第25話-エピローグ-

「勝手に帰ったことにしろだぁ?」


 巨人は約束通り街に手を出すことはなく、特に感謝も言わなかったが、笑いながら去っていった。


 そしてそのことをイアンはギルド長に報告しなければならないのだが、ジェシーと話し合ってお菓子の家や双子ゴブリンのことをギルド長にだけは伝えることに決めていた。


 悪いこと、ではないというイアンの考えが変わったわけではない。だがあくまで身内で勝手に思っているだけのことで、誰かに判断して欲しかった。


 何も言わなければ隠し通すことは簡単だろう。問題なのは、隠し事をしているという負い目を常に感じなければならないということ。


「双子はともかく、お菓子の家って。誰が信じるんだ、んなこと」

「ギルド長は信じてるじゃん」

「そりゃ、お前。いつもクソ真面目に仕事してるからな。嘘をつくにしても、もう少しマシなのにしろって」


 ギルド長からしてみれば、調査結果がたった1匹多かったからと、そしてその理由が双子のゴブリンが産まれたからからと、討伐隊員の目を盗んで減らしていたということから信じられないことのようだった。


「的中率100%って大事でしょ」

「あのなぁ、イアン。わかってないだろうから言っておくが、別に1、2匹違ったところで誰も気にしねぇって。討伐隊員の数え間違いだと思われるだけだろうよ」


 あきれられてしまうが、討伐隊員の数え間違いは滅多にない。討伐数を日々競い合っている彼らは、自分が倒した数はもちろんだが、他人が倒した数まで不正をしていないかしっかりと数えているからだ。


「まぁいいけどよ。話はわかった。今回の件は、まぁ巨人が勝手に来て、なんだか満足して帰ってたことにするかな」

「いいのか?」

「いいんじゃねぇか?てか本当のことを言ったところで誰も信じねぇよ」


 お菓子の家に振り回されっぱなしだった巨人との一件。現実の出来事だったのか、イアン自身もまだ実感がない。そんなものを他人が素直に信じるわけもない。


「それに結局のところ巨人が悪いだけだからな。勝手に来て勝手に帰ったってのも丸々嘘ってわけでもねぇし」

「はぁ」

「いや、でももう双子が産まれたからって減らすのはやめとけな。交尾数を報告書に買いとけばいいだろうよ」

「え〜っ?」


 裏で調査していることとはいえ、正式に報告するとなると事情が変わってくる。簡単にいうのであれば恥ずかしいと感じることであった。


「えーっじゃねぇよ。一応不正だからな。まぁ大したことねぇし、討伐隊員どもが認めねぇだろうけどな」


 事実がどうであれ、討伐隊員の目の前で全く気付かれることなく調査隊員がゴブリンを倒したことになる。気付けなかったというのは面子を潰されることであり、嘘だと主張して認めないことは目に見えた。


「頼むぜ、全く」

「了解」


 良い機会だったのだろうとイアンも感じていた。不安で初めてしまった双子への対応だったが、あまり良くないことというのは認めなければならない。


 妙に晴れやかな気分のままギルドを出ていくイアンだった。



「ジェシーはこれからどうするんだ?」

「別の街で大きな仕事があるみたいだから。そっちに行く」


 ギルド長との話の顛末を伝えると、交尾数を報告するということについてジェシーは嫌がっていた。次に双子が産まれてしまったら諦めると言いつつ、次の仕事の準備を進めていた。


「じゃぁ、お別れってわけか」

「そうなるね。最後にケーキでも焼いていこうか?」

「絶対やめろ」


 最後の最後のまで、どうやったらあんなホイップクリームを作れるのか不明だった。巨人が引き剥がせなくなるほどの代物。上手く使えば色々なことに役立てられそうだったが、そこまで考える気力はイアンには無い。


「美味しいのに」

「ちょっとは自重しろ」


 悪い人ではないのだが、どうやっても自分の作り出すものの危険性を認めようとしないジェシー。同じ的中率100%の調査隊員を目指しているという縁があった彼女とは、またどこかで再会することになる予感を感じながら、その旅立ちを見送った。



「ふ〜」

「お疲れ様」


 それほどの日数は経過していないはずなのに、また双子のゴブリンが産まれてしまってから長い時が経っている錯覚をイアンは感じていた。


 次から次に問題が発生し、あっという間に過ぎ去ったはずの時間。だというのに振り返ってみると何年も前の思い出のようだった。


「疲れてるなら、この豆が良いかな?」

「あ、あぁ」


 自分の家にでも帰るかのようにソニアのコーヒー豆専門店に入るイアン。何も言っていないのに、好みの豆を差し出される。そんな昔なじみの女店員の顔をボーッと見てしまった。


「なになにぃ?」

「い、いやぁ。本当に魔法使いだったんだなって」


 巨人にお湯を提供するために大量の水を出していたソニア。世の中の水問題は全て解決してしまうのではというほどで、魔法というものの可能性を感じざるを得なかった。


「シーっ。そのことは、くれぐれも内緒にね」

「ん?」

「だって珍生物だと思われるだけじゃん」


 その言い方に思わず笑い出してしまうイアンと、咎めるような目つきのソニア。


 ただのゆっくりとした日常を過ごせる日々。調査隊員としての評判は落ちることはなく、順調にスローライフの準備が整っていく。


 仕事終わりに飲む一杯のコーヒーを、ソニアと2人で楽しみながら。出会った人々に思いを馳せ、また調査隊員としての仕事へと向かうイアンだった。


Fin



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