第29話「私たちの秘密」

#第29話「私たちの秘密」


ここ最近の私とルカの魔法はおかしい。


私は魔力が伸び、魔法の精度だけでなく威力も向上した。魔力が伸びる事例は少ないので異例のことだ。


しかもそんな驚異的な成長を遂げた私をルカは模擬戦で一度だけとは言え、負かした。


普通に考えたらルカが急成長している私に勝つのはあり得ない。


そこで私は仮説を立てた。

そしてルカに魔法で魔物を討伐させた。


「ルカ、あのボアビーストを、あなたの全力の魔法で倒してみて。」


ルカは驚いた顔をした。

「え? 俺が? でも俺の魔法じゃ行動を阻害するくらいしかできないよ?」


「いいから、やって。」


私の声は思ったより強かったかもしれない。

でも、確かめたかった。どうしても。


ルカは小さく息を吸い、魔力を集中させた。

その様子を見て、私は心の奥がざわついた。


以前のルカは魔力が微小だったので小型魔物ボアビーストの行動阻害しかできなかった。


だけど――


今回、ルカの本気の魔法が放たれた瞬間、ボアビーストは一撃で吹き飛んだ。

それどころか魔法は突き抜け、巨体が後方の岩山に激突した。岩が大きく崩れる。



私は息を飲んだ。

間違いない。私だけじゃない。

ルカの魔力も――確実に上がっている。しかもかなりのレベルで上がっている。


「間違いないわ。ルカ、あなたの魔力が飛躍的に上がってるわ。2~3ランクぐらい上がっているはず」


「リリア姉……これ、でも、やばくない?」


呆然としているルカに、私は頷いた。


「うん。魔力が急に上がったなんて言ったら、あちこちから調査されるかも。しばらくは内緒にしておきましょう。国に知られたら、調査が入るかもしれない」


本音を言えば、、、

1)ルカが魔法使いとして有名になる

2)ルカがますますモテる

3)ルカに結婚申込が殺到する

4)ルカが遠くに行ってしまう


これは非常にまずい。調査以上にまずい。絶対に駄目だ。2重3重の意味で秘密にしておくべきだ。私がルカを他の女から守らないと。



「でも何で私たちの魔力が増えたのかしら」


私の疑問にルカが答える。


「俺とリリア姉の共通点、、、考えられるとしたら3つ、いや4つ、5つかな?毎日、魔物の肉をもりもり食べている。そして常日頃から精密魔法の練習をしている。あと体力作りも欠かしていない。剣の練習もしているし、、、魔物討伐もしているから何か関係しているのかも、あとは父さんと母さんからの遺伝?この領にも秘密があるのかも?考えだしたらキリがないね」


・魔物の肉をもりもり食べる

・常日頃から精密魔法の練習をしている

・体力作りも欠かしていない

・剣の練習も並行してやっている

・魔物討伐もしている

・遺伝の可能性も?

・領に秘密も?


このうちのいずれか、もしくは複合要因で魔力が上がった可能性がありそう。もしかしたら他にも要因があるかもしれない。


今はこれ以上考えても仕方がないけど調査する必要はありそうね。


私は息を吐き、ルカを見つめた。

魔法使いのエースと呼ばれるまでになって、ようやくルカに追いついたと思ったのに

――


(やっぱり、あなたは先を行くのね。)



私が複雑な気持ちになっているところにルカが新しい提案をしてきた。


「ねぇ、リリア姉、俺みたいに、魔力が少しでもある人を、鍛えてみるってどうかな?」


「え?」


「騎士団とか、平民の中にも、魔力がわずかにある人はいるよね。俺みたいに微量な魔力では使い道がないとして放置されている。でも、その人たちも俺たちと同じように鍛え魔力が増えたら、戦えるようになるかも」


「確かに……それ、いいかも」


「魔法用の訓練所とか、指導計画とか、いろいろ作ってさ!」


「分かった。じゃあまずは、候補者リストを作る必要があるわね!」


「うん、一緒に魔法訓練所を作ろうよ!」


「一緒に?」


「だってうちの領で魔法使いと言えば俺とリリア姉だよね。俺たちにしかできないよ。駄目かな?」と上目遣いに私を見るルカ。やだもうカワイイ。



いや、見とれている場合ではない。


凄く良いアイデアだ。調査は進むし、もしかしたらヴェルド領でも魔法使い部隊を作れるかもしれない。そして更に領が発展するかもしれない。そんな希望が生まれた。これは本当に素晴らしい。



でも私はそれ以上にルカとまだまだ一緒にいることができそうで嬉しかった。


私以外の兄弟姉妹はルカと共同作業をしていた。でも私には何もない、、、トレーニングや模擬戦を一緒にするだけ。私は正直なところ、凄くうらやましかったのだ。


「うん、ルカ、一緒にやろうね!」私は少しニヤけながら抱き着いて同意した。


抱き着くと真っ赤になるルカがいつもにも増してカワイイ。もう絶対に離さない。



「うん! 訓練所を作って、みんなで鍛えれば、何か分かるかも!」


ルカが私の言葉に満面の笑みを浮かべる。


この笑顔を、まだ隣で見ていられるのが嬉しい。

でも同時に、また遠くへ飛び立ってしまう気がして、少しだけ寂しかった。


(私の手の中に閉じ込めるわけにはいかない。でも、せめて――)


「ルカ、一緒に魔法使いを育てましょう。」


「うん!」


私の横で笑う弟の横顔は、私にとって何よりも誇りで――

何よりも手放したくない宝物だった。

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