第8話 婚約者候補がやってくる。

今日は朝から騒がしい、婚約者候補のお出迎えもあるが、隣のローズベルトとの境付近で、魔物が出たというのだ。それも、10匹近く確認されたとのこと、


よりによって、婚約者候補が集まるこの日にとは、彼女達にもしものことがあったら一大事だ。エイビス様はすぐラベンダー様に、魔物退治を依頼した。


まあ、皆、護衛を連れているから、そう簡単にやられはしないだろうが、情報が本当なら、10匹の魔物にかかってこられたら、危ないだろう。


午前10時、幸い魔物に出くわすことなく、続々と隣国のお姫様や、令嬢が集まってきた。


さすがに多すぎて、挨拶は、最低限にし、中へ案内した。本人とお付の方3人までで、残りの従者は別室で食事だ。


「エイビス様と結婚したい方って、こんなにいるんですね」

ジューロが呆れ気味に話した。


私はエイビス様に聞いた。

「いずれも、花か蝶か、綺麗な方ばかり、特に気になった方は、いらっしやいませんでしたか?」

なぜかジューロご答えた。


「今のところ、いませんね。それに僕はテイン一筋ですから」

お前に聞いてないから


そのテインは、やはり隠れてもらっている。

何とか、来賓者を捌いて、大広間に集めた。


エイビス様の挨拶が始まった。

「皆さま、本日は遠路はるばる私の誕生日に・・・・」

まあ、ありきたりな挨拶は誰も聞いていない。それより、今か今かと待っているのは、エイビスとの対話だ。


「これより皆様、ご歓談ください」

音楽が流れ、料理や飲み物が運ばれてきた。

当然、いっせいにエイビス様の元へ群がった。我先にと群がる令嬢達を相手にするのは大変だろうが、事前に想定済で、うまく裁いているようだ。


こんな中でも余裕な方はいる。その方は私が選んだ方たちで、この後、個別に時間を設けているのだ。


二時間ほど経ち、エイビス様は一度退出することになり、私が付き添った。

「エイビス様、いかがでしたか?」

「予想はしていたけど、疲れるものだな」

情報だけではわからなかったが、かなり美しい方もいたので、

「お気に召した方もいらっしゃったのでは?」

と聞いてみた。


「う~ん、どの令嬢差異がわからないのが、正直な感想だなあ」

わあ~、みなさん頑張ってたけど、撃沈か~

「でも、一人だけ気になっている方がいて」

「どなたですか?」

「たしか、セリーナさんとか言ったかな、とても悲しそうで」


この手があったか、あえて愛想よくふるまわないことで、気を引く。

だとしたら、やり手だが、セリーナ様はテルメシア王国の王女だ。そこまで計算高いとも思えないな、私の考え方の方がいやしい。

「では、その方も個別にお呼びしましょうか?」


エイビス様は少し考えてから、

「頼むよ、婚約うんぬんよりも、何か困っているように見える」

「ゴホッ」

う~ん、お優しいエイビス様の純真さに心が痛い。

「アリ~、どうしたの」

「いえ、なんでもありません」

慌てて平然を装った。


午後1時になり、

「まず、ビーシャ様が呼ばれた」


「どうぞ、お入りください」

一番に呼ばれたことがお気に召したのだろう、満面の笑みだ。


「この度は誕生日おめでとうございます。私のこと、ぜひよろしくお願いいたします」

対して、エイビス様は

「私の方こそ、よろしくお願いいたします・・・・・」


少しの沈黙の後、私は

「それではビーシャ様、ご退出をお願い致します」

「えっ、それだけ?」

「はい、後が詰まっておりますので」

「そんな、私だって、もっとアピールを」

「あ~、はいはい、ビーシャ様はもう確定しているので、形だけですから」

「えっ、え~」

何か言いたそうだったが、とっとと部屋を追い出した。


続いて、スーレイク国の王女、ククリーヌ様だ。魔法についてよく勉強されており、王国魔術学院をトップで卒業されている秀才だ。その上美しい。

「はじめまして、ククリーヌです。よろしくお願いいたします」

「エイビスです。どうぞお掛けになってください」

私は紅茶と、クッキーをお出しした」


「どうですか、シルクソルトは?」

「はい、街道の整備が行き届いていますし、港も大きいですね、グランディール王国の玄関にふさわしいと思います」

「それに、ごみを見かけないので、治安のよさが想像できます」


「お褒めにいただきありがとうございます」

町の様子をしっかり見ながらきている。かなりできた王女のようだ。


「ところで、失礼かもしれませんが、一つお聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか」

「どうぞ遠慮なく」

「ありがとうございます、では、エイビス様は、王になられるつもりはありますか?」

「まったくありませんが」


彼女は安心したように、

「それは、良かったです」

「は~、もしかして、みなさんそうですかね」

「もちろんです。皆さん考えることは同じで、優しいと評判のエイビス様の元で、のほほんと,好きな事をして暮らしたいのです。王妃になんてなってしまったら、社交界やら、外交やら忙しいでしょう!」


