アリーの書庫

リトルディッパー

第1話 美しい朝から・・・

 窓を開けると、爽やかな潮風と日差しが舞い込み、朝焼けの港が遠くに見えた。


エイビス王子が治める、このシルクソルトの町は、本当に美しい。


「今日もいい日になりますように」メイドとしての一日が始まった。


 しかし、それは突然訪れた。

 「アリー!」

扉を勢いよく開けて、私の名前を呼ぶのは、エイビス様だ。

先ほど日課のマラソンに出かけたばかりなのに、もう帰ってきたのはおかしい。

何かあったのだろう。すぐに駆け付けた。


「どうなさいました、エイビス様」

「アリー、見てくれ、海岸で倒れているこの娘を拾ったんだ」

見ると、赤い髪をした、年は18歳前後の若い女性を背負ってずぶ濡れになっている。


「意識が無いし、呼吸も浅いようだけど、助かるだろうか、どうしよう?」

慌てた様子でバタバタしている。

すると、いつも護衛としてマラソンにお供するジューロが隣で言った。


「無理じゃないっすか、魔力値が3しかない。5を切ったら、ほとんど助からないのは常識ね、俺の鑑定は結構正確、フッ”!」


ジューロにはムカつくけど、確かにこの世界ではそうだ。多かれ少なかれ、すべての人が魔力を持っている。ただし、魔法を使うと数値は一時的に減ってしまうので、使いすぎると命に関わる。


「落ち着いてくださいエイビス様」

そう話しかけたが、落ち着けないようだ。

「でも、急がないと、この娘が死んでしまうよ」

私は、エイビス様の顔を掴んで言った、

「落ち着かないと、キスしますよ!」

「・・・・うん」


ようやく、少し落ち着くと、ジューロが笑ったので、彼の股間に蹴りを入れてやった。

「うげっ」

なんとも言えない声が響いた。ああいい声だ。


 そうしているうちに、執事のファントム様や、他のメイド達も集まって来た。

私は改めて難しいと言おうとしたが、ふと目に留まったものがあった。


ジューロが持っている魔法の杖だ。

「ジューロ、その杖は?」

「うう、この娘が離さず持っていた」

苦しそうに言った。


 その杖に光があたり、七色に光った瞬間思い出した。

そして私の背中に戦慄が走った。


「この方は、何としても助けなくてはなりません!」

「えっ、何で、?」

あきれたように言うジューロに言った。


「その、虹の杖を見て、わかりませんか?」

「もしや、」

ファントム様は気づいたようだ。

「そうです。先日魔王を倒した、勇者一行の大魔法使い、ビーシャ様です」


そうなのだ、人類最強の魔法使いと名高いビーシャ様は、赤い髪と魔王討伐にあたって授けられた国宝、"虹の杖”を持っていることが特徴だ。


なぜ海岸に倒れていたのかはわからないが、そのことは後で考えるべきとして、今は何とか助けなければならない。


「わかった、全力を尽くそう」

エイビス様が真剣な眼差しで言うと、

「でも、無理じゃね?」

ジューロがろくでもない言い方をした。


そういうジューロの首根っこをつかんで、ファントム様が言った。

「どうやらお前は、人間として何かが足りないようだな、今日の修行は地獄だと思ってくれ」


そう、ファントム様は、元グランディール王国騎士団長である。引退したとはいえ、その実力はかなりのもので、ジューロはその孫にあたる。そんな関係もあり、ジューロは小さいころから鍛えられていて、剣術の腕だけは確かだ。


「おじい様、それだけはどうかご容赦ください」

泣きが入ったが、同情の余地はない、今回もそうだが普段から問題で、よくデートに誘ってくるも、私の胸しか見ないゲス野郎なので大嫌いだ。


「ファントム様、殺さない程度でお願いしますね!」

「そのあたりは、ギリギリをよく心得ております」

「みんな、鬼だ、 助けて~」

彼は、引きずられて、扉の向こうへ消えていった。


 おっと、こんな悠長にしている場合じゃなかった。私はメイド長として指示をだ出した。

「エイビス様は、ビーシャ様をこのまま二階の客室へ」

「メアリーは、ありったけの回復ポーションを持ってきて、」

「リズは、タオルを10枚ほど」

「クリスは、客室の暖炉に火を」


 客室に運ばれたところで、濡れた服を脱がせようとすると、エイビス様が、まだいらした。そこで声をかけた。


「見たいのですか?」

「いや~、何か手伝えることがないかと思って、」

「今しばらくは、男子禁制です」

「それより、溜まっている書類をお願いいたしますね」

「わかったよ、何かあったら呼んでくれ!」

そう言って、恥ずかしそうに部屋を出た。


 なんとも可愛らしい方だ、顔を赤くしている。

本当は、わかっているのだ、お優しいエイビス様は、自分が助けた方を私に押し付けてしまったように、責任を感じているのだろう。けっしてビーシャ様の裸を見たいわけではなかろう。いや、多少はあるかな?


