第6話 姉の帰還

第二陣の兵がお昼ごろ到着予定と連絡があった。

この中には、シルクソルトの出身者が多く、港では多くの者が出迎えるようだ、

よって、そのまま自宅に帰る者もいるので、城に来るのは、600人ほどだ。昨日よりだいぶ楽だ。


そこで、早めの昼食をとり、歓談していた。


「テインちゃん、一度でいいから…」

「はあ、死んでくれたら考えるわ」


あきらめず、テインにちょっかいを出すジューロに、ファントム様が聞いた。

「お前は、本当に胸の大きい娘が好きだな、だが、わからぬ、お前の姉も立派なものを持っているだろう、なぜあんなに嫌う?」


「何を言っているのですか、おじい様、あんなのとテインを一緒にしないでください。あれは、筋肉ゴリラっていうのですよ」


「ジューロ、それは言い過ぎだよ」

エイビス様がたしなめたが、ジューロの口は止まらない。


「だって、姉さんのあの剣、部下が二人がかりで運ぶんですよ、それを軽々と振りまわすなんて、あの胸なんて、大きいけど、鋼のように固いに決まってます」


その時、饒舌に話すジューロの後ろの扉が開いた。

「誰が筋肉ゴリラだって」

「そんなの決まって・・・」

ジューロの姉、ラベンダーが立っていた。振り向いたジューロの顔が一瞬で青くなった。


「そのことは、後でキッチリ詰めるとして、エイビス様、只今もどりました」


「あ、うん、あなたの活躍はよく聞いています、本当にご苦労様です」

彼女は、この町の騎士団団長で、王国でも5本の指に入る剣士だ。やはりファントム様より、小さいころから鍛えられた結果だろう。


「ラベンダー、よく無事で戻ってくれた」

ファントム様が涙ながらに話した。


「それはそうと、戦地では魔族とうまく協力しているそうですね」

「はい、レンム様から聞いていると思いますが、いくつか理由があります」

「うん、それは後でゆっくり聞きたいな」

「もう皆着くのでしょう、ゆっくり食事をとってください」

「はい、かしこまりました」


「ジューロ、逃げるなよ!」

ラベンダー様から釘がさされた。


こうして、第二陣の慰労会も盛大に行われた。今日も大忙しだ。

皆楽しそうにやっているが、ラベンダー様は落ち着かない感じだ。そして、しびれを切らして、ジューロに話しかけた。


「ジューロ、なんで私が、港につくなり、部下をおいて馬を飛ばしてきたかわかるか?」

「いえ、まったく」

「狭い船室で体がなまってしまってね」

「それで、体を動かしたかったのですね。それはすっきりされたでしょう」

「ああ、だが、まだ足りないなあ、剣術の模擬戦でもしたいな」

 

ジューロは焦った。これは自分とやれと言いたいのかも、そこで、

「おじい様、姉上が模擬戦の相手をしてほしいそうですよ」

ジューロは先手を打った。しかし

「ゴホッ、よる年波には勝てなくてのう、ゴホッ、お前が相手をしてやりなさい」


ジューロが反論しようとしたところ

「ありがとうジューロ、気が利く弟を持って私はうれしい、さあ、行こう」

「ちょっとまっ・・」

「おじい様、助け・・」

ジューロは修練場に引きずられて行った。


私はラベンダー様の胸に、珍しい勲章が付いていることに気づいた。確か、

「あのー、ファントム様、ラベンダー様のあの珍しい竜の勲章」

「ああ、気づいたよ、ドラゴンバスターだね」

「私の全盛期でも、ドラゴンを一人で倒すのは無理かと、もはや王国トップでしょうな」


「ジューロ、大丈夫ですかね」

「手加減してくれれば、大丈夫でしょう、それでも命がけは必至かなと」

あわれジューロ、安らかに、ノンノン


さて、その夜、エイビス様とラベンダー様の会談が始まった。

「例の理由とやらを聞かせてください」

「はい、魔王が死ぬと、すぐに魔物が暴走を始めました」

それはそうだ、実際にこの町で経験しているのだから、わかる。


「元々魔族は、知的で優雅な生活を望んでいるのが大半、戦いを望んでいるわけでは無いようです。特に若い女の魔族などは、人間の作るスイーツに目がありません」

ああ、それもテインで経験済みだ。


「魔物の暴走で逃げ惑う魔族を保護したところ、彼らは友好的になりました」

「共に魔物の討伐にもあたりましたし、けが人の救助もしました」

「よく魔族の保護を決断しましたね」

「はい、レンム様の指示です」

あの色魔がこんな形で役立つなんて、


「ただ、喜んでばかりいられません。魔物は危険です。世界中に分散されていたのが、魔王によって集められてしまったのですから」


「特にドラゴンは危険です。普通の人間に倒せる相手ではありません」

「どれくらいいますか?」

「はい、300匹はいます。私でも5匹倒すのがやっとでした」


あまりの強さに、私がドン引きしてしまう二人目だ。ドラゴン百人と言われるほど、相対した時に戦う兵の数をいう事がある。それを一人でとか化け物だ。ジューロ生きてるかな?


