第9話「次はお前らの番だ」

 「よし、次——三組目の補助に入っていた者、前へ」


 教師の声に、俺の両脇を押さえていたふたり——ワンとヴァイが、ぴくりと肩を震わせた。


 ふたりとも、同期の平民で、俺と同じく「見下される側」の仲間だ。


 いまは少しだけ、その手の温もりが残っている。


 胸の奥に、じわりと熱が広がる。


(——やった。ゴブリンの魂を、確かにつかみ取った。)


 後ろで、貴族たちがざわついている。笑い声か、舌打ちか——その中で、俺は横を向いた。


 ワンは目を伏せ、ヴァイは眉をひそめていた。


「お前ら……緊張しすぎだ」


 俺が声をかけると、ふたりはぎこちなく笑った。


 ワンが言う。


「だってよ……俺、やっぱ無理かもしれねぇ。ゴブリンって、意外とすばしっこいし、前にそれで転げ回ったやつもいたって……」


 ヴァイも続けた。


「僕も……。ゴブリンに魂を乗っ取られるかもしれないと思うと怖くて。心の準備が……」


 ふたりの肩に、ぽんと手を置く。ぎこちない笑いの奥にある不安が、手から伝わってきた。


「大丈夫だ。スライムより、ずっと簡単だった」


「えっ」


「本当か?」


 うなずいてみせる。


「スライムは、こっちの心を押しつぶしてくるくらい強かった。」


「でもゴブリンは違う。小さくて、弱くて……なんだか、脅えてた」


「脅えている……」


 ヴァイが小さくつぶやいた。


「いいか、スライムに負けた俺でも、ゴブリンはできたんだ。お前らなら、もっと楽勝だ」


「ぉ、おお!」とワン。


 ふたりの表情が、少しずつ緩んでいく。


「あと、同情はダメだ。『かわいそう』って思った瞬間に、相手に魂をかき回される。」


「……それは、昨日の俺がやられたやつだ」


 ワンが目を見開き、ヴァイが小さく息を呑んだ。


「ありがとう、なんか、やれそうな気がする。」


「シュウ……お前、変わったな」


「ちょっとだけな」


 ふたりは頷き、それぞれの持ち場へと向かった。


「今度はゴブリンダンス第二幕か?」 


 貴族たちの冷笑が、再び耳に入る。


 くだらねぇ。だが——


(見てろよ。俺たちは、這い上がる。ここからだ)

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