 ようやくビーシャ様の体を拭き、ベッドへ横にして、改めて容体を確認した。

外傷はないようだが、体温は低く、脈も弱い、このままではもたない、私はメアリーにお願いした。


「私は体でビーシャ様を温めます。今日の仕事はあなたに任せるので、よろしくお願いします。」

「自信はありませんが、できるかぎり、頑張ります。」

「大丈夫、あなたら」

彼女は、私と同じ18歳で、よく気が利く娘なのに、自信のなさが、たまにキズだ。


 さて、私は服を脱いでベッドに潜り込み、ビーシャ様の肌にふれた。

やはり冷たい、しばらくは様子をみよう、そう思った瞬間、ビーシャ様の魔力値が2に落ちた。 様子見する時間などないことを悟った。


 そこで、ポーションを飲ませることにした。少しでも飲んでくれれば、回復のきっかけにつながると考えたが、甘かった。


もはや飲む力が無いことはもちろん、強引に注いでも、むせるだけだった。こうなったら、とっておきを使うしかない。


「開け、私の書庫! ポーションの棚、回復ポーションの書、ポーションの摂取方法の項」


そう、私は、見たもの聞いたことすべてを記憶し、頭の中へ書庫があるかのように整理して、記憶できるのだ。元の世界でもこの力で活躍できたのだ。


あった、ポーションが飲めないときの摂取方法。

{まず、回復対象者以外の者がポーションを摂取し、ドレインタッチを使って、魔力を譲渡する。}

私は、記憶力はいいが、バカだ。こんな単純な方法があったなんて・・・・


しかし、後悔している時間は無い、すぐに試してみた。


私はポーションを一本のみ唱えた。

「ドレインタッチ!」

少しゾクッとして、一瞬で吸い取られたことがわかった。

慌てて、手をはなしてしまった。


「えっ、今の何」

あまりに早すぎて、これでいいのかわからなかった。そういえば、先ほどの書に注意書きがあった。たしか・・


{もともと魔力値の高い人に行使する場合は要注意。提供者の命に関わるほど、吸収されてしまう場合あり。下図を参照するように。}

 ポーション一本の消費時間

  平常時魔力値 100以下・・・・10分

     魔力値 300以下・・・・5分

     魔力値 500以下・・・・1分

     魔力値 900以下・・・・20秒


 私は驚嘆せずにいられなかった。ものの3秒で消費されてしまったのだから、ビーシャ様の魔力値は想像のはるか上を行くことになる。


これは、へたをすると、私の魔力をすべて持っていかれる。というか、さっき慌てて手を離さなかったら死んでたな、提供者の生命に関わるというのも、ウソではないようだ。


 そこで私はできるかぎりのポーションを飲み、ドレインタッチをすることにした。

何とか12本を吐きそうになりながら飲み干して、慎重に事にあたった。


 今度こそ、

「ドレインタッチ!」

ビーシャ様の魔力値が上がり始めた。7,8,9,10、体温も上がり始めた。


するとビーシャ様の体が緑色に光りはじめた。この光は知っている。自己回復魔法の自動発動だ。ここまで来れば、峠は越えただろう。一安心だ。

  

 少し余裕が出て改めて彼女を見た。実は5年ほど前に彼女と会っているのだ。

ごく僅かの者しか知らないが、彼女も私も、異世界から世界を救うために召喚された者の一人だ。


 彼女は突出した魔力とスキルを持っていたので大事にされ、すぐに宮廷魔術師による訓練に入った。それに対して、普通より少し上程度の私は、孤児院に送られることになった。


 私は大事な使命を思い出した。

持ち前の記憶力を武器に、この世界のことを勉強し、王室メイド試験に合格、さらに努力した。


その結果、200人以上いるメイドのトップ9人、ナンバーズに選出され、第一王妃より王妃令を受けているのだ。


 その王妃令とは、エイビス様の婚約者の選定だ。

優秀で優しいと評判のエイビス様には求婚者が絶えない。そこで候補者を5人程度に絞り込むよう命じられているのだ。

 

 そう、私はビーシャ様に目をつけた。魔力値の高い方との子供は、最低でも半分魔力値を受け継ぐと言われている。


王家は初代以来、魔力値500を超える者が出ておらず、それを危惧する者も多い、だから、まさにもってこいだ。


それに5年前から見ると、本当にお美しくなられた。長い脚、引き締まったウエスト、透き通るように綺麗な肌、どれも私には無いものだ。思わず頬ずりしてしまった。


 う~ん、いけない、いけない。道を踏み外しそうになった。ここは自制して溜息をついてつぶやいてしまった。

「あーあ、私が勝っているものといえば、胸の大きさくらいか?」


そう、私も候補者になりたいところだが、私より美しく、才能に恵まれた、多くの良家子女から応募が殺到しており、私の入り込む余地は無いだろう。


 そうこう考えているうちに、ビーシャ様が目をさました。

「ここは?」

「グランディール王国、第六王子、エイビス様のお城です」

「エイビス様?」


まだ頭がすっきりしないのだろう、それでもお礼を言ってくれた。

「ありがとう、助けてくれて」

「いえいえ、当たり前のことをしただけです」

「ところで、海岸で倒れていたのですが、何があったのですか?」

「う~ん・・・」

言いにくいようなので、話を切り上げるよに言った。


「差し出がましことを言ってしまったようです。何も考えず、今はもうしばらくお休みください」

すると彼女は安心したよに、眠りについた。


 私はメアリーにビーシャ様が助かったことと、しばらく付き添っていることを伝えた。すると扉の向こうで喜びの声が上がった。

 

 ところで、ビーシャ様はどうして海岸に倒れていたのだろう、理由を知りたくなってしまった。何しろエイビス様の婚約者にと考えているのだから、いろいろ知っておきたい。


しかし、本人は話したくないようだ。そこでまた、使ってしまった。


「開け私の書庫、勇者一行の話題」

すると、いくつかの号外が出てきた。魔王討伐に成功した勇者一行の様子を描いた数枚と、勇者クロックが、魔王に支配されていたミケーネ王国の王女と結婚した様子などだ。


これを見て、もしやと感じた。

 

するとビーシャ様が飛び起きて泣き出した。

「どうして、わたしなんか死ねばよかったのに」



 













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