滅炎の魔法使い

赤牧師

一章 駆け出しの街ロブレス

第1話 炎の死神

ここはある国の山奥にある組織の基地であり、研究や開発を行っている場所。

その中に6人組の部隊が基地内部に侵入していて、赤茶色の髪と黄土色の瞳を持つ彼もその一人だった。


『こちらI4(イグニスフォー)目的のモノは手に入ったわ。』


『I1了解、だが早すぎないか?』


『変なのよ、陽動もしていないのに警備も手薄だし、研究員も最低限しかいない。』


今まさに作業中の彼の耳に不穏な情報が飛び込んでくるが、彼のやることは変わらない。

敵を引きつけての起爆をして、敵組織に大打撃を与える為に施設を爆破炎上させる。それは彼が今までやってきた事だし彼にしか出来ない事でもある。罠であれなんであれ、自分の役目は殿を務める事なのだから。


そんな事をしていたからか、イグニスなどという通り名まで付いてしまったが、仲間達はそれを面白がって小隊名にしてしまった。


『I2セット完了、でもやっぱり敵が少ないでヤンス。』


『I3、こっちも同じでゴザル。』


『・・I5、I6、そっちはどうだ。』


隊長からの通信、こちらは問題ないと言おうとした時、大人数の足音が自分のいる場所へと向かってきている。


『イグニス6、どうやら奴らは意図的に

西側の資材倉庫に向かっている。』


『意図的にだと?!。待て・・そっちは・・I5!、リンド!応答しろ!。』


「・・こちらI5・・囲まれている。嵌められたようだ。これより戦闘に入るため、通信を終える。」


『囲まれているだって?、おい!、リンド!、おい!。』


通信機を切り、顔を上げるリンド。彼の前には見えるだけで数十人の敵がいる。ここは格納庫、基地を無力化するにはまずは潰すべきと判断したからだが、敵の方が一枚上手だったのだろう。


「全く、君らの所為で我々はとんだ大赤字だ、まさかここまで侵入されるとは。」


この部隊の指揮官だろうか、言葉は丁寧だが表情には隠しきれない怒りがもれていて青筋を浮かべている。


「そう言う割には用意周到なんだな、こんなに戦力をかき集めて。」


そう言ってはいるものの、リンドはそれ自体に興味があるとは思えない。だが、その間にも兵士達は増えて行き、60人近くの兵士達がこの倉庫に集まりつつある。屋内でここまでの戦力を並べるとは、余程自分を始末したいのかと溜め息すら漏れる。


「済ました面だな、この状況が理解出来ていないと?。これは君の為に用意した布陣だと言うのに。」


「理解は出来ているよ。ただ、何も感じ無いだけさ。昔から恐怖とかには疎いんだ。」


リンドはそう言うと懐から15cm程の試験管を幾つか取り出す。指と指の間に挟まれたそれを、そのまま辺りにばら撒いていった。


「液体?。」


兵士達の驚きをよそに、彼は笑っていた。そしておもむろにスイッチを取り出し、皆の注目が集まる前で、そのボタンを押した。

それに反応して倉庫内の爆弾がいくつも爆発する。


「さあ、始めよう。」


スイッチを捨てて、ドスを抜く。轟音と共に広がった炎が、液体に引火して辺りを火の海に変える。

景色は赤一色に染まり、リンドの姿は既に赤き光に呑まれて見えなくなっていた。


「ぎゃっ!。」


「ガフッ!。」


しかし、それで終わりではない。燃え盛る炎に意識が向いていた兵士に、炎の中から数本のナイフが飛んでくる。


「し、視界の悪い炎の海から兵士達が闇討ちされています!。炎の中からナイフが飛んできガフッ!。」


「ぐっ、何をやっている!。すぐに焼け死ぬわけでは無いだろう!。炎の中から奴を引きずり出せ!。」


「無理です!そんなガッ!!。」


進言した兵士は数本のナイフが刺さり、直ぐに言葉を発せなくなる。このまま放っておけば息絶えてしまうが、負傷者を救護する事はこの連中の頭には無いらしい。


「まさか噂が真実とはな。炎はおろか、熱すら通じない炎の死神。この地球でそんなオカルトがあるとは信じる気は無かったが・・よこせ!、私は殺されてなどたまるか!!。」


敵指揮官は、隣の戦意喪失した兵士からマシンガンを奪い取り、銃弾をばら撒いていく。金属に当たる音は聞こえて来るものの、命中しているかは分からない。


「司令、火がもう目のまガフッ!!。」


集結した戦力は一人・・また一人と数を減らしていく。

燃え盛る炎の音と断末魔、響く銃声。淡々と、作業と化したその行動にリンドは何の感情も湧いては来ない。


やがて、辺りには辛うじて死んでいない兵士達はいるものの、無事なのは敵指揮官だけになっていた。


「化け物め・・。」


こんな方法で視界を奪い、行動を制限され、一方的に虐殺されるとは思いもよらなかった。

理不尽な状況に思わず漏れた本音だった。


「だからここに居るんだよ。」


リンドが告げた言葉は、イヤミでも何でもない。化け物だからこそ裏社会まで堕ちてきたのだと、自身の皮肉を口にしただけだった。

しかし、揺らめく炎を纏いまるで死神の如き姿で現れたリンドに、敵指揮官は自身の命の終わりを見たのだろう。


敵対すると確信した時から情報を集め、戦力を集め、罠にかけた。それでも駄目だった。

つまり、関わってはいけない物だったのだ。

絶望してうなだれる男に、抵抗する気力は残っていなかった。


「私は、間違っていたのか・・。」


それは、リンドに対して向けられたものではない。リンドは分かっているのかいないのか、その問いに答える事はなかった。

しかし、その答えはリンドの顔に表れている。


「!・・傷が・・治っていく??。」


「?・・ああ、昔から切り傷程度なら数分で治るんだ。」


「はは・・。」


もはや死体蹴りに等しく、敵指揮官から乾いた笑いが出てくる。正真正銘の化け物だったのか・・と、それは言葉になる事はなく、トドメを刺されて薄れゆく意識の中に溶けて消えた。


「終わりか・・つまらないな。」


兵士達の死体を見下ろしてドスの血を拭い一息ついて通信機の電源を入れると、仲間からの声が響いて来る。


『リンド、聞こえる?!、応答して!!。』


「I5、襲って来た敵は全員片付けた。」


『大変なの、実は・・。』


『爆弾だ。俺達が仕掛ける物とは、根本的に違う用途のやつだ。連中は基地ごとお前を・・!。』


爆発音が響くと共に通信機がプツリと途切れる。もう電波が届かなくなったのかと、辺りを見回すと、そこは見たことが無い真っ白い景色が広がっていた。

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