シンデレラ証券口座 ～借金OL、100万円の挑戦と恋の利回り～

第一章〜財界のシンデレラ〜

プロローグ：口座残高 -1,042円

　スマホの画面に映る、銀行口座の残高。「−1,042円」。

　数日前までは、まだギリギリプラスだったはずだ。

　朝のコンビニで買ったおにぎりが、最後の一押しだったのかもしれない。

　私の名前は天道美咲、まもなくアラサーに突入する、中小企業につとめるしがない会社員（OL）。

　電車の中で項垂れる私の横では、制服姿の女子高生がイヤホンでSNSを眺めている。

　「秒で億り人になれる方法。これが最後の募集」

　「貯金ゼロだったシンママが副業で月収100万♡」

　「新NISAで成功毎月5万円の配当生活」

　そんなサムネがスクロールされていくのを見て、思わず目を背ける。

　私はそれを、信じた側だった。

　あのときのアカウントは、アイコンもプロフィールも完璧だった。

　女性限定の副業情報を紹介していて、DMで相談したら、ものすごく丁寧に返してくれた。

　「最初は自己投資が大事」「私も最初は不安でした」

　――優しい言葉と成功体験のスクショの山。

　信じた。やっと人生が変わると思った。

　そして、教材費と称して50万円を振り込んだ。

　送られてきたのは、ネットで拾ったようなPDF資料と、今はもう繋がらないLINEアカウント。

　どこかで見たことのある無料noteの内容に、「月収100万」とか「再現性あり！」とか、色だけ変えて上書きしただけのクズ情報。

　それでも諦めきれず、次に参加したのが「新NISA活用セミナー」だった。

　会場にはスーツ姿の男たちと、明らかに“勧誘されてきた”ような女性たち。

　まあ私も、そんなバカな女の一人だったわけだけど。

　紹介された投資先は、何をどう見ても新NISAでは扱えない仕組み債に似たゴミ商品ばかり。

　挙げ句には「新NISAでは稼げません」と言い出す始末。何のためのセミナーだったのか、意味がわからなかった。

　「月利10％保証」「損失補填あり」「今だけ紹介特典」

　――でも結局、バカな私は最後の貯金を差し出し、案の定、ポンジスキームに巻き込まれた。

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【ポンジスキーム】

高利回りを謳い後から参加した人の資金で、前の参加者に配当を払い最後は投資金を持ち逃げして解散する典型的な詐欺スキーム。

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　残ったのは、金融庁からの警告メールと、カードローンの借金と、信用情報の傷だけ。

　夜の自宅、冷蔵庫は空っぽ。唯一あるのは、値引きされた納豆と、期限切れ間近の卵。

　スマホを開いてみる。

　通知欄は未払いの督促メールで埋まっている。

　そのカオスな画面は、まるで私の人生の墓標みたいだった。

　会社では毎日パワハラ。家では返済。口座は赤字。

　増えるのは、支払い利息だけ。夢や希望は、もうどこにも見当たらなかった。

　――それでも、人生を変えたい。

　こんな私にも、まだ意地があった。

　だからこそ、このままじゃ終われない　

　もう一度、やり直したい。

　でも、このときの私は知らなかったのだ。

　たった一つの証券口座が、私の人生をここまで変えるなんて。