辺境賢者一門に拾われた僕の自由な異世界ライフ〜魔法も、料理も、物づくりもします!〜

緑井えりんぎ

第1話 適性検査


 僕はブラック企業戦士、古川祐介ゆうすけ


 休みなしの低賃金、しかもパワハラ三昧。それでも眠い目を擦り、命を削って毎日サービス残業に努める生粋のブラック企業戦士だ。


 ちなみに友達はゼロ。これは光栄ある孤立だ、うん。


 そんな僕は、日曜日である今日も労働。本当は休日のはずなのに……


 趣味のラノベもしばらく読めてない。


「僕にも魔法が使えたらなぁ……」


 多すぎる仕事を前にぼやく。現実は甘くない。魔法を使うどころか、ラノベを読む時間さえない。


 でも今日こそは読むんだ、絶対に。


 そう自分に言い聞かせて踏ん張り、全ての気力を振り絞ってなんとか今日与えられた仕事を終わらせた。


「ああ、ようやくか……。これで家に帰れる……」


「何が家に帰れるだ、ボケ!こんなんじゃ、出来たうちに入らんわ!あとこれも追加。お前は甘い、お前の代わりはいくらでもいるからな?!」


「あ……」


 突然、後ろにいた上司に怒鳴られ、座っていた椅子を蹴られた。


 ああ、今までの努力が……


 ふと視界が暗くなる。全身から力が抜けていく。


 ドンッ!


「クズが倒れたふりしおって。お前なんか要らん、クビだクビ!」


 そう言って上司は立ち去った。



 ♢



「……ん?ここはどこ?」


 木でできた天井。


 窓からは朝日が差し込んでくる。


 ここはどこだ?全く記憶にない。


 確か僕は会社で仕事を……


「うーん、途中で気を失ったのかなぁ」


 ふと自分の手を見る。


 あれ?小さくね?!


 子供に若返ったって事?!!!


 もしや――――――


「異世界転生?!!!」


 まさか、いや、多分そうだ。


 正にラノベのプロローグのような展開、間違いない。


 僕は異世界に転生したのだ。


 そんな事を考えていると部屋のドアが乱暴に開けられ、屈強な男がズカズカと入ってきた。


「起きんかぁ、クソガキ!!!あ、起きとったか」


 この人は……確か工場長?!


 それを思い出した瞬間、僕は”異世界の子供ユベール”としての人生の記憶が蘇ってきた。


 ここはアルムーク王国の工業都市ダンレールにある、紡績工場の寮の一室である事。


 僕が物心ついた時からスラム街で生活していた孤児である事。


 幸いそこの工場長に拾われ、さらに雇われて働いている事も。


「あのぅ、工場長、今日の作業はなんでしたっけ」


「は?お前、とぼけるな!今日は大切な適性検査だろうが!全く……こんなんじゃ結果は知れてるな」


 あ、そうだった。僕としたことがうっかり忘れていた。


 適性検査とは、専用の水晶で剣や魔法、あるい料理などの適性を調べる検査で、12歳になったら受けるものだ。適性はF〜Sでランク付けされるが、Sが1つでも取れる人は世界に数人しかいないとされる。


