いざ⚔チャンバラっ!

素通り寺(ストーリーテラー)

スポチャン軍団がやって来た

第1話 阿鼻叫喚の入学式

 2030年4月。

 徳島県、国分寺高等学校改め、国分寺国際ハイスクール、その入学式の日。


「いよっしっ! さぁ、ここで今日から頑張るぞっと!」

 私、玉木 環たまき たまきは、新たに始まる学園生活に胸躍らせながら、んっ、と伸びをして校門をくぐった。

 心機一転。今までの暗い中学生活から、明るく楽しい高校生活へとデビューするんだ! と気合を入れる。


 この国分寺国際ハイスクール、今年から名前の改変と共に、教育方針の大幅な変更が決まっていた。国際化する社会情勢を鑑みて、外国からの留学生を大量に受け入れ、生徒一人一人に国際人としての自覚と経験を持ってもらおう、というのがその基本みたい。


 で、私はそれを知って、すぐさまここへの入学を決めたのだ。


 だって、だってですよ……私の名前! 苗字が玉木(たまき)で名前も環(たまき)とかありえないでしょうがっ!!

 小中時代の私のあだ名「たまたま」ですよ、「たまたま」! 何その男性イメージの呼び名はっ! 私はそんなもん付いてないっつーの、おのれ親あぁぁぁ!!


 ぜーはーぜーはー……。

 と、とにかくっ、国際色の強くなるであろうこの高校なら、私の名前もそんなにバカにされることもないんじゃないかと思ってココに決めたのよ。

『ヘイ、ユー。ファーストネームトセカンドネームガオナジナンテ、イカシテルネェ』

 なーんてイケメンの北欧系金髪イケメンに言われたりしてねぇ、ムフフのフ♪



「よう、たまたまじゃねーか。お前もこの高校?」

「その呼び名を止めんかいいぃぃっ!!」

 校門に入ってすぐにそう声をかけてきた腐れ縁の男子にツッコミと正拳をお見舞いする。が、私の拳はその無礼者の鼻先をかすめるに留まる……いつものことだけど。


「痛ってーな! 殴る事無いだろこの暴力女」

「触れるか触れないかで躱しておいてよく言うわよね、マジでボクサーにでもなったら?」

「しんどいのは嫌だ」


 この男、小学校から一緒のいわゆる幼馴染、村崎 紫炎むらさき しえん。何を隠そう私に「たまたま」というあだ名を付けた張本人である。お返しに「ムラムラファイアー」と付け返したが残念ながら定着しなかった。ま、あんま面白くないしね。

 ちなみにコイツ中学時代は剣道部のレギュラーだったんだけど、避けるのが上手い癖に攻撃がからっきしで、試合に出るとノーポイントで引き分けか判定負けばっかだった。まぁボクシングやっても同じ事だろうけどね。


「で、お前の方はなんの部活やるんだ? この学校は何らかの部に強制参加なんだろ」

 そう。この国分寺国際は伝統として、生徒全員が何らかの部活動に参加しなくちゃいけない決まりがある。私は中学まで柔道をやってたけど、さすがに高校まで来て格闘技に青春をつぎ込む気にはなれない。

「帰宅部があればいいんだけどねー。どーせスポーツ系の部活は絶望的だろうし」

「ま、そーだろうな。こんだけ留学生やら実績のある生徒が来てりゃあねぇ」


 国際化を果たしたこの高校。当然ながら各国からそれぞれのスポーツのエリート達が、豊かな日本で立身出世を目指してやって来ていた。

 さらに日本各地からも優秀なスポーツ選手がスカウト入学していて、高校からスポーツデビューしようなんて人に芽があるはずもない。

 現に今、入学式会場の体育館に向かう大勢の生徒たちも国際色豊かだ。金髪の白人もいればモンゴル系のお相撲さん体系の大男、南国情緒を漂わせる日焼けした生徒もいれば、なんかアフリカで野生動物でも狩っていそうな黒人さんまで様々だ。


 おそらく今年のインターハイから、この高校は県内はもちろん、全国での台風の目となるんだろうなぁ。


  ◇        ◇        ◇


 で、入学式が始まった。


『えー、皆さんは今日からこの国分寺国際ハイスクールの生徒として、国際人という自覚を常に持ちつつ……』

『留学生の皆さん。この日本での生活で、なぜこの国が世界でも有数の治安のよい国なのかをよく学んで……』

『世界の未来は皆さんの手にかかっています。お互いの文化を尊重し、良い所はどんどん取り入れていきましょう』


 まぁお約束の校長先生や来賓の方々の長々とした挨拶が続くわけだけど、確かに国際化した学校だけあって、今までの人生で経験したのとはちょっと違った内容の訓示が多く、おかげであんま眠気も襲ってこない。

 あと、よくよく考えたら日本語でそんな話をして通じるのだろうかと思ったけど、留学生達は先生の話に合わせて頷いたり息を吐いたり、時にはクスリと笑ったりしているので、ちゃんと勉強して来たんだろうなぁ、すごいと思う。


