第9話「私が明るくなった理由、そして移籍の打診」

#第9話「私が明るくなった理由、そして移籍の打診」


 ある日、先輩のエリシアさんが声をかけてきた。


「最近、リリア……ちょっと明るくなったんじゃない?」


 不意の言葉に、私は一瞬きょとんとしてしまう。


「え? 私が、ですか?」


「うん。前はもっと思いつめててさ……何かあったら危ないかもって、ちょっと心配してた。でも最近の君は前よりずっと穏やかで、どこか柔らかくなった。良い意味でよ」


 その言葉に、私は思わず微笑んでいた。理由は1つしかない。


「その理由は弟だと思います。ルカっていうんですけど……かわいくて、がんばり屋さんで。たぶん、その影響かも。今3歳なんです!」


「なるほどね。家族の力ってすごいなあ。私たちが何をしても変わらなかったのに」


「気を使わせてしまってすいません。努力してもなかなか成長できなくて焦ってたんだと思います」


「いいって、それは仕方ないよね。あなたの場合は特に……領を背負っているしね」


「それに、あなた自分では気づかないかもしれないけどかなり成長しているわよ。うちの騎士団でも話題になっているよ。努力してのし上がっている凄い奴がいるって!」


「そんな、成長なんてとんでもないです。まだまだ下っ端ですし」



 そんな会話をしていたのも束の間、今度は所属団の上役から呼び出しを受けた。


「リリアさん、あなたに移籍の打診が来ていましてね。ヴェルド領から、うちの騎士団に来て欲しいと。実際に上層部の者が話をしたがっています」


 まさか、何か問題を起こしたかなと思って少し戸惑いながらも、私は面談の場に向かった。


「君は、魔力量が平均より低いにもかかわらず、知識、判断力、そして行動力でそれを補っている。今や普通の団員と遜色ない働きだ」


「……ありがとうございます」


「我が団には、君のような存在が必要だ。才能だけでなく努力でここまで来た君は、多くの団員に刺激を与えている。うちの騎士団に移籍することを真剣に考えて欲しい」


 真剣な目で語られるその言葉に、私は一瞬揺れた。

 一番下っ端だと思い知らされてから8年が経った。そして私の懸命な努力が実ってここまで認められるようになったのだ。


 けれど、答えは決まっていた。


「申し訳ありません。私は自分の力をヴェルドのために使いたいんです。あの領はまだ魔物が多くて大変です。だから、私は……残ります」



 私の言葉に、上役はしばらく沈黙し、そして静かに頷いた。


「……そうか。ならば、これからも期待しているよ、リリア・ヴェルド。これからも討伐の依頼はさせてもらうからその時は宜しくお願いしたい」


「それはもちろん。こちらこそよろしくお願いします」



 その帰り道、私はふと空を見上げた。


 弟のルカが生まれてから良いことが増えた気がする。先輩には明るくなったと言ってもらえたし、魔法使いとして成長しているとも言ってもらえた。


 そして今回は移籍の打診まで。

 まさかそんな打診を受けるなんて夢にも思っていなかった。


 私のこれまでの努力は無駄ではなかったんだ。少しずつだけど私は成長している。そしてそれを認めてくれる人がいる。



 そして何よりも……領に帰ったらルカがいる。領に帰ったらどんな話をしようかと今からわくわくする。


 まだまだ領は貧乏で厳しいことばかり。

 しんどいことも多い。

 魔法使いとしてまだ未熟だからもっと努力が必要だろう。


 でも私は今、凄く幸せかもしれない。

 ルカ、生まれてきてくれて本当にありがとう。

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