第35話 はい出した危機
「響介……っ!」
寝ていた俺の部屋に駆け込んできたのは、紫水さんだった。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「皆の様子がおかしいのじゃ!」
「どういうこと?」
紫水さんの真剣な面持ちに引かれるようにして、部屋を出る。
共用スペースに入ると、そこにはソファに倒れ伏している六花と千早の姿。
「ワシが来た時にはもう、このありさまじゃった」
見れば陸さんも、冷蔵庫に背中を預けたまま座り込んでいる。
「陸さん?」
「あ……う……」
呆けた表情に、回らない呂律。
「ルル……!」
俺はすぐにルルの部屋に向かい、ドアを開く。
置かれたまま、手つかずの菓子。
ピクリともしないルルの肩を揺らす。
するとベッドから、力なく腕が滑り落ちた。
「……どう、なってるんだ?」
ただ呼吸をしているだけのような状況。
俺は部屋を出て、あらためて六花たちの様子を確認する。
やっぱり、そうだ。
「紫水さん、この症状って確か……」
「ふむ、道で泥酔しておった青年と一緒じゃな」
「家に帰ってた紫水さんは無事ってことを考えると、この付近で何かが起きてるのか? だとすると、どうして俺は無事なんだ?」
「昨日の薬。あれは飲んでおくと免疫を高める効果がある、ダンジョン産の薬なんじゃが……」
「なるほど、そういうことか。よし、念のため付近を見ておこう」
俺は紫水さんと共に、ベースを出る。
「……静かだな」
昨日同様、妙に静かな倉庫街。
普段割と荷物の入れ替えが激しい倉庫のドアが、わずかに開いていた。
中をのぞくと、そこにも数人が倒れ伏している。
「大丈夫ですか?」
声をかけるとやはり、重度の酩酊のような感じだ。
これは、いくらなんでもおかしい。
この異変の原因は何か。
俺たちは注意深く辺りを見回しながら、倉庫街を駆け回る。
「紫水さん……なんかこの辺、緑が多くないか?」
「言われてみれば、そんな気もするのぉ」
普段付近の倉庫をしっかりと観察してるわけではないけど、この辺は妙に枝葉に包まれた倉庫が見受けられる。
ていうかツタが生えてるならまだしも、地面からこんなに大きな根が出てるのはおかしくないか?
俺は近寄って、根を確認する。
「待て、響介!」
すると、枝を見ていた紫水さんが叫んだ。
「この葉の形状は―――魔物かもしれん!」
その言葉に、俺が足を止めた次の瞬間。
俺の一歩前の地面に、集束した枝が突き刺さった。
おいおい、とっさに止まってなければ刺されてたぞ……っ!
「これってまさか……!」
「どうやら何者かにくっついて街に出てきたようじゃな。ダンジョンで衣服などに付着した種子などが、特区内で落ちて発芽。そのままここで成長したと考えるのが自然じゃろう」
持ち出された種子が成長して、ダンジョン外で敵として登場する。
こんな形での『侵攻』もあり得るのか……!
俺は【リザードマンの剣】を抜き、構える。
すると植物型の魔物の攻撃が、始まった。
「っ!」
集まってきた何本もの大きな枝が、刺突を仕掛けてくる。
俺は細かなステップでこれをかわし、即座に反撃に入る。
「【ソードソニック】!」
放つ斬撃は見事に枝を斬り飛ばしたが、敵はすぐさま別の枝で攻撃を開始。
この手数の多さは、やっかいだ!
「くっ」
紫水さんの腕をかすめた枝が、シャツの袖を斬る。
「一気に数を減らすぞ! 【チェンジ】!」
取り出した短剣を白の【リザードマンの剣】に変え、放つは二刀流の【ソードソニック】
放つ剣撃の乱舞、『ソニックストーム』は付近の枝を次々に切り飛ばす。
「助かったぞ! 見事じゃ!」
回避に苦戦していた紫水さんが下がり、体勢を整える。すると。
「「っ!?」」
倉庫街の一角に突然、無数の枝が寄り集まり始めた。
そして枝たちは、天を突く大きな『柱』のような形状になった。
倉庫の高さを大きく超える体躯を持つ植物の魔物に、思わず目を奪われる。
「マジか……これ」
「どうやら倉庫街の隅で、しっかりと成長していたようじゃの! ダンジョン内よりも生き生きとしておるし、大きさも十倍以上じゃ」
「これ、どうやって戦えばいいんだ?」
「中心部分にある本体を叩かぬ限り、打倒は難しいのぉ。再生はせんが、すでにここまで大きくなっていると……来るぞ!」
戦法を決めかねていると、始まる第二陣の攻勢。
新たに伸びて来た枝が、次々に刺突を仕掛けてくる。
「【ソードソニック】!」
俺は迫る枝を二刀流で斬り飛ばし、隙を見て紫水さんに向かう枝にも攻撃。
どうにか戦況を維持する。
数で迫る相手に、六花の魔法攻撃がないのは痛い。
二刀流ができるようになっていたのが、せめてもの救いか……!
そう考えながら、顔を上げたその瞬間。
紫水さんに迫る、太い『根』が見えた。
「紫水さんっ!」
「なっ!?」
伸びて来た根に足をつかまた紫水さんが、転倒する。
俺は慌てて駆け出し、剣を掲げる。
「【チェンジ】! 【強撃】ィィィィ!」
そして武器を【オーガリーダーの剣】に換え、振り下ろす。
「紫水さん、こっちへ!」
斬れ飛んだ根を蹴り飛ばし、俺たちは置きっぱなしになっている積荷の背後に隠れる。
「思わぬ難敵だな、これは」
想像以上の規模に育った魔物に、囲まれた状態。
これはなかなかに厄介だ。
広い攻撃範囲を持つ六花の不在が、本当に悔やまれる。
「すまぬな。ワシを守りながらでは厳しかろう」
紫水さんは、申し訳なさそうに息をついた。
「こうなっては仕方あるまい。これを……使わせてもらおう」
そう言って取り出したのは、一粒の種子。
「それは?」
「最近話題になっている『若返りの元になる種子』じゃな。実は先日のチキンランの時に見つけたあの草が、その種子をつける植物だったようでの。ワシも二つだけ手に入れておったんじゃ」
紫水さんが、手にした種を噛んで飲み込む。
すると突然、ピタリと動きを止めた。
「だ、大丈夫?」
問いかけるも、返事はなし。
「紫水さん?」
そして俺がその肩に手を乗せようとした、その瞬間。
「っ!?」
身体に突然、変化が起き始めた。
白一色だった髪が一気に黒くなり、肌に生まれるハリとツヤ。
さらに身体が二回りほど大きくなり、シャツが裂けそうなほどに張り詰める。
「……マジか」
思わず息を飲む。
目の前に現れたのは、俺とそう変わらない年齢になった紫水さん。
「ごく短時間じゃが、これで自分の身を自分で守ることくらいは可能なはずじゃ。攻めるぞ、響介」
「あ、ああ、分かった!」
紫水さんはそう言って息をついた後、その手にナイフを取り出した。
俺たちの、反転攻勢が始まった。
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