 この適性検査の結果を見て、工場で働く部署を改めて決め直すのだ。ちなみに今の僕は子供という事で、適性不要の単純作業をしている。


 しかし、なんか緊張してきた。


 適性検査の結果によっては、工場からクビになる事もあり得るかも知れないし、将来の選択肢が狭まる。


 孤児の僕としては、適性検査が悪くならないよう祈るばかりだ。


 「さあ行くぞ、検査技師が医務室で待ってるからな」


「はい!」


 僕は覚悟を決めて医務室へと向かった。


 医務室に入ると、そこには白髪でメガネをかけたおじさんの検査技師がいた。


「キミ、遅いよ」


「は、はい、すみません」


 僕は体を縮こまらせて頭を下げた。


「さ、はやくこの水晶に手をかざしなさい」


 検査技師はぶっきらぼうな様子で、水晶を僕の前に出す。


 僕はおそるおそる、その水晶に手をかざす。


 すると水晶が青く光った。


「じゃあ工場に戻って。はい、次の方〜!」


 あれ、ここで結果聞けないの?!そっけないな。


 まあいっか、工場に戻ろう。


 しかし工場に戻って作業するも、結果が気になって集中できない。


「おいお前、さっきから全然進んでないじゃないか!何やってんだ!」


「す、すみません……」


 工場長に叱られる。そういえば最近叱られてばかりだ。ダメだな、僕は。


「もしや、この紙が気になるんじゃねえのか?」


 工場長はニヤニヤしながら、しかしどこか緊張した感じの面持ちで、一枚の紙をヒラヒラと見せてきた。


 こ、これは……


 僕は工場長の表情に少しの違和感を抱きつつも、工場長が持っていた紙を受け取り、即座に開く。



 <適性検査結果>


 名前:ユベール

 年齢:12

 性別:男


 ――適性――

 戦闘系

 剣術:F

 魔法:B

 格闘:F


 生産系

 鍛治:C

 農業:C

 建築:C

 料理:C

 錬金:C

 工芸:C



 僕はこれを見てホッと胸を撫で下ろすのを通り越して、心がパアッと明るくなった。生産系は全てC、まずまずどころか上位の方だろう。


 さらに、魔法に関してはB!


 将来、魔法使いになることも可能だ。チートほどでは無いが、かなり高い適性。


 そして僕はそのままルンルンな気持ちで、作業を再開する…………はずだった。


「突然ですまないが、この適性だとうちの工場じゃ雇えないんだよ」


 工場長はきまりが悪そうな顔でそう告げた。


「えっ、じょ、冗談ですよね?!」


 僕はさっきのルンルンな気持ちが嘘だったかのように、激しく動揺する。


 適性は問題ないはず。


 ……いや、もしかして僕の認識違いで、実はこの適正だと低すぎるのか?


「冗談じゃねーんだ。残念だが、今すぐに工場を出ていってもらいたい。これをやるから」


 そう言って工場長は僕に銀貨が30枚程度入った袋を渡してきた。日本円だと30万円相当ぐらいだ。

 こんな大金、貧乏なこの工場だと一月の利益全部と言っても過言ではない。


 なぜ僕を追い出すためにここまで……


 でも仕方ない、ここまでするなら余程僕が迷惑なのだろう。潔く受け入れる事にしよう。


「分かりました」


 その後、僕は銀貨の入った袋を受け取り、寮の荷物をまとめて工場を出た。


「立派になって帰ってこいよ、じゃあな」


 別れ際、厳しい表情だった工場長が涙を浮かべて意味深な発言をした。僕にはあの言葉の真意が分からなかったので、軽く流して別れた。


 工場長の期待に添えなくてごめんなさい。




 さて、工場を辞めたはいいものの、これからどうやって生きていけば良いのか。


 僕はしばらく悩む。


 そういえば前世のラノベで、辺境に住む賢者の物語を読んだことがあるけど、なんかかっこいいし、憧れる。


 前世も今世も厳しい人生を生きてきたから、田舎でスローライフなんてのもアリかもしれない。もちろん簡単ではないから、いつになるかは分からない。


 まずはこの世界で生き抜くために、何か職を探す必要があるだろう。


 そこで魔法使いになりたいけど、まだ魔法を覚えている訳じゃない。ならば魔法を勉強したいけど、どこで勉強なんて出来るんだろう。


 ん?そういえば魔法連盟というのがあったな。確かそこに加入すれば魔法使い見習いとして雇われ、生活が保証されるはず。


 小さい時に魔法連盟の話を本で読んだ時は、生活や収入の事なんてあまり理解していなかったが、今ならその待遇がどれほど良いかが分かる。


 …………あれ、そんな本どこで読んだっけ?自分がやたら魔法関連の事や、この世界の事に詳しい感じがするのに、スラム生活時代に何をしたかはほとんど覚えていない。思い出そうとしたら、なぜか頭が真っ白になってしまう。


 まだ”ユベールとしての記憶”を完全に思い出すまでには至ってないのだろう。


 ともかくこの都市ダンレールは修羅場だ。安定を掴むのは簡単ではなく、スラム街に人口の7割が住むという噂もあるぐらい。それに、職を持つ者がスラムの人たちに向ける偏見も酷い。


