第9章:月の巫女、花嫁になる

オアシス王国への旅路で、ユナとライルは重要な決断を迫られることになった。

砂漠の入り口にある交易都市で一泊した夜、ライルが真剣な表情でユナに向かい合った。

「ユナ、大切な話があります」

「はい、何でしょう?」

「私たちの結婚について」

ユナの心臓が早鐘を打った。

「結婚について?」

「はい。私たちは形式的には夫婦ですが、まだ本当の意味での結婚式を挙げていません」

確かにその通りだった。政略結婚として簡素な儀式は行ったが、それは愛情に基づいた真の結婚ではなかった。

「私は今、心からあなたを愛しています」

ライルの声は真剣だった。

「そして、あなたも私を愛してくれていると信じています」

「はい」

ユナは頬を染めながら頷いた。

「ですから、今度王宮に戻ったら、改めて本当の結婚式を挙げませんか?」

「本当の結婚式…」

「はい。愛情に基づいた、真の夫婦としての結婚式を」

ユナは少し考えてから答えた。

「でも、すでに王子妃として認められています」

「それは政治的な立場です。私が求めているのは、心の結びつきです」

ライルの言葉に、ユナの心は温かくなった。

「私も、心から望んでいます」

「本当ですか?」

「はい。あなたと真の夫婦になりたいです」

二人は静かに手を取り合った。

「では、オアシス王国での任務が終わったら、村で結婚式を挙げましょう」

「村で?」

「はい。パンローブ村で。私たちが愛を育んだ場所で」

「素敵ですね」

ユナの目に涙が浮かんだ。

「村の皆さんにも祝福してもらいたいです」

「きっと喜んでくれますよ」


オアシス王国に到着すると、砂漠化の深刻さを目の当たりにした。

かつて緑豊かだったであろう土地は、今では見渡す限りの砂漠になっていた。

「これは想像以上ですね」

「はい。完全に砂に覆われています」

サハラ女王は40代の、砂漠の厳しさを刻んだ美しい女性だった。

「よくお越しくださいました」

「お役に立てるよう頑張ります」

「我が国の状況をご案内します」

王宮から見える景色は、絶望的だった。砂丘が宮殿の近くまで迫っており、風が吹くたびに砂が舞い上がる。

「砂漠化が始まったのは、十年前からです」

宮廷学者のドクター・デューンが説明した。

「最初は小さな変化でしたが、年々拡大しています」

「原因は何でしょうか?」

「気候変動と、過度な放牧、そして森林の伐採です」

「複合的な原因なのですね」

「はい。そのため、対策も複雑になります」

ユナは月の魔法で大地の状態を調べてみた。

「かなり深刻ですね」

地中の水分はほとんどなく、土壌も劣化している。

「でも、完全に諦める必要はありません」

「何か希望があるのですか?」

「はい。地下深くには、まだ水脈が残っています」

「水脈?」

「はい。月の魔法で、それを地上に呼び戻すことができるかもしれません」

サハラ女王の目が輝いた。

「本当ですか?」

「試してみる価値はあります」

翌日、実験的な浄化作業を始めた。

「まず小さな範囲から始めましょう」

宮殿の庭の一角で、ユナは月の魔法を発動した。

「地下の水よ、地上に現れてください」

月の光が地面に降り注ぐと、奇跡が起こった。

乾ききった土から、清水が湧き出してきたのだ。

「すごい!」

「本当に水が!」

見学していた人々が歓声を上げた。

さらに、水が出た場所に、ユナは植物の種子に魔法をかけた。

「生命よ、この地に根付いてください」

すると、種子は瞬く間に芽を出し、短時間で小さな緑の絨毯を作り上げた。

「奇跡だ…」

「砂漠に緑が戻った」

「これなら、国全体を救えるかもしれません」

しかし、ユナは現実的な問題も理解していた。

「これを国全体で行うには、相当な時間がかかります」

「どのくらいでしょうか?」

「おそらく数ヶ月は必要でしょう」

「そんなに…」

「でも、必ずやり遂げます」

ユナの決意に、サハラ女王は深く感謝した。

「ありがとうございます」

その夜、ユナは体力的な限界を感じていた。

「大丈夫ですか?」

ライルが心配そうに尋ねた。

「少し疲れました」

「無理は禁物です」

「でも、やらなければ」

