第48話「収益5倍と止まらない涙」
#第48話「収益5倍と止まらない涙」
私とルカ、そしてガイル兄の絵が完成し、領内のいくつかの店舗に飾られたと聞いた。
そして私たちが使っている麦わら帽子や篭として売り出したところ、商品は飛ぶように売れ始めたという。
とても喜ばしいことだ。だけど……あの絵を、たくさんの人が見ていると思うと、なんだか恥ずかしくてたまらない。
でも今さら「やっぱり恥ずかしいからやめて」とは言えないし、それで領に貢献できているのなら、やはり嬉しいことでもある。
そんな中、家族全員が父さんの執務室に呼ばれた。父さんは困惑したように語り始めた。
「先月は利益が2倍になったから支出を更に増やしたはずだろう?だから今月は利益が落ち着くはずだったんだ。なのに現実には利益が5倍になっている。そして収入がとんでもないことになってる……リナが付けた帳簿、今度こそ何か間違えてないか?」
リナは肩をすくめて答えた。
「何もおかしくないわよ。麦わら帽子や篭がとんでもなく売れてるの。先々月はうちとリヴェル領とハーベル領付近でしか売れなかったけど先月はリリア姉の人気のおかげでエルミーナ領付近、そして王都でも売れるようになったのよ」
「あまりにも売れるから値上げしたのだけどそれでも売れたのよ。もちろんリヴェル領とハーベル領付近での売り上げもぐんと伸びているわ。それで特許料――アイデア料と販売利益の一部が先月とは比べ物にならないぐらいリヴェル領とハーベル領から入ってきているの。だから心配しなくても何も間違っていないわよ」
よどみなく答えるリナ。でも父さんの困惑は止まらないようだ。
「……でもな。ほんの数年前まで、うちの領は赤字で収支を合わせるのがやっとだったんだよ。借金もしたよ……その後魔物討伐でようやく利益が出始めて少し落ち着いたんだ。もう収益がプラスになっただけで小踊りしたもんだよ」
「そんな状況で先月収入が一気に増えて利益が2倍になり、これ以上ないぐらいにびっくりしたんだぞ。それが今月は更に5倍?……どうにも理解が追いつかん」
「母さん、これどうしよう。夢じゃないのか?私たちの子供が優秀すぎる」
母さんもびっくりしていたようだが父さんに声をかける。
「私に言われても困るけど……私たちの子供が優秀なのは同意するわ。本当にみんなありがとう。みんなのおかげよ」
母さんは父さんと違ってさすがに落ち着いているな。やっぱり母さんがいないと父さんは駄目だと思う。
そしてリナが笑って言い出した。
「そうね。今回はルカのアイデアが凄かった。そして、やっぱり決め手はリリア姉の人気と実力のおかげね」
でもルカはそれは違うと言う。
「いや今回は本当に俺じゃなくて、ほぼ全部リリア姉のおかげだよ。俺はちょっとアイデアを出しただけ」
「リリア姉は国でも魔法使いのエースとして有名だからね。更には王都での魔術大会でも15~20歳の部で優勝!リリア姉の人気と実力のおかげだよ。リリア姉ありがとう!」
「そうね。リリア姉の貢献はほんと凄いわね。ルカのアイデアを聞いて多少は売りが伸びると思ったけど、今回は完全に私の想像以上だったわ」
「本当にびっくりしたわよ。リリア姉の実力と人気を舐めていたわ。領への収益の貢献度は私たち兄弟姉妹の中でもリリア姉がダントツね」
そのルカとリナのやり取りに私はびっくりした。
……私の人気?
「私が……領に貢献?一番?」
思いもよらない言葉だった。心の奥で何かがはじけ、気づけば涙があふれていた。
「えっ……あれ……?」
慌てて拭おうとしたけど、止まらない。
私はただ、領の役に立ちたかった。兄弟たちが次々と成果を出す中、魔法しかない私は置いていかれているようで、ずっと焦っていた。そんな中で、私が貢献できたと言われて……つい、涙がこぼれてしまった。
あれ、駄目だ涙が止まらない。みんなが領の利益が増えたと喜んでいる席で私だけ泣いているとか、おかしいのに、どうしよう……。
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