第41話「魔法師団の仲間たちへ」

#第41話「魔法師団の仲間たちへ」


ヴェルド領に帰還してから、しばらく穏やかな日々が続いていた。

魔術大会の余韻が残る中、私は日常の任務に戻りつつあった。


そんなある日、他領の魔法師団から討伐支援の依頼が届いた。


「またか。最近はほんと魔物の出現が多いな」と思いつつも、私はすぐに参加の意思を伝える。

いつもお世話になっている師団だ。断る理由なんてない。


……思い起こせばあの時、10歳の私は「戦力としてはぎりぎりだな」と言われて、大泣きした。自分の実力を思い知らされた。


でも、だからこそ私はそのままでは駄目だと分かって懸命に努力した。そして成長できた。あの言葉がなければ、今の私はなかったと思う。



魔物討伐の打ち合わせの会議、場所に向かう足取りは自然と早くなる。

けれど、扉を開けた瞬間、私は思わず立ち止まった。


……あれっ?ここはパーティー会場?場所を間違えた???


目の前に広がっていたのは見慣れた打ち合わせ室ではなく、華やかな装飾と料理が並ぶ空間。そして、壁には大きな垂れ幕が掲げられていた。


「リリア、魔術大会優勝おめでとう! 我が魔法師団の誇り!」


目に飛び込んできた文字に、私は息を呑んだ。

胸が熱くなるのを感じた。なんて……なんて優しい人たちなのだろう。

気づけば、涙がこぼれていた。


「おめでとう、リリア!」「さすがだよ!」


私の周りに来てくれる人達、そして次々とかけられる祝福の言葉。

私はこの師団と共に戦ってきたことを、心の底から嬉しく思った。


「リリア、何か一言お願いできるかな?」


統括長に促されて、私は前に出た。

今回の件は何も聞かされておらず当然のことながら何も考えていなかったら困った。

何を話せばいいか……それでも心に浮かぶ言葉をゆっくりと紡いでいった。


「みんな……ありがとう。そして、もし私から伝えられることがあるとしたら、ここは本当に最高の場所だということです」


「私は10歳の時に、そこにおられる統括長に“戦力としてはぎりぎりだ”と言われました。ショックで……私は大泣きしました」


「おいおい、それは言わないでくれよ。俺が鬼みたいじゃないか」

場がふっと和らぎ、笑い声が広がる。


「でも、今では統括長に凄い感謝しています。あの言葉があったからこそ、私は自分の立ち位置が分かった。実力がないことが分かった。だから必死で努力しようと思えたんです」


「みんなも班長や先輩から厳しい言葉を受けるかもしれない。でもそれは全てあなたのことを思っての言葉だ。絶対に諦めないように頑張って欲しい。食らい付いて欲しい」


「エリシア先輩をはじめ、先輩方は、しつこいほど質問をする私に丁寧に答えてくれました。魔法の上達方法、討伐の動き方……全部が私の血肉になりました」


「だから私はここまでこれました。私が王国大会で優勝できたのは、この師団に育てられたからです。ここは最高の環境です」


「もしかするとこの中には、自分には無理だと思っている人もいるかもしれません。でも、私は魔法使いとしてギリギリの戦力だった。今ここにいる誰よりも下からのスタートだったのです」


「そんな私がここまで来たんです。だから大丈夫。あなたにもできます。この魔法師団で諦めずに努力すれば、きっと成長できます。頑張ればきっと……私よりも上の魔法使いにもきっとなれる。だから自分を信じて欲しい」


「最後に――こんな素敵な祝いをしてくれてありがとう。これは私ひとりの勝利ではありません。私を助けてくれたここにいる全員の勝利です。みんな、自分を誇ってください」



……拍手が鳴り止まなかった。

中には涙を浮かべている後輩もいた。やる気になっている人も多いようだ。誰かの背中を押せたなら、私も本当に嬉しい。


「俺を悪者にしたのはあれだが……いいスピーチだった」と統括長が笑いながら言ってくれた。


「私の名前を出してくれて、ちょっと照れた。でも嬉しかったよ」とエリシア先輩も笑っていた。


こんな仲間に囲まれている私は、本当に幸せ者だ。本当に嬉しい。

そして領に帰ったら真っ先にルカにこの出来事を報告しよう。


きっと、一緒に笑って喜んでくれるだろう。

その瞬間、きっと私は、今日という日をもう一度誇らしく思えるだろう。ここにいるみんなには少し悪いけど早く帰ってルカの顔が見たくなった。

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