「一人で背負い込まないでください」

ライルの言葉に、ユナはハッとした。

「そうですね。一人ではできません」

「私も手伝います」

「でも、ライルは魔法が使えません」

「魔法以外の方法で手伝えます」

「どのような?」

「人々を組織し、効率的に作業を進めるのです」

ライルの提案は的確だった。

「確かに、それは重要ですね」

「魔法だけでは限界があります。人々の協力が必要です」

翌日から、ライルは現地の人々と協力して、効率的な緑化計画を立てた。

「まず、水源を確保した地点を中心に、段階的に緑化を進めます」

「そして、植林と農業を組み合わせて、持続可能な環境を作ります」

「素晴らしい計画ですね」

サハラ女王も感心した。

「これなら、魔法に頼るだけでなく、自立的な回復が可能になります」

計画に基づいて、大規模な緑化作業が始まった。

ユナが魔法で水を呼び、植物を育て、ライルが人々を組織して効率的に作業を進める。

「今日はここまでにしましょう」

「はい」

毎日少しずつだが、確実に緑の範囲が広がっていく。

一ヶ月後、目に見える成果が現れた。

「すごいですね」

宮殿の周囲には、小さなオアシスができていた。

「人々の表情も明るくなりました」

「希望が見えてきましたからね」

しかし、ユナの体力は限界に近づいていた。

「お姉さん、大丈夫?」

ポンが心配そうに尋ねた。

「少し疲れているけれど、大丈夫」

「無理しちゃダメだよ」

「でも、もう少しで完成します」

実際、緑化作業は最終段階に入っていた。

もう一週間ほどで、主要な地域の緑化が完了する予定だった。

「最後の仕上げですね」

ライルが励ました。

「はい。頑張ります」

最後の大仕事は、国の中央部にある大砂丘の緑化だった。

ここを緑化できれば、砂漠化の進行を完全に食い止めることができる。

「かなり大規模な魔法が必要ですね」

「はい。でも、やり遂げます」

満月の夜、ユナは大砂丘の頂上に立った。

「皆さん、応援をお願いします」

サハラ女王をはじめ、多くの国民が見守る中、ユナは最大規模の魔法を発動した。

「月の光よ、この大地に生命を与えてください」

月の光が砂丘全体を包み、地下深くから大量の水が湧き出した。

そして、無数の植物が一斉に芽を出し、砂丘は瞬く間に緑の丘に変わった。

「成功です!」

「万歳!」

国民の歓声が夜空に響いた。

しかし、魔法の反動で、ユナは倒れてしまった。

「ユナ!」

ライルが駆け寄った。

「大丈夫…ただ疲れただけ」

「もう十分です。休んでください」

一週間の休養の後、ユナは完全に回復した。

「もう大丈夫ですか?」

「はい。完全に元気になりました」

オアシス王国の緑化は大成功だった。

砂漠だった土地には緑が茂り、人々の生活も劇的に改善された。

「ユナ王子妃、あなたは我が国の救世主です」

サハラ女王が感謝の式典を開いてくれた。

「皆さんの協力があったからです」

「謙虚でいらっしゃる」

「これからも、この緑を大切に育ててください」

「もちろんです」

式典の最後に、サハラ女王から特別な贈り物があった。

「これは、我が国の至宝、『砂漠の星』です」

それは美しい黄金色の石でできたティアラだった。

「こんな貴重なものを…」

「あなたにこそふさわしいものです」

「ありがとうございます」

オアシス王国を出発する日、多くの国民が見送ってくれた。

「ありがとうございました」

「我々は永遠にあなたを忘れません」

「また来てください」

人々の感謝の言葉に、ユナは涙ぐんだ。

「皆さんこそ、ありがとうございました」

エルデ王国への帰路で、ライルが改めて結婚の話を持ち出した。

「約束通り、村で結婚式を挙げましょう」

「はい」

「どのような式にしましょうか?」

「村の教会で、皆に祝福してもらいながら」

「素敵ですね」

「そして、私たちが作ったパンでお祝いしましょう」

「最高ですね」

二人の結婚式の計画は、旅路で少しずつ具体的になっていった。

王宮に帰ると、アレクサンダー王が興味深い提案をしてくれた。

「結婚式の費用は、王室で負担します」

「そんな、恐縮です」

