仲間集め

 翌日の放課後、オカルト研究部の部室に集合した部員たちに、部長の石原が言う。

「浅野先生から夕べ連絡があり、他の能力者と会う事になったから、集まって欲しいという事。それで、今から彼女と会う事になっているの。でも、部外者である浅野先生、他の学校の生徒である能力者たちは、ここへ呼ぶことは出来ない。そこで、ある場所に集まる事になったわ」

 と前置きして、

「その場所は、宝条里美ほうじょうさとみさんの自宅」

 と続けた。

 その言葉に一堂がどよめく。

「自宅って、大丈夫なの? だって、能力者とか捕食者とかの話、家族に聞かれたりしないの?」

 と野山秋帆のやまあきほが聞くと、

「宝条さんの能力について、ご家族はみんな知っているという事と、こんな突拍子もない話しをまともに聞いてくれたそうよ。でも、こんな危険な事に巻き込まれる事を、ご家族は歓迎していないでしょうね。それでも、話しは聞いてくれるみたい」

 と石原は答えて、

「それじゃあ、行きましょう」

 と立ち上がった。その時、部室の戸が叩かれ、

「入りますよ」

 と一声かけて、生徒会の書記、沖田正純おきたまさずみが入って来た。

「あら、来てくれたのね?」

 と石原が言うと、

「当然ですよ。この学園で、未来に起こる危機に、能力者である僕が何もしないわけにはいかない」

 と強い正義感を強調するように言った。

「そうね」

 と石原は口元に笑みを浮かべて、

「それじゃあ、行きましょうか」

 と皆に号令をかけて部室をあとにした。


 宝条里美の家は、学園からバスで四十分ほど行ったバス停で降りて、そこから徒歩で十分ほどだった。

 宝条の家に着くと、それは場違いな場所に来たのではないかと目を疑うほどの広大な敷地にある豪邸だった。まずは大きく立派な正門があり、そこからは奥にある本邸が僅かに見える。正門から真っすぐな白い舗装の先に刈り揃えられた低木に囲まれた噴水があり、本邸はその向こうにある。これほどまでに、無駄に広い庭は、一体何のためなのか、一般家庭のすみれには理解が追い付かない。

 門の前に彼等が着くと、直ぐにコンシェルジュが門を開き、

「お待ちしておりました。皆様、どうぞ、こちらの車にお乗りください」

 と黒い大きな車に乗るよう促した。敷地内で車に乗る事に驚いた一行だが、言われた通り、車に乗り込んだ。そして、誰もが口を噤む。

 違う世界へ来てしまった事に、皆が動揺を隠せずにいた。コンシェルジュも、余計な事は一切言わず、車を本邸の前に止めて先に降りると、後部座席のドアを開けて、

「到着いたしました」

 と皆に声を掛けた。

 彼の仕事はこれで終わりのようで、次は本邸で待っていた執事が、

「皆様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 と一行を奥へと案内した。一般的な家庭の者たちは、生活レベルの差に圧倒されながら、興味深く周囲へ眼を向ける。

 暫く歩くと、執事が立ち止まり、

「こちらです」

 と言って、ドアをノックし、

「お客様を、お連れ致しました」

 と中のあるじに声を掛けた。

「どうぞ」

 と少女が許可すると、執事はドアを開けて一礼して、

「では、どうぞお入りください」

 と皆を促し、ドアを閉める。

 その部屋は無駄に広く、革張りの大きな一人掛けのソファー、三人掛けのソファーがローテーブルを囲むように配置されていて、宝条里美は一人掛けのソファーに座っていた。三人掛けのソファーにはJAXAの浅野涼と高杉健斗、姫野愛が座っていて、窓際に置かれた大きなソファーには、宝条によく似た二人の少年が腰を掛けて、こちらへ笑顔を向け、

「いらっしゃい」

 と声を揃えて言った。彼らは同じ顔をしている。一卵性双生児なのだろうとすみれは思った。宝条に似ているという事は、彼女の兄弟である事は間違いない。すみれがそう思っていると、

「私は宝条里美。あっちに座っている二人は、私の兄たちです」

 と宝条が自己紹介して、

「あと、こちらにいる子たちは、浅野っちが紹介するわ」

 と浅野に振る。年下の宝条にあだ名をつけられた浅野は無表情で、

「では、紹介します」

 と前置きして、

「こちら、高杉健斗君と、姫野愛さんです」

 と紹介してから、

「あなた方も、自己紹介をお願いします」

 と石原に向けて言った。

 それから、すみれ達は軽く挨拶と自己紹介を済ませて、ソファーに座った。これだけの人数が集まっても、ここには彼らが座るソファーが足りないという事はなかった。

「浅野先生からも聞いていると思うけど、改めて説明しますね」

 と石原は前置きして、すみれから聞いた、未来での出来事を時系列で説明した。


「ふ~ん。なるほどね~。あたしや健ちゃんと愛ちゃんが、オカルトちゃんの学校の生徒になっているとはね」

 と宝条は考え事をしているような難しい顔をして言って、

「すみれちゃんの居た未来では、能力者が集まっていたって事は、その未来を知って、襲撃に備えて、能力者を集めて準備していたって事よね? それなのに、未来の能力者達は何も知らなかったのは何故?」

 と疑問を投げかけた。

 すみれは感情によって、そのの深い意識の中で、時を遡る能力が発動してしまう。己の力の制御も上手くできず、その能力によって、どんな副作用が引き起こされるのかも知らなかったから、宝条の質問に対しては、何の答えも出てこない。

「分からない事はたくさんあるわ。でも、そこで止まっては居られない。きっと、いつかその答えも分かるはず。だから、今は私たちに出来る事をやりましょう」

 と石原が宝条の質問に答えを出さずに、前向きな話しへと切り替えた。

「そうだね」

 宝条は納得したように言う。そして彼らは、未来の襲撃に備えて、どんな準備が必要かを話し合った。

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