第38話 到着のコレクターズ

「はああああああ――――っ!!」


 灼熱の豪炎が、大猿を焼き尽くす。

 獅条アスカの持つ【灼火剣】は、【灼火骨】というドロップアイテムを元に作られた超レア装備。

 爪に煌々と輝く灼熱を灯して放つイグニスドラゴンの、驚異的な火力を自在に操る大剣だ。

 それは攻略組トップを誇る獅条アスカの、トレードマークと言えるだろう。


「さすがアスカだ! このまま行けば戦況が立て直せるぞ!」


 階層主の召喚した中ボス級を、一発で片付けた火力に安堵するリーダー。しかし。

 最後方から戦況を眺める階層主は、再び杖を掲げた。


「まさか、一度だけではないのか!?」


 生まれた魔法陣から、中ボス級の魔物が二体追加される。


「アスカは、あの白いローブの魔導士を頼む!」

「了解っ!」


 戦況は厳しいが、階層主の【召喚】を止めなければ押し切られてしまう。

 そう判断してリーダーは、階層主の打倒をアスカに依頼。

 駆け出す後ろ姿を見送った。


「さて、後はこっちが生き残れるかどうかだな」


 さらなる召喚によって、深まったピンチ。


「複数の中ボス級相手に、チームを分散させられてしまっている状況で、どこまで耐えられるか」


 そうつぶやいた、その瞬間。


「「「ああああああ――――っ!!」」」


 一体の魔物と戦っていたパーティのところに、新たに召喚された個体の片割れが到着。


「連携……?」


 それは狙いか偶然か。

 まさかの連続攻撃によって転倒を奪われ、見舞われる危機。

 このパーティが斃れれば、次は別のパーティが三体を同時に相手にするような状況にもなり得る。

 最悪の事態。


「非情な選択を、しなければならないかもしれないな……」


 特区の宝であるアスカを呼び戻し、一部の仲間を殿として戦わせている間に逃げる。

 死者が出ることは免れないような選択すら、視野に入ってきていることにリーダーが慄く。

 ちょうど、その時だった。

 騒がしい足音が、後方から聞こえてきたのは。



   ◆



「ここだ!」


【瞬間移動】と最短ルートを利用して、たどり着いた新規階層。

 思わず叫んだ俺の声に、攻略組の戦士が振り返った。


「なぜここに来たっ! 今すぐ引き上げるんだ!」

「俺たちでも、厳しい相手だぞ!」

「こいつは対策を考えてからでないと、戦うべきじゃない! すぐに下がれっ!」


 よほど予想外だったのか、口々に声をあげる攻略組の面々。

 すると側方から回り込んで来ていた一体の魔物が、新たに登場した俺たちに目をつけた。


「逃げろ! こいつらは普通の探索者が戦って、勝てるような相手ではないんだっ!」


 あがる声に、しかし千早はその足を止めない。

 まるで自分を狙えとばかりに、踏み出していく。そして。


「逃げろォォォォ! 今すぐにだ――っ!!」


 叫び声をかき消すように、大トカゲから放たれる魔力光弾。

 直後、盛大な爆発を巻き起こった。

 ド派手な爆発に、上がる砂煙。


「だから、だからやめろと……ッ!」

「かろうじて生きている可能性もある! その時はポーション急げっ!」


 攻略組の男が、悲鳴のような指示を出す。しかし。


「「「ッ!?」」」


 煙が退くとそこには、【鉄壁】と【不動】によって無傷の千早。

 その冷静な表情に、驚愕する攻略組の面々。


「いきます!」


 突然の静寂を、割ったのは六花。

 魔力光弾を放った大トカゲに向けて駆け出すと、その手に二つの魔宝石を取り出した。

 そして華麗な下手投げで魔物の胸元に投じると、さらに自身の左手を正面に向ける。


「【フレアストライク】! 開放、『トライフレア』!」


 放った火炎弾が、二つの魔宝石から解放された【フレアストライク】と混ざり合って、天井を黒く焼くほどの爆炎を生み出す。


「な、なんだこの火力は……」

「一撃で、この階層の魔物を!?」

「一体、どうなっているんだ……っ?」


 わずか一発で打倒を成した六花に、今度は唖然とする攻略組。


「行くぞ!」


 この隙に俺は、寄ってきていた二体の魔物に目をつけた。


「【ソードソニック】!」


 まずは斬撃を飛ばし、敵の動きをけん制。

 サイクロプスを思わせる巨体は、高速で飛来する攻撃の回避が難しい。

 刻み込まれた深い傷に、魔物の動きが止まった瞬間、動き出すのは紫水さん。


「【瞬間移送】!」


 スキルを発動すると、魔物の頭上に現れた岩塊が落下し、その身体の一部を容赦なく削り取った。


「存外しぶといのぉ、これでもまだ動くか」


 身体の半分近くを持っていかれながらも、魔物は紫水さん目がけて、倒れ込みながらの喰らいつきを放つ。しかし。


「でも、ここまでだ」


 前に立ったのは陸さん。

 喰らいつきに来る魔物に、右手を伸ばす。


「【収納】」


 直後、魔物の頭部から胸元までが、切断されたかのような断面を残して消えた。

 さすが反則スキル持ちの二人だ、一瞬で勝負を決めてくれた。


「あとはっ!」


 残る一体の巨人型。

 その足元目がけて、俺は駆ける。


「あぶないっ!」


 聞こえた声は、接近する俺を狙う石斧の振り降ろしに対して。だが。


「当たるかっ!」


 俺はこれを回り込むような移動で回避しながら進み、敵の左足側へ。


「【チェンジ】【大木断】!」


 取り出した【トロルキングの斧】を、全力で振り回す。

 すると左足を斬り飛ばされた魔物は、そのまま頭から落下して倒れ込んだ。


「終わりだぁぁぁぁ!」


 そのまま首元に、斧を叩き込んで打倒する。


「……な、なんて、攻撃力だ」

「落石の召喚に、空間の切断。さらにこの巨人型をひっくり返す振り払い? こんなの見たことも、聞いたこともないぞ!」


 そして驚きの視線を向ける攻略組のパーティに、紫水さんと陸さんが気づいた。


「もしかして、横取りになってしまったのかな?」

「ドロップは出てないし、許してもらえんかのぉ」

「「「…………」」」


 おそらく彼らはその奇特で反則的なスキルに驚いていたんだろうけど、紫水さんと陸さんはそれを勘違い。

 ごめんと手を合わせる紫水さんに、いよいよ呆然とする。


「いや、今のはダンジョン内のマナーについて気にしていたわけではないと思うよ」


 俺がそう言うと、尻もち状態だった攻略組のメンバーが、ブンブンとうなずいた。


「俺たちが助けられるなんて、初めてだ……強力なスキルもそうだが、あの剣士の動きは並ではないぞ」

「だが助かったのは確かだ。これで手が空いたメンバーは他の魔物と戦っているパーティに参加し、戦況の安定を!」

「「「はいっ!」」」


 リーダーらしき男はそう指示を出し、大きく息をついた。そして。


「どこの探索者かは分からないが、今さらドロップや戦場のマナーについてどうこう言うつもりはない。十九層のボスは召喚で敵を増やす厄介な魔物だ。このまま共に戦ってくれると助かる」

「了解」


 まだまだ敵の数は多く、各攻略組パーティが激しい戦いを行っている状態。

 戦況は膠着といった感じだけど……奥に見えるのは、俺の『エクスカリバー』を提げているのであろう、純白ローブの骸骨魔導士。

 なんとか、なんとかあいつの元に……っ!

 そう考えながら、俺は剣を握り直した。

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