「それで、どうすればいい?」

「はい、冒険者に賞金を出して、討伐させたらいかがでしょう」

「アリーどう思う?」

エイビス様が聞いてきた。

「名案かと思います。兵士たちは休息が必要です」

「よし、決まりですね」


「しかし、よくそんな数のドラゴンの攻撃に耐えましたね」

「はい、ラメーノ様のおかげでしょう、早くから北の砦の大規模な強化と、防空設備に取り組んでいましたから」


そう、ラメーノ様は巫女で、世界で唯一神様と対話ができるお方だ。その力で、この国を大陸最大の国家に成長させたのだ。だから、魔王の進撃も予測できたのだ。


「そうか、我々は、あのお方のおかげで、かなり助かりましたね」

「はい、征服されてしまった国々と違い、民間人に、被害が出ませんでしたから」

「他の国々も、ラメーノ様の忠告を聞いていれば…」


あの頃、ラメーノ様は必死に他国へ呼びかけた。しかし皆、自分達の力を過信して、防衛強化をしなかったのだ。


結果的に、わが国の発言力は高まった。


「それと、まったく別のことで、一つご相談があります」

「なんですか?」

「実は、助けた魔族の一人にプロポーズされまして、どうしたものかと」

これはびっくりだ、レンム様に続いて、また?


「まあ、それは本人が決めることてすが」

「君はどうしたい?」

「それが、わかりません。ただ、なんかモヤモヤした気分です」


次から次へと、色恋沙汰が、なのに私には縁がない、

「アリー何か意見はないか?」

私は少しふてくされていたので、ぶっきらぼうに、よく考えず言った。

「結婚されてはいかがですか? あ、でも一度お会いになった方がいいかも」


「わかりました、すぐ呼んできます!」

この時私は後悔するとは思わなかった。

「初めまして、ゼルフィと申します。主に武具を作ることが得意です」


私とエイビス様は固まった、この魔族、めちゃくちゃイケメンなのだ。

「ああ、ここの領主をやっているエイビスだ、よろしく」

「ところで、ラベンダーのどこが良くてプロポーズを?」

ありきたりの質問だ。

「すべてですが、特にその優しさと、美しさです」


ラベンダー様は顔を真っ赤にしている。

「ラベンダー、君は彼のどこが気に入っていますか?」

「せ、誠実なところで、す」

もう心は決まっているじゃない。

何これ、なんでのろけ話を聞かされなければならないの?

私は自分を呪った。


「わかった、君たちを祝福します」

ゼルフィがお辞儀をして

「ありがとうございます」

「なんか急にスッキリしました。エイビス様ありがとうございます」

ラベンダー様は至福の笑顔だ。


だが問題が一つある。どこに住むかだ。この町では、まだまだ魔族への反感は強いだろう、

「それで、これから何処に住む?」

皆、沈黙した。

「アリー頼むよ」


はいはい、あ~あ、と思いながらも探した。

「開け私の書庫、人と魔族の共存地」

あった。無いと思ったがあった。

「ファーミルネ山の中腹に、ラットンという小さな村があります。そこで共存しているそうです」


「以外と近いな」

「はい、ここでしか作られていない、特別な綿花があるそうで、王室に納められています」


「特別な栽培方法で魔族しか扱えず、それで魔族の生活が許されているようです」

エイビス様の領地内だが、王室の直轄地になっているようだ。


「一度、行ってみたらどうかな」

二人は目を見合わせてうなずいた。

「はい、そうしてみます」


こうして彼らは、その地に向かうことになった。これを誰より喜んだのは、ジューロだった。もう、帰ってこなければ最高と言っていた。


帰還兵の出迎えがようやく終わったころ、何とラベンダー様と、ゼルフィが住居を決めて戻ってきた。馬で1時間ほどかかるが、騎士団隊長として通うそうだ。


その報告に来た。

「エイビス様、ありがとうございます。ラットン村は、とても良いところでした」

「それは良かった」

「村の人口は65名、そのうち魔族は13名もおりました」


「それで、村長に話したところ、受け入れてもらえることになりました」

「では、後は結婚式でもやりますか?」


私が半分冗談のつもりでいうと、ラベンダー様が顔を赤くして、

「それは、恥ずかしいからいいです」

そう言ったので、私は少し意地悪をしてやりたくなった。


「いえいえ、大事なことです。女性にとってかけがえのない、ねえエイビス様!」

「あ、うん、盛大にやろう!」

「え、え〜」

ああ楽しい、ラベンダー様の顔は、もう真っ赤だ。


こうして急遽翌日に、結婚式が行われる事になった。私はその準備をメアリーにまかせて、ウエディングドレスの製作に入った。


裁縫が得意なことは、ナンバーズに入るに必須だが、ウエディングドレスは作ったことは無い。そこで


「開け私の書庫、ウエディングドレスの作り方」

あった、私は徹夜でドレスを完成させた。


次の日、ドレスの着付けが始まると、

「アリー、この素敵なドレス、どうしたの?」

「えっ、昨晩作りましたけど」

「これを一晩で?」

「そんな、こんなことって、ありがとう!」

そう言って泣いて喜んでくれた。


結婚式か始まった。ゼルフィを見たメイド達は大騒ぎだ。まあ、わからないでもない、この町に彼ほどのハンサムはいない、


ラベンダー様の登場だ。

参加した彼女の部下達が驚いている、スタイルの良さやを生かし、メイクを施すとかなり美しい。


「フュ〜 団長、綺麗ですよ~」

声がかかると、照れくさそうに、

「うるさい!」

そうは言ったが、顔を赤くしながらも嬉しそうだ。


こうして、結婚式は盛大に楽しく催された。

ウエディングドレスのラベンダー様は、なんて幸せそうなのだろう、私にもいつかこんな日が、


チラッとエイビス様を見て、ため息をついた。

「儚い夢よね」

















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