夏に向けて

むつお

空いている部屋

鍵をガチャガチャと音を立てて開ける、男はアパートの一室に入る。


「タッタッ」


近くで物音がした。この部屋の中に誰かがいる。男は音のする方にゆっくり静かに歩き出す。暗い部屋の中手探りで壁の位置、ドアの場所を確認する。


ついに音の出どころを突き止めた。そこはリビングにあるクローゼットの中。扉のわずかな隙間に手をかける。


「ギィィ…」


ゆっくり扉を開ける。バッと中から出てきたのは白く整った毛並みの猫だ。


男は猫に触れようと手を伸ばす。しかし男の手が猫の視界に入った瞬間シャーー!と威嚇され逃げられる。


「かわいくないやつ」


ぼそっとつぶやく。すぐに興味をなくし部屋の中をみて回る。薄いピンク色のカーテンで街と遮られた部屋の中。柔らかいカーペットに足を乗せる。


宝物を探すように男はロッカーの中、引き出し、戸棚をあさりだした。さらにはリビングだけでなく寝室、台所、トイレへと場所を変えている。


いくばくか時間が過ぎた。男が満足いくまで物色を終えた頃


「ガチャ」


玄関のドアが開く音がした。

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