「いえ、あなたたちの功績を考えれば当然です」

「ありがとうございます」

「それに、これは国を挙げての祝福です」

準備期間は一ヶ月。

村での結婚式に向けて、様々な準備が始まった。

「ドレスはどうしましょう?」

エレノア夫人が相談してくれた。

「シンプルなもので十分です」

「でも、せっかくですから美しいものを」

「では、お任せします」

「王室専属の仕立て屋に頼みましょう」

一方、ライルは村の人々への連絡を取っていた。

「ガルス村長から返事が来ました」

「何と書いてありましたか?」

「村を挙げて歓迎するそうです」

「嬉しいですね」

「トムが特に大興奮だったそうです」

「トムらしいですね」

結婚式の招待状も作られた。

王族や貴族だけでなく、宮殿の職員たちにも配られた。

「皆さんに来ていただきたいです」

「きっと喜んで参加してくれますよ」

ドレスの試着の日、ユナは自分の美しさに驚いた。

「とても似合っています」

仕立て屋のマダム・ローズが満足そうに言った。

「まるで月の女神のようです」

純白のドレスには、月と星の刺繍が施されている。

「ライルが見たら、きっと驚くでしょう」

「楽しみです」

結婚式の一週間前、村の人たちが王宮を訪れた。

「ユナちゃん、おめでとう」

「ガルス村長!」

「今度こそ、本当の結婚じゃな」

「はい」

「ライルも、良い男になったのう」

「はい、立派になりました」

マリアも来てくれていた。

「あなたたちの愛を見ていて、私も幸せになります」

「ありがとうございます」

「村の教会も、きれいに飾り付けました」

「楽しみです」

トムは相変わらず元気いっぱいだった。

「お姉さん、僕もタキシード着るんだ!」

「似合うでしょうね」

「パンも作ったよ!結婚式用の特別なパン」

「ありがとう」

結婚式の前日、ユナとライルは村に到着した。

「懐かしいですね」

「はい。ここが私たちの始まりの場所です」

村は結婚式の準備で大忙しだった。

教会には美しい花が飾られ、広場にはテーブルが並べられている。

「皆さん、ありがとうございます」

「当然じゃ。お前たちは村の誇りじゃからな」

その夜、ユナは一人で月を見上げていた。

「ルナ様、明日はついに本当の結婚式です」

月は優しく微笑んでいるようだった。

「お姉さん」

ポンが現れた。

「明日が楽しみだね」

「はい。とても」

「お姉さんとライルの愛が、ついに完成するんだ」

「完成?」

「うん。真の夫婦になるってことだよ」

「そうですね」

「僕も嬉しいよ」

「ありがとう、ポン」

結婚式の朝、ユナは村の女性たちに囲まれて準備をした。

「とても綺麗よ」

「まるでお伽話のお姫様みたい」

「ライルも幸せ者ね」

女性たちの祝福の言葉に、ユナは幸せを噛みしめた。

一方、ライルも男性たちに囲まれて準備をしていた。

「緊張してるか?」

「少し」

「当然じゃ。人生最大の日じゃからな」

「はい」

いよいよ、結婚式が始まった。

教会は、村人や王宮の人々で満席だった。

オルガンの音色が響く中、ユナがバージンロードを歩いた。

純白のドレスに身を包んだユナは、まさに月の女神のようだった。

祭壇で待つライルの目に、涙が浮かんでいた。

「愛するユナと、愛するライル」

神父が厳かに式を進行した。

「あなたたちの愛は、多くの人に希望と勇気を与えてきました」

「今日、その愛が神の前で永遠に結ばれます」

誓いの言葉を交わす時が来た。

「ユナ、私はあなたを生涯愛し続けることを誓います」

「私も、ライルを永遠に愛し続けることを誓います」

指輪の交換が終わると、神父が宣言した。

「神の祝福により、あなたたちは真の夫婦となりました」

「新郎は新婦にキスをしてください」

ライルとユナは、ついに結ばれた。

教会に、盛大な拍手と祝福の声が響いた。

「おめでとう!」

「素晴らしい結婚式だった」

「お幸せに!」

結婚式の後、広場でパーティーが開かれた。

ユナとライルが作ったパンや、村の人たちが用意した料理が並んでいる。

「今日は人生最高の日です」

「私も同じです」

二人は幸せに満ちていた。

夜が更けて、月が昇った時、ユナとライルは静かに語り合った。

