第4章 次の一手に至る一歩(4)

 監視体制表についての認識合わせを終えて、他の社員は自身の業務へと戻っていく中、入堂課長とナギだけが部屋に残っていた。今回のリリース作業において、ナギには重大な役割があった。現地リリース対応だ。

 国民のメンタルデータおよびMenDACoシステムは、日本に7箇所あるデータセンターに構築されたサーバ上で稼働している。サーバのデータ自体は必要な権限さえ持っていれば、ネットワークの繋がるいかなる場所からでもアクセスすることができる。だが、プログラムの書き換えに関しては基本的に外部からの操作は禁じるセキュリティが設定されている。

 唯一、ノーチラスシステムの社内には書き換え権限を有する専用回線が設けられてはいるのだが、常にプログラムの状態は監視されており、現状のプログラムに対して約5%以上の変更が行われた場合は自動的にバックアップされた元のソースに修復される仕組みとなっている。普段の軽微な修正であればこの回線を通じてのリリースで事足りるのだが、今回はそれを上回る量の変更及び追加が発生する。

 その場合、サーバ端末へ直接アクセスして変更を加えなければいけない。つまり、自社からの遠隔操作ではなく、直接そのデータセンターへ赴いて、物理的にプログラムの書き換えを行わなければいけない。


 書き換え作業自体は単純なものだ。データセンターに行き、対象の端末に変更プログラムの保存されたUSBメモリを挿し、書き換えツールを実行する。あとは数分待つだけで終わる。

 これまでに現地で行われたリリースは2回。初回は1からの構築だったので状況が異なるため、完全に同じ手順で実施されたのは1度だけ。初回リリースから半年後に発覚したバグ(正確にはMenDACoシステムのプログラム自体には何ら問題は無かったのだが、通信システム側に問題があり、それに対応するためにやむ無く修正を余儀なくされた)対応として、MenDACoバージョン1.1をリリースする時だ。

 その際には課長が対応したのだが、今回は仮にリリースによって何かしらの障害が発生した時に社内の指揮命令で動けるように待機しろと上から命じられてしまった。そこで白羽の矢が立ったのがナギだった。

 ナギはMenDACoプロジェクトのかなり初期から携わっているとは言え、やはり機密性を保つには、その秘密を知る人は少なければ少ない方が良いとの判断により、未だに現地に足を踏み入れたことはない。責任のある役目だった。

 それは、それだけ彼女が信頼されている証左でもある。

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