05 「ウルカ」と「ウカ」

 キツネの話を要約すると、大昔に地球に流れて来た大流星「憂流迦うるか」に、このキツネの主に当たる三狐神みけつしん、稲荷神の「宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ」が心を奪われた事がそもそもの始まりらしい。


 憂流迦うるかは後に天狗と呼ばれ、天狗とは「天のイヌ」と書き「アマツキツネ」とも読む事から「天狐あまつきつね」と同義であり、魔や悪を退ける存在として人に敬われた。


 宇迦之御魂神ウカノミタマノカミは、憂流迦うるかと共に有る事の証として、自身の魂を三人の女性に分け与え、それぞれに眷属である狐の精霊を遣わし、守護させ、そして妻として娶らせた。

 それから先祖代々に渡り、狐の精霊は憂流迦うるかの正当な血筋を護ってきたという事だ。


「その一体が妾なのじゃ! 天狐にして宇迦ウカ様の眷属、七颷なつ殿を守護する『黒狐こくこ』なのだ! 今後とも幾久しく頼むのだ! ちなみに、好きに名前を付けてくれてもいいのじゃ!」


「えーっと、情報が多すぎて軽く混乱してるんだけど……正当な血筋って? アタシが?」

「そうなのじゃ! 覚えているじゃろ『天狗と狐の物語』は。あれは本当の話でな、七颷なつ殿の曽祖父というのが実は憂流迦うるか様の生まれ変わりでの。その奥方様も皆正当な生まれ変わりという珍しい星回りだったのじゃ。その御子の一人が七颷なつ殿の祖母『煌七あきな』殿じゃな」


「待って待ってーっ! おばあちゃんのその物語はよく覚えてる。……って事は、キミはひいおばあちゃんに憑いていて、それがおばあちゃんに移って、そして今アタシに憑いてるってワケ? だからアタシは特別な子って、そういう意味でおばあちゃんは言ってたの?」

「憑いてるって……幽霊やお化けの類ではないのじゃ! れっきとした精霊なのじゃ! 妾は七颷なつ殿のちゃんとした契約精霊なのじゃーっ! それに昔、煌七あきな殿が『きっといつか会える』と言っておったじゃろうがー!」


「……言ってたけど、えっ! それが今って事!?」

「そうなのじゃ? 物事に早いも遅いもないのじゃ! 全てはタイミングじゃ! 詳しくは、そこの話したがっている兄さんから聞くと良いのだ」


 兄さんって? と顔を正面に向けると、さっきまでアタシの足首を掴んでいたはずの手は、いつの間にか解かれ、赤い顔に長い鼻の天狗がしゃがんでいた。驚き過ぎて思わず声が出る。


「うわぁっ!! てっ、天狗っ! ちょっと待って! アタシ美味しくないからーっ!!」


 思わずキツネを抱き締め、目を閉じて雪の中に転がり縮こまった。


「あれーっ? 俺そんなに怖い顔してたかなーっ?」

「兄さん、そのお面のせいなのじゃ! ほれっ、ちゃんと面取って七颷なつ殿に顔を見せるのだ」


 えっ、天狗の顔ってお面なの? それに声が意外と若いような……。

 恐る恐る目を開ける。


「あ、ホントだ。 お面したままだったな! うっかりしてたわー、ゴメンねー! 怖がらせちゃったな。あはははっ」


 天狗の面の下から出てきたのは、浅い褐色の肌に銀糸の髪、白い歯に爽やかな笑顔……。


 雪の中に転がった体勢からガバっと起き上がり、シュバババっと身なりを整えるが、まさか天狗の面の下からこんなイケメンが現れると思ってもいなかったので、視点が落ち着かない。


「だっ、だ、だっ、誰っですか! どっ、ど、どちら様でしょうかっ!」


 緊張と興奮で上手く言葉が出て来なくて吃ってしまった、めっちゃ恥ずかしい。


「うん、そうだね。いくつか説明させてね。まず一つ、なっちゃんの敵ではないよ。二つ目、俺は『ゆう』、皆はアルって呼んでる。三つ目、俺は煌七あきなちゃんのお父さんの仲間であり親友。四つ目、なっちゃんは特別な子だって事。五つ目、君に危険が迫っている」

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