1章「リリアの魔法と努力の毎日」

第1話「魔法の訓練と努力」

#第1話「魔法の訓練と努力」


 私が魔法の訓練を始めたのは確か4歳、もしくは5歳の頃だったと思う。本来、魔法の修練は15歳を迎えてから始めるのが理想だと言われている。

 その理由は単純だ。

 魔法とは、極めて危険な力だからだ。


 魔法を行使し魔力を使いすぎれば魔力は枯渇し簡単に気を失う。魔法を最大火力で打つのは数発が限度なのだ。子供は加減を知らないのですぐに気を失う。


 それ自体はかなり気持ち悪くしんどいが命に別状はない。けれど、気絶した場所が運悪く崖の近くだったら?

 あるいは、魔物が潜む森の中だったら?ちょっとした間違いで大変なことになる。


──また魔法の暴発で人を傷つけてしまう危険だってある。

 魔法一つで魔物を倒せる力は、同時に人間の命すら奪えるのだから。加減を知らない子供の魔法は凶器になりえる。



 そういった様々な理由で子供にはリスクがあるので魔法は15歳から始めるのが普通。それでも私は4歳から5歳ぐらいに魔法の訓練を始めた。

 父と母にまだ早いと言われその理由を聞いても自分の意思を曲げなかった。危険ならば出力を押さえればいいだけでは?人に向けて撃たなければいいだけでは?私はそう考えたのだと思う。


 そして何よりも、誰よりも早く誰よりも強くならなければならないとも考えていた。

 早くヴェルド領の貧乏で厳しい現状を変えたかった。家族の悲しい顔、そして領民の悲しい顔を何とかして変えたかったのだ。



 もちろん魔法は独学では限界がある。小さな子供が自分だけで習得できるはずもない。私には騎士団の魔法使いが付いてくれて教えてくれた。

 初老の魔法兵で、無口だけれど教え方は丁寧だった。


 毎朝の魔力の流し方から始まり、基礎魔法の制御、詠唱と無詠唱の使い分け……。

 魔法の使い過ぎによる手足の震え、眩暈、鼻血、気絶。毎日のようにどこかしらが痛くなり苦しかったけれど、それでも辞めようと思ったことはない。



 父と母は、私に期待していた。

 兄のガイルは剣士として努力しているけれど魔力はない。

──だから、魔法が使える私は特別だ。

 誰よりも役に立てるはずだ。貧乏な我が家を救える。父さん、母さん、兄さんを助けられる。そう信じていた。



 その後、私は8歳になった頃に実戦訓練として、領の近くに出現した魔物の討伐に同行した。

 単体では討伐は容易とされる小型魔物ボアビーストだったけれど、私にとっては初めての「命をかけた戦い」。


 魔物が大きな声で吠えた。それだけでとてつもなく怖かった。足が震えた。でも私は懸命に動いた。そして教えてもらった魔法を行使した。

 その魔法が命中し、ボアビーストが倒れた瞬間に騎士団がトドメを刺した。身体が震えた。私が討伐に貢献できたんだ。

──うれしかった。

 初めて「自分の力が、誰かの役に立った」と思えたからだ。


 私はもう魔法で戦える。魔物を倒せる。貧乏なヴェルド領はきっと変わる。

 その日を境に、私は少しだけ自信を持つようになった。


 もっと強くなろう、もっと魔法を極めよう。

 家族のため、兄弟たちのため、ヴェルド家の未来のために。そう考えて更に魔法の特訓を頑張ったのだ。



 そして──

「この子は、やっぱり才能があるのね。リリアはやはり天才ね」


 母が何度もそう言って笑っていたのを、今でも覚えている。

 父もそれに頷いていた。

 嬉しかった。その言葉をもらってもっと頑張ろうと思った。



 その後も我が家に子供は生まれた。私の後に生まれた弟や妹たちは皆かわいかった。


 父さんと母さんは新たに生まれる子供たちにも私と同じように魔法使いとしての才能、魔力を持つことを期待していたようだ。

 生まれた子が1歳になる時の魔力測定の時には緊張しているのが分かった。

 そして測定の日に明らかに落胆しているのが分かった。特に父の落胆は大きかったように思う。母は何があっても気丈にふるまっていた。


 そう──私の後に生まれた子は誰も魔力を持たなかったのだ。

 魔力を持っていても魔法使いとしては使えない。全く戦力にならない微小の魔力だったのだ。



 その後、、、私が討伐に参加できる魔法使いだからといってもすぐに変わるわけでもない。ヴェルド領は貧乏なままだった。

 それはそうだ。やはり私にはまだ体力がない。近くの討伐でようやくぎりぎり参加できる程度。

 戦力に数えるにはさすがに無理があった。悪く言えば戦闘に参加したところで邪魔にしかならない。魔法使いと言えども自分で動ける体力と判断力が必要なのだ。

 私は歯がゆい思いをしながらも魔法の訓練を続けた。


 うちは次々と子供が生まれ兄弟姉妹が増えたがそのいずれもが魔法使いになれるほどの魔力を持たなかった。

 そして魔力を持たない子供たちは五歳ぐらいになると勉学という名のもとに他領に働きに出された。率直に言えば口減らしだ。

 せっかく弟や妹ができたのに別れるのは寂しかった。何でそうなるのか?全て貧乏が悪い。でも仕方がないとも理解した。


 私の弟や妹が家を出る時の父さんと母さんの寂しそうな顔は今でも覚えている。

 そして夜になって私のいないところで2人でこっそり泣いているのも知っている。私だけが悲しいのではない。父さんと母さんはもっと悲しいはずだ。そして2人を救えるのは魔法使いの私だけ。


 だから、私は決意した。

「私が、その分も頑張らなきゃ。私が変えてやる」って幼心に思った。 


 私がこの家に生まれた意味。

 ヴェルド家の希望と呼ばれた理由。

 全部、無駄になんてしたくなかった。全て私の努力にかかっている。まだ足りない。私は変わらなければいけない。


 私が強い魔法使いになって今後のヴェルド家を背負うのだ。そして離れていった弟や妹たちを再び呼び戻そうと強く決意した。

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