「ついに、本当の夫婦になりましたね」

「はい。長い道のりでした」

「でも、その道のりがあったからこそ、今の愛があります」

「そうですね」

月の光が、新しい夫婦を優しく照らしていた。

これからも、きっと多くの困難が待っているだろう。

でも、真の愛で結ばれた二人なら、どんなことも乗り越えられるはずだった。

そして、その愛は世界中の人々に希望を与え続けるだろう。

月の巫女は、ついに真の花嫁となったのだった。

結婚式から一週間後、新婚の二人は王宮に戻った。しかし、今度は完全に違う気持ちだった。

「変わりましたね」

「何が?」

「すべてです。同じ王宮なのに、まったく違って見えます」

ユナの言葉にライルも頷いた。

「愛で結ばれると、世界の見え方が変わるのですね」

「そうですね」

二人の部屋も、今度は本当に夫婦の部屋として整えられた。

「一緒の部屋で過ごせて嬉しいです」

「私も同じです」

エレノア夫人をはじめ、宮殿の職員たちも二人の変化に気づいていた。

「王子妃様、とても幸せそうですね」

「はい、心の底から幸せです」

「ライル王子も、表情が柔らかくなられました」

「愛の力ですね」

そんな平和な新婚生活が始まって数日後、意外な来客があった。

「ユナ王子妃、お客様です」

「どちらの?」

「各国の王族の方々が、お祝いにいらっしゃいました」

応接室に向かうと、そこには見覚えのある顔々があった。

「ユナ王子妃、おめでとうございます」

アクア女王(マリーナ王国)、サハラ女王(オアシス王国)、そしてフィリップ王(ヴェルディア王国)まで来てくれていた。

「皆様、遠いところをありがとうございます」

「当然です。あなたたちの結婚は、各国にとっても慶事ですから」

アクア女王が微笑んだ。

「あなたたちの愛が、私たちの国に奇跡をもたらしました」

「そして、私たちにも愛の大切さを教えてくれました」

サハラ女王も感慨深そうに言った。

「実は、私も婚約が決まりました」

「本当ですか?」

「はい。あなたたちを見ていて、愛のある結婚の素晴らしさを知ったのです」

フィリップ王も続けた。

「私も同じです。政略結婚ではなく、愛情結婚を選びました」

「それは素晴らしいニュースです」

ユナとライルの愛が、他の王族たちにも影響を与えていたのだ。

「今日は、特別な提案があって参りました」

アクア女王が改まって言った。

「特別な提案?」

「はい。『愛と平和の同盟』を結成したいのです」

「愛と平和の同盟?」

「はい。軍事同盟ではなく、愛と協力に基づく新しい形の同盟です」

サハラ女王が説明した。

「環境問題、社会問題、すべてを愛と協力で解決していく同盟です」

「そして、その盟主にあなたたちになっていただきたいのです」

フィリップ王の提案に、ユナとライルは驚いた。

「私たちが盟主ですか?」

「はい。あなたたちこそ、その資格があります」

「でも、私たちはまだ若輩者です」

「年齢ではありません。心の美しさと、実績です」

三人の王の真剣な表情に、ユナとライルは重責を感じた。

「少し考えさせていただけますか?」

「もちろんです」

その夜、二人は真剣に話し合った。

「どう思いますか?」

「重大な責任ですね」

「はい。でも、やりがいもあります」

「確かに。私たちの理想を実現できるかもしれません」

「愛と平和に基づく世界」

「素晴らしいビジョンです」

「でも、本当に私たちにできるでしょうか?」

「一人では無理でも、二人なら」

ライルがユナの手を取った。

「そして、多くの仲間がいます」

「そうですね」

翌日、二人は決断を伝えた。

「お受けします」

「本当ですか?」

「はい。愛と平和の世界を築くため、頑張ります」

「素晴らしい!」

三人の王が喜んだ。

「では、正式な同盟協定を作成しましょう」

こうして、「愛と平和の同盟」が設立された。

最初は四カ国からのスタートだったが、徐々に参加国が増えていく。

「ベロニカ王国も参加を希望しています」

「アルプス王国からも使者が来ています」

「クリスタル王国も興味を示しています」

一ヶ月後には、十カ国が参加する大きな同盟となった。