 ちなみに入学生の内訳としては、各国からの留学生が4割、スポーツや勉強での推薦入学が1割、普通に進学したのが5割(内、地元徳島は4割)といった具合だ。



『えー、それではこの後は、各部活動の説明に入ります』

 ひとしきりお偉いさん方の挨拶が終わった後、体育教師や部活顧問による活動説明会が行われるらしい。


 ……と、思ったら、なんか先生の一人が少し青い顔をして講壇に上がり、「今より十分ほど休憩といたします」とだけ告げて、慌ただしく下りて行った。



「なんだろ、何かトラブルかな?」

 隣に座っている紫炎ムラムラが私の肘をつついてそう話してくる。私もはて? と首を傾げつつ、この先の展開を予想する。

 世界中から新入生が集まった今日の入学式、日本に馴染めないはみ出し者がトラブルを起こすこともあるかもだし、逆に富豪のご子息やご息女、例えば小国の王子様なんかが入学してきて学校に注文を付ける、なんて事態もあるのかなぁ。

「漫画の見すぎだろ、それ」

「じゃかぁしい!」


 結局そのまま私達新入生は30分ほど待たされた。ようやく登場したのは、さっきは意気揚々と挨拶をしていた校長先生だ。が、今は真っ青な顔に冷や汗をかいて、神妙な表情を下に向けている……一体何があったの?



『えー、みなさんに一つ、残念なお知らせがあります』

 そう切り出した校長は、ため息を大きく吐いた後に、この場にいる大勢の生徒を驚愕させる事実を告げることとなった。


『本日入学した留学生、および推薦入学の皆さん。さきほど全国高校スポーツ連盟より通達があり……』


 一度残念そうに言葉を切って、すぅ、と息を吸い込み、言葉を紡ぐ。


『ご両親の引っ越し以外の理由、つまり推薦入学や留学生として入学された生徒さんは、残念ながら一年間、公式試合への出場を禁ずる、との事です!』


 ……へ?


 それは私だけではなく、今までの始業式を真面目に聞いていた新入生全員が、口や心でこぼした感想であった。



「「「えええええええええーーーっ!?」」」


 一呼吸おいて、講堂内が揺るがんばかりの悲鳴や怒号に包まれた。


 そりゃそうだ。スポーツ推薦の生徒も海外からの留学生も、勉強より部活で活躍するためにここに来たようなものだ。それが一年間は出場停止とかマジで?


「เพื่อครอบครัวอยู่ทื่ไทย ฉันต้องได้บรรลุประสิทธิผลดีที่สุดเร็วๆ(私は国の家族の為、少しでも早く結果を出さないと)」

「Om du börjar prestera bra som andraårselev kommer du inte att kunna glänsa på världsscenen.(2年生になってから活躍したのでは世界では輝けない)」

「Dicisne mihi ut annum proximum perdam?(これから一年を無駄にしろと言うのか)」

 会場のあちこちから外国語で怒りの言葉が飛び交う。校長はなんとか皆をなだめようとするが、留学生たちの沸騰したボルテージは収まりがつかないでいる。



「ま、無理もねぇわなぁ。みんな国や家族の期待を背負って、無理して日本まで来てるんだしな」

「だよねぇ……でも、上の言い分も分からなくもないな」

 紫炎の言葉に同意しつつ、私も今までモヤっていた反対側の正論を吐く。


 ここ近年の高校スポーツで、いわゆる特待生扱いでの外国人生徒の活躍があまりにも際立っていた。陸上、駅伝、野球やサッカーにラグビー、テニスにゴルフに卓球。そのタイトルのほぼすべてを外国人がかっさらって、各校はやっきになって優秀な人材を海外に求めてきた。

 結果、そういうコネや力やお金を持つ学校がスポーツ世界の上位を独占してしまったのだ。私もインターハイのTV中継とか見て、外国人選手が8割を占める現状に「これはちょっと違うんじゃないかなぁ」なんて思ったくらいだし。


 この国際高校に入学して、今度は私がその外国人助っ人戦力の学園側に立つことが、ちょっと気になっていた。

 しかし、しかしまさか入学式の、このタイミングでそれに規制が入ったことを告げられるとはねぇ……留学生にしたらたまったもんじゃないだろう。



「Hapana! Ningeenda nchi nyingine.(冗談じゃない! こんな事なら他の国に行けばよかった)」

「Татко, мамо... какво да правя?(パパ、ママ……私はどうしたらいいの)」

「一年的学费是多少?(一年間の学費どうしよう)」


 未だに会場の嘆きは収まらない。明るいはずの未来が一転して真っ暗になった留学生たちは、それぞれがマイナスのオーラをまき散らしながら、割り当てられた各クラスへと散っていく。



 そしてこの件が、後に私が所属する事になる、あるクラブ活動の大躍進の大きな一歩となるのであった。

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