第2話「チート」

 2マッチ目が始まろうとしていた。

「君、名前は?」

 技術開発部のリーダーらしき存在が、少し馴れ馴れしく名前を尋ねてきた。

「蒼葉春樹です。今年から入りました。」

「蒼葉君か。よろしく。俺は技術開発部の現場監督の影井だ。入社早々申し訳ないね、会社が爆散しそうだよ。」

 ハッハッハと笑う影井。

 …笑えないジョークだ。


「2階の倉庫に、監視カメラ的なものはないんですか?」

「あるよ。今確認してるよ。まあ、無駄だろうけどね。」

「なんでそんなことが…」

「わかるのか。だろ?それはな…あ!マッチングしたぞ!」



 画面にはマッチングが成功したことを伝えるコミカルなデザインの文字が表示されていた。

 そこにはやはり、もいた。

 オンラインマッチは本来、世界中の人とマッチするはずのものだ。

 そんな中、奴と再びマッチングすると、どうやっても奴からは逃げられない気がした。

 ステージは「ケイブゾーン」

 渓谷のステージだ。アメリカのグランドキャニオンがモチーフだと言われている。

 谷…というより、人2人分ぐらいの高さの溝といった方が適切だろう。

 遮蔽物はほぼない。隠れることは難しい。

 高低差が激しいこのステージで戦う。

 だが、今回は別の武器ハンドガンで挑む。


「高低差があるこのステージで、なんでハンドガンなんだ?」と思うかもしれない。


 確かに、高低差のあるこのステージでは、チャージして連射できる武器スピナーを使った方がいいと思うかもしれない。

 だが、今回は遮蔽物のないステージでの撃ち合いだ。

 となると、より機敏に動けた方が有利だ。

 チャージ中はどうしても動きが遅くなる。

 だから、打ちながらの動きに適したハンドガンがいいのだ。

「なるほどなあ…」

 納得した様で、影井は首を縦に振った。


 試合開始。

 相手の武器は…装填連射系武器スピナーだ。

 となると、高所からの戦いを狙ってくるだろう。

 そこで、あえて溝の下で行動する。


「…ビンゴ」

 奴は頭上にいた。

 チャージしている。

 そこを狙う。

 銃声の後、奴は倒れた。

 あっけなく自陣に戻っていく奴を見た影井たちが後ろで


「おお…」


 と声を漏らした。

 まだ油断はできない。奴にあと14回倒されれば、ドカンだ。

 残り18回。この試合で、形勢逆転を狙いたい。

 その時。違和感を感じる。

 自陣から奴が向かってくる気配がない。

 背中を何か良くないものが走る気配がした。

 その時だった。

 後ろに奴がいた。




「あ」




 ドン。

 銃声がなる。自陣に戻される。

 やられた。

「…は?」

 ありえない。早すぎる。

 そもそもチャージが終わっていないだろう。


 遮蔽物がないこのステージで、隠れて背後に回り込むなんて不可能だ。

 早すぎる。

「何やってんだ!」

 影井が声をかけてくる。

「わかりません。とても速い速度で距離を積めてきている気がします。」

 見てください。と画面をさしたが、もう影井の目線は画面に釘付けだった。

 そしてすぐに自分も釘付けになる。

 奴は瞬間移動を繰り返していた。

 ステージの中央、奴の自陣、溝の中と、次々と場所を移動していた。

 そして、奴の手元。

 ハンドガンだった。

 武器は本来試合中に変更することはできない。

「…チートだ。」



 チート。ゲームのルールを根幹から覆す不正行為。

 思えばそうだ。

 このゲームは試作品。プログラムに穴なんていくらでもあるだろう。


 その瞬間、奴は瞬間移動を使い、自分の目の前に近づき、銃を乱射し、また戻っていった。

「これじゃあ出られないじゃないか!」

 影井が落胆する。

 このままチートを使われ続けたら、タイムリミットの3日なんてあっという間に過ぎる。


 ジリ貧…か。

 その時、閃いた。

 このゲームは試作品だ。

 なら、プログラムを追加することもできるのではないだろうか。

「…影井さん、プログラムを変えることって…できます?」

 プログラム同士は互いに干渉しあっている。

 故に、迂闊にいじくり回すと、ゲームそのものを崩壊させることになりかねない。

 だが、プログラムを足すだけなら。

 やれるのではないか。

「ああ、どう変えればいい?」

「…射程と弾速を2倍に」

「了解」

 残り試合時間が2分を切ろうとした頃、自分達は自陣から飛び出した。

 それに気づいた奴が、瞬間移動を使用し、こちらに向かってくる。

 …奴が銃を抜く前に。




「影井さん。打って。」

「了解した。」




 ドン。

 奴を倒した。

 射程は2倍になっているはずだ。どこから撃たれたかなんてわからないだろう。

 この世界に、このゲーム機、「スマートエニックス2」は3台ある。

 奴と、今自分がやっているので2台。

 じゃあ、あともう1台は?

「影井さん、一緒にマッチングしておいて良かったですね。」

「ああ。お前の言う通りだった。いざとなったら2人で戦うってな。」

 そう。射程や弾速を2倍にしたのは、自分の武器ではない。

 影井の武器だ。

 遮蔽物のないこのステージだ。射程は長ければ長いほど有利になる。

 奴がまた向かってくる。弾の出所を探している。

 そこで影井と目が合った。と思ったのだろう。

 こちらに向かってきた。そこを遠くから本物の影井が射撃する。

 自分と影井はスキン…つまり見た目が同じ。そして影井が持っているのもハンドガンだ。

 つまり、どっちがどっちかわからない様だ。

 こうして、瞬間移動を繰り返す奴のチートを打破し、試合は終了。

 自分達の残り残機が13に対し、

 相手の残機は12。

 形勢逆転。

「なかなかいいエイムでしたよ。まあまあですね。」

「俺一応君の上司よ?」

 なんとか終わった。


 その時、時計を見ると6時になろうとしていた。

 その時、会社のカフェテリアからおにぎりを持ってきた社員からおにぎりをもらい、影井と食べながら話しすことになった。

「そういえば、試合前に聞いた質問の答えを教えてください。」

「ああ、そうだったな。例の倉庫、随分前に、大事な資料とかの保管に使われてたんだ。」


 だが、資料室などの設備の追加により、あの倉庫は使われなくなったらしい。

「でも、カードキーで開けたりするなかなか厳重な作りだから、ゲーム機の保管には適してたってことだったんだ」


 監視カメラもついてたらしいが、随分前のものなので、おそらく故障しているはずだという。


「だから、確認しても意味ないわけ。」

 違和感が走った。少しだけ。

 そして、その違和感は、確信へ。

「これまでにカードキーをなくした人はいませんでしたか?」

「いや、いないよ。そもそも使わないから、みんな。家に置いてたりして…ん、待てよ?」


 多分、同じことを考えている。

「…犯人、多分このビルの関係者です」

 倉庫はカードキーで開けるのだ。

 ということは、犯人はカードキーを持っていた。

 背中に悪寒が走る。

 この中に、爆弾魔がいるかもしれない。

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