第3話 紅蓮の兄、動揺する
「は? なんだここ……? あれ、道場じゃねえよな……?」
状況を理解できていない。そんな態度だった。
当たり前だ。
人間界で人として普通に過ごしてきていたのに、いきなり魔界へと召喚されたんだ。理解できるわけがない。
でも当時の僕はそんなことにすら気づかず、単純に兄の代わりに来た奴がこんなマヌケそうな奴だなんてと、内心イラついていた。
「状況が飲み込めないみたいだねグレン。一から説明させてほしい」
父上が優しく実の兄に声をかけた。……すると……
「な、なんだよおっさん……グレン? オレはそんな名前じゃねえよ……オレの名前は
「そうか、カツチくんか。ではまず、順を追って説明させてほしい。ここは魔界、君の過ごしてきた人間界とは別の世界。そしてカグラという国なんだ」
父上は火土に、分かりやすく状況を説明した。
火土は人間ではなく、本当は魔族。何者かの魔術により、人間界へと送られていたのだと。
そして選ばれし血筋を引く兄に国のため戦ってほしいと……
普通なら信じられない話。
でも目の前で炎を出す魔術を見せたり、僕達が人間ではない証拠、黄緑色の血を見せたりすることで、話に嘘はないと納得してもらった。
……だが……
「まだ、完璧には信じられてはいねえが……百歩譲ってオレが魔族ってのはわかった。オレ自身、普通の人間とは違うかもって自覚はガキの頃からあったしな……」
魔族は人間と身体能力がまるで違う。人間界ではその力を存分に発揮していたのだろうと推測できた。胴着を着てた事から、空手という人間界の武術を嗜んでいたようだし。
そして自らが人間だと疑わなかった事で、血は赤い色素を出し、赤い血を今まで流していたらしい。
魔族にはそういう事が起きる事もあるのかと、少し感心したのを覚えている。
そしておそらく魔族と自覚したことで、兄の血は黄緑に今変わった事だろう。
「それで、この国のために戦えって話だよな?」
「うん」
「……嫌だね」
火土は眉間にシワを寄せて断った。この時の僕は、火土の発言に腹が立ったのを覚えている。
「嫌? なぜだい?」
「なぜ? 当たり前だろ! 勝手にこんな所に呼び寄せて、いきなり命をかけて戦えだ? 冗談じゃねえよ! 何でオレがあんたらみたいな見ず知らずの連中のために戦わないといけないんだ!」
火土の心中を考えれば、そう思うのも当然だ。
人間界で幸せに過ごしていたのに、こんな戦地に呼び出し、戦えと言ってるんだからね。
平和な世界で生きてきた火土にそれは酷な話というもの。
でも当時の僕はそんな火土の心中を察する事はできなかった。もう一人の兄の代わりに来た奴がこんな奴だなんてと、非難する心でいっぱいだった。
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