普天間ふしぎ語り

@okiyomi

第1話キジムナー

 真夜中にふと目が覚めた。

寝床の中から顔を上げると正面に窓ガラスが有り、前に古ぼけた木の椅子がおいてあるのだが、その上に何か座っているのだ。

寝ぼけているのかと思ったが、確かにいる。

窓の外からの街灯の灯りがその何かのシルエットを浮かび上がらせる。

赤毛のおかっぱ頭の子供が座っている。顔は逆光なのでよく見えない。

その子は椅子から降りてこちらに向かって歩いて来た。恐ろしくて思わず布団に潜り込み息を潜めた。

とても長い時間じっとしていたが何の気配も感じられないので、こわごわ布団の隙間から覗くと子供の姿は跡形もない。


 翌日友達にその話をすると「それ、キジムナーだよ」

薄々そう思ってはいたがそれ以外考えられないよなー。

 キジムナーは古木に宿る精霊といわれ、赤毛の子供の姿をしていて、いたずら好きで、愛嬌かあり、一般的には好まれている。

商業商品のキャラクター等にもよく使われている。

 魚の目玉が好物で、漁師が釣ったばかりの魚の目玉が無くなっていると、巷ではキジムナーの仕業だと言われていた。

仲良くなると恩恵をもたらすが意地悪するとひどい目に合うそうだ。

 しかし何故家にいるんだろうな?

古ぼけた椅子に宿っているんだろうか。

椅子は父親が古物屋から買ってきたものだが、戦後のゴタゴタの中、どこで手に入れたか覚えてなくて、椅子の元持ち主や売られた経緯を聞いてもわかるはずもない。

 その日から何度かキジムナーの出現があったが、チラッと現れるだけで何かされるわけでもなかったな。

だが、ある日の真夜中、逆光で見えにくかったが、椅子から降りてこちらにキジムナーが近づいてきた時、ニタリと笑ったのだ。

今まで無表情だったのが、初めて表情を崩したのだった。恐ろしくはなく何故か親しみが持てたのだが、いつものように布団に隠れて、いつの間にか眠ってしまった。


 あれからしばらく経ったある日。

ささやかだが嬉しいことがあった。学校のスケッチ会で描いた風景画が

県のコンクールで入賞したのだ。

 今思えば、それを知らせにキジムナーは現れたのかもしない。

それ以来キジムナーは我が家に現れてない。



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る