。


 だからこそ、彼らは転売ヤーを……根絶しなくてはいけないのである。


 コンテンツ市場を正常化させるためにも。


 ちなみに、警察に捕まった場合、転売ヤーには懲役刑のような刑は執行されない。


 執行されるのは罰金だけであるのだが、その金額は最高1兆円、実際に1兆円が言い渡された事例はないものの、500万円が執行された事例は何千以上もあった。


 この執行に関しては即時であり、執行猶予は一切ない。それが、転売ヤー一掃の為にも有効だと考えたからだ。

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