「これは歴史的な出来事ですね」

「はい。新しい時代の始まりです」

同盟の最初の会議が、エルデ王国で開催された。

「愛と平和の同盟、第一回総会を開催します」

アレクサンダー王が議長として開会宣言をした。

「まず、盟主のユナ王子妃とライル王子から挨拶をお願いします」

ユナが立ち上がった。

「皆様、この歴史的な同盟にご参加いただき、ありがとうございます」

「私たちの目標は、愛と協力で世界の問題を解決することです」

「軍事力ではなく、愛の力で平和を築きましょう」

大きな拍手が起こった。

ライルも続けた。

「過去の私は、外交の失敗を経験しました」

「しかし、その経験から学びました」

「真の外交とは、相手を理解し、尊重し、共に歩むことです」

「愛があれば、どんな困難も乗り越えられます」

会議では、具体的な協力項目が話し合われた。

「環境保護の共同プロジェクト」

「教育交流の推進」

「文化的な相互理解の促進」

「災害時の相互支援」

どれも愛と協力に基づく項目ばかりだった。

「これらのプロジェクトを通じて、真の平和を築きましょう」

会議は大成功に終わった。

「素晴らしい会議でした」

「希望が見えてきました」

「新しい時代の幕開けですね」

各国の代表者たちは、満足そうに帰国していった。

会議の後、ユナとライルは静かに語り合った。

「とても大きな責任を背負いましたね」

「はい。でも、やりがいがあります」

「私たちの愛が、世界を変える力になるなんて」

「最初は想像もできませんでしたね」

「でも、これが私たちの使命なのかもしれません」

「そうですね」

その夜、ユナは一人で月を見上げていた。

「ルナ様、私たちは正しい道を歩んでいるでしょうか?」

月は静かに輝いている。

「お姉さん」

ポンが現れた。

「すごいことになったね」

「はい。でも、不安もあります」

「どうして?」

「こんなに大きな責任を、私たちが担えるのでしょうか?」

「大丈夫だよ」

ポンが断言した。

「お姉さんとライルの愛は本物だから」

「本物の愛?」

「うん。自分たちだけでなく、世界中の人々の幸せを願う愛」

「そんな大きな愛でしょうか?」

「そうだよ。それが証拠に、みんながお姉さんたちを信頼してる」

ポンの言葉に、ユナは勇気づけられた。

「ありがとう、ポン」

「これからも、僕が見守ってるからね」

翌日、ユナとライルは新しいレシピ帳の制作を始めた。

「今度は『愛と平和のレシピ』ですね」

「そうですね」

「材料は何でしょう?」

「理解、尊重、協力、そして愛」

「作り方は?」

「相手の立場に立って考え、違いを認め合い、共通の目標に向かって協力する」

「素晴らしいレシピですね」

このレシピ帳は、同盟国の指導者たちにも配られることになった。

「実用的な平和構築のマニュアルですね」

「愛の力を政治に活かす方法が書かれています」

「これは貴重な資料になります」

各国で好評を博したレシピ帳は、やがて多くの言語に翻訳され、世界中に広まっていった。

一年後、愛と平和の同盟は二十カ国に拡大していた。

「信じられない成長ですね」

「はい。愛の力は想像以上でした」

そして、各国で様々な問題が愛と協力で解決されていった。

環境問題、貧困問題、教育問題。

はすべてが少しずつ改善されていく。

「お姉さんたちの愛が、本当に世界を変えたんだね」

ポンが感慨深そうに言った。

「みんなの力ですよ」

「でも、きっかけはお姉さんたちだよ」

確かに、すべては小さなパン屋から始まった愛の物語だった。

政略結婚で出会った二人が、本当の愛を見つけ、その愛が世界を変える力となった。

「これからも、この愛を大切にしていきましょう」

「はい。永遠に」

月の光が、新しい世界の始まりを静かに照らしていた。

愛と平和の時代が、今まさに始まろうとしていた。

そして、その中心には、真の愛で結ばれた二人がいた。

月の巫女と元王子。

彼らの愛の物語は、これからも続いていく。

世界中の人々に希望と勇気を与えながら。

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