 そんな中で工場労働者になれたのは幸せだった。拾ってくれた工場長には本当に感謝しているし、解雇したのも仕方なかったんじゃないかな。


 そんなことを考えながら、僕は魔法連盟へと向かった。


 しばらく歩き、魔法連盟のダンレール支部に到着。古いが立派な建物だ。


 建物に入ると、正面玄関に”孤高なる賢者”ラークの銅像が飾られていた。小さい頃に聞いた英雄譚に、何度も登場していた人物だ。小さい頃は、そういった英雄譚を聞いて、目を輝かせていたな。


 奥の受付に進み、受付嬢に話しかける、がしかし……


「一人で見習いへの登録はできません。別の登録魔術師の推薦が必要です」


「ええ〜!そんな……」


 僕は受付嬢の冷酷な発言に肩を落とす。


「登録魔術師になりたい人が殺到したので、この制度を新設したのです」


 確かに考えてみれば当たり前だ。簡単には安定は掴めない。


 しかし、前世でも異世界でも修羅の道を歩まねばならないのか。神様は容赦ないなぁ。


「じゃあワシが推薦してやろう、この子を」


「え?」


 声のした方に振り返る。


 そしてその声を発した人を見た瞬間、僕の身体に衝撃が走る。さっき解雇された時よりも、はるかに大きな衝撃が。


 受付嬢の方も明らかに動揺している。


 そこに居たのが、玄関の銅像にもなっていた英雄クラスの人物、”孤高なる賢者”ラークだったからだ。


 銅像よりもだいぶ年をとっていたが、オーラが凄すぎて一目で分かった。そのオーラに圧倒された周りの人たちもラーク様に釘付けになっている。


「ワシの推薦でええか、少年?」


「あっ、は、はい、もちろんですっ!ですが、僕ごときにラーク様の推薦なんて……」


「はは!謙遜なんぞせんでもええぞ。んじゃ、これを」


 ラーク様は穏やかな表情で、受付嬢から魔法連盟への加入届を受け取り、そこの推薦者欄に署名して僕へと渡してきた。


 僕は突然のことに戸惑いつつも、加入届に自分の名前を書いて受付嬢へと渡した。


「ユ、ユベール様ですね。では、こちらが魔術師の登録者証になります」


 そう言って、受付嬢は【見習い ユベール】と表示された白色のカードを緊張した手つきで僕に渡してきた。


「はじめは魔術師見習いとしてのスタートになりますが、魔術師認定試験に合格すれば5級魔術師になれます。さらに実績を積めば級が上がり、最高位は1級魔術師ではなく、その更に1つ上である”賢者”となります。また魔術師認定試験で圧倒的な力を見せれば、特例で1級魔術師まで飛び級も出来ます。過去5000年の歴史で1人も居ませんがね……」


 なるほど。まずは魔術師認定試験への合格が目標だね。でも……


「あの、実は僕、一つも魔法が使えないんですが、どこで教えてもらえますか?」


「そうでしたら、3級魔術師の講師による講習を受けていただく必要がございます。つきましては銀貨50枚をお支払いいただきたいのですが」


 銀貨50枚!高い!手持ちの30枚では遠く及ばない。


「あ、それは大丈夫じゃ少年。ワシが直接稽古をつけてやるからの」


「「ええっー!!!!!」」


 僕と受付嬢は声を揃えて驚く。まさかあのラーク様から稽古を?!


「ほ、本当に良いんですか?!」


「もちろんじゃ。しかーし、それには条件がある。それは、ワシの家に住んでいる弟子と手合わせをし、名勝負をワシに見せる事じゃ!」


 ラーク様は、なにか目論見があるかのようにニヤリとした。


 しょ、勝負、勝負かぁ…………


 戦いの手立てがゼロの僕が勝てるワケが無い。


 でも、この勝負を受けなかったら、今後ダンレールで生きていく手立てなんて無い気がする。


 手持ちのお金はひと月もせずに尽きるだろうし。


 それに伝説の賢者に魔術を教わるチャンスなど、これを逃せば二度と無いかもしれない。


 ならば、一か八かの挑戦、ほんのわずかな確率に僕は賭けてみたい。


 自分でもとんだチャレンジャーだと思うけどね。


「分かりました!お弟子さんとの手合わせを受けさせて頂きますっ!」


 ラーク様は分かっていたかのように、頷いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る