わ~この人、どうどうと怠けたいと言ってのけた。しかし嫌な感じはしない、サバサバしていて好感がもてる。


「ではククリーヌさんは何かやりたいことがあるのですか?」

「はい、魔法をもっと研究したいです」

「なるほど」

どうやら、怠けたいというより、研究をしたいようだ。


続いて、この国のカシーム侯爵令嬢、ハーニャ様だ。

「ハーニャです。よろしくお願いいたします」

この方とは何度かあったことがある。いつも明るいブロンドの美女だ、社交界でも評判がいい。


「お久しぶりです。ハーニャさん、シルクソルトはどうですか?」

「いいところだと思います」

愛らしい笑顔だが、それだけだった。


「何か、お聞きになりたいことはありますか?」

「はい、逆に、結婚したら、私がしなければならない特別なことがありますか?」


「そうですね、特別にはありませんが、当面は」

「それは良かったです。正直いって社交界で愛想を振りまくのも疲れちゃって」

あ~、みなさん安息の地を求めてるんだな。


次に、クシャーナ王国の王女、カヤノ様だ。王国の魔法大学に在籍中だ。生徒会長を務める人気もの。

「はじめまして、カヤノです」

「お久しぶりです、ヴェネです」

これはサプライズだ、従者として勇者一行のヴェネ様がついてきた。


「これは驚きました。先ほどは見かけなかったのに」

「へへ、驚かしてやろうと思って、隠れていました。」

ヴェネ様は勇者一向のメンバーだが、異世界から来たわけではない。この世界では、ビーシャ様がくるまで、最高の魔法使いと言われ、エイビス様も教えを受けたことがある。


「いや~、教え子が、エイビス様の誕生会に行くので、休みが欲しいなんていうから、少し応援してやろうかと思って」


「ビーシャとは会いましたか?」

「さっき会いました。立ち直っているようで、良かったです」

「勇者の件ですね」

「ええ、まあ、あんなのに引っかかるのも馬鹿なんだけど」

「あんなのでも、勇者でしょ」

「ええ、でもクズですよ、ここだけの話、私にもチョッカイ出してきて、女ならだ誰でもよかったんじゃないかと」


こんな話で盛り上がってしまってカヤの外になってシマッタカヤノ様だが、嫌な顔一つしない、忍耐強い方だ。


次にメルフィー様も一応形だけ

「お兄様、誕生日おめでとうございます」

エイビス様は少し驚いていた。何しろ内緒にしていたもので。

「あ、ありがとう、メルフィ」


「お兄様、私は今回選ばれなくても、仕方なく思っています」

どういう風の吹き回しか、

「候補のみなさんを見て思いました。みなさん大人で、素敵な方ばかりでした」

「でも、あきらめた訳ではありません。必ずお兄様に似合うレディになってみせます」

思わず私は

「頑張ってください、メルフィ様」

そう言ってしまった。


メルフィ様が退出された後、

「アリー、そういう事か、謀ったな!」

私は目を合わせず、

「まあ、あと何年かしたら、気が変わるかもしれませんし、立派な淑女になられたら、それはそれで・・・」

さすがに、「候補者に入れない」と、メルフィ様に言えなかった。


最後にセリーナ様だが、その前に、大きな帽子をかぶって、テインが入ってきた。

「エイビス様、アリー様!」

「どうしたのですか」

隠れている約束のテインがくるのは、ただ事ではない。緊急の事だろう

「カルデスがいます」


緊張が走った。

「カルデスってあの魔王軍四天王の生き残りの?」

「はい、間違いありません。どなたかの令嬢の付き人をしているようです」


「すぐに確認しましょう、テイン来てください」

そう言って、物陰から大広間を覗いた。

「あ、あの水色のドレスに付き添っている」

あ、あれはセリーナ様の侍従だ。角は?

「角がないけど」

「上級魔族になると、角は視覚魔法で見えなくできます」


部屋に戻ってエイビス様に話した。

「何が目的だろう」

「わかりません。」

「とりあえず、呼んでみましょう。危険なので、彼女だけを呼んできます」

「わかった」

「それと、テインはビーシャ様にこのことを伝えて」

「わかったわ!」


すんなり、セリーナ様だけを連れ出せた。

「この度は、誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます」


「ところで困ったことがあるようですね」

さっきよりも悲しい表情で。

「すみません。何も言えません」


この一言と表情で多くがわかる。

この会話を他のものが聞いている可能性があるのだ、もちろんカルデスだろう。

それに、反抗できないということは、弱みを握られていると推察できる。

暗い顔は悪いことを隠していることを物語っている。


「わかりました」

エイビス様は私の方を見て、話題を切り替えた。

「シルクソルトの町はどうですか?」

ありふれた会話を続けてもらった。


もしかしたら、視覚も共有されているかも、そう思った私は、彼女の後ろにまわり、

「背中に糸くずが付いております」

そう言って、彼女の背中に「目は」と指でなぞった。するとわずかに、それでも確かに首を横に振った。目もだめだ。


それでも何とか目的を聞かなければならない。私は少し落ち着いて考えた。

ここは、禁術を使ってでも調べなければならない事態だろうか・・・


決まった。禁術を使う。

それは心を読む闇魔法だ。人と人との関係を悪くするため、20年前から禁止されているのだ。自分にかけ、対象者に触れることで、心を読めるのだ。もちろん詠唱は知らないので、いつもの手だ。


「開け私の書庫、闇魔法の棚、禁術の書、読心術の項」

あった。





















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