捕食者に狙われた学園
☆白兎☆
始まり
それは突然の事だった。
二千二十五年、五月十二日。月曜日の午前九時。
この学園に通う、高校二年生の
「水月さん、どうしたの? もう、授業を始めますから着席しなさい」
と落ち着いた声色で女性教師が言う。
すみれは訳も分からず、ただ、それに従って着席したが、授業の内容も覚えていないほど、心のざわめきが収まらなかった。
それから数日経ったが、あの時の事は誰も口にしない。すみれも、その事について、口にする事さえも憚れるのではないかと思い、誰にも話さなかった。あれ程恐ろしい状況を目にしていながら、そのすぐ後には、全く何もなかった様に授業を始めた女性教師も、クラスメイト達も、あの記憶が瞬時に消えてしまったかのようだった。何度考えてもおかしな事だと、すみれは思うのだが、もしかしたら、自分だけが幻覚を見たのではないかとさえ思う。
あの時、食べられたクラスメイトの名前も顔も、その存在も、すみれは鮮明に覚えている。仲良しだった訳ではないが、一年生の時も同じクラスで、本が好きで、いつも窓際の席で小説を読んでいた。物静かで、誰ともつるむ事はないが、かといって、友達がいないわけでもない。真面目で、色が白くて、長い黒髪を下ろしていて、綺麗な顔をしていた。名前は、佐藤静香。彼女そのものを現したような綺麗な名前だった。
クラスメイトが一人居なくなったのに、その事についても、誰も何も言わない。これは一体どうなっているのだろうかと、すみれは一人で悩んでいた。
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