日差しを避けて水風呂へ
夏が来ると、みんな「海だ! 」「プールだ! 」と浮き足立つ。
水着やビーチボール、キラキラした日焼け止めの広告。
それを横目に、彼女は毎年、そうっと距離を取る。
「日焼け、無理なんだよね」
そう言って笑うけれど、冗談でもなんでもない。
子どものころ、炎天下の校庭で肌が真っ赤になってから、太陽にはちょっとした恐怖がある。
日焼け止めを塗っても不安で、帽子をかぶっても不安で、結果、外に出るのが億劫になる。
今年も、気づけば30度を超える日が続いている。
冷房に当たりすぎて身体がだるく、気持ちはくすぶったまま。
ふと思い出したのは、近所の銭湯だった。
のれんの奥から立ち上る湯気と、心惹かれる「サウナ」の文字。
その日、夕方の光が少しやわらかくなったころ、彼女はスポーツタオルとボトルの水を持って銭湯へ向かった。
受付でサウナ料金を払って、小さな鍵付きリストバンドをもらう。
脱衣所で服を脱ぎ、身体を洗い、深呼吸をしてサウナ室の扉を開ける。
中は、木の香りとじっとりとした熱。
思っていたより暑い。でも、じっと座ってみる。
胸元に汗が流れる。首筋にも。じわじわと全身が熱に包まれる。
テレビのない静かなサウナで、ぼうっと過ごす数分間。
心のざわざわが、汗といっしょに出ていく気がする。
頃合いを見て、水風呂へ。
最初は足先がびくっとなるけれど、すぐにスッと、肌が冷たさを受け入れる。
腹の奥から冷気が上がってくるような感覚。
思わず口から、ふーっと息がこぼれた。
水風呂のあとは、イスに座って整いタイム。
何セットかくり返して、最後にぬるめのお湯にゆっくり浸かる。
浴室の壁に貼られた富士山の絵が、今日だけは少し近くに思えた。
脱衣所で髪を乾かして、ロビーのベンチで麦茶を飲む。
風鈴の音がちりんと鳴って、外はまだ明るいけれど、肌はほてって心は涼しい。
「そうだ、アイス食べちゃお」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます