第24話 エリオットの依頼

 交流会と言っても王族であるエリオット王弟殿下が主催のパーティであるから、王宮の来賓広間が会場になっている。

 いつもと違うのは招かれている客が貴族ばかりではなく、作家や画家、音楽家、俳優、そしてそれらのパトロンをしている大商人もいた。

 彼らがこうして王宮で開かれる社交界に招かれることはほとんどないので、来場する時から緊張している。

 エリオットはそうした彼らに気を使いながら、出迎えていた。


 大公国とは違い、王国の王族はしきたりにうるさくないので、大体形式的な挨拶が終われば、後は自由に会話もする。

 それと言うのも、国王が王国民に影響のある彼ら文化人を重視しており、王弟であるエリオットが文化大臣に就任している理由の一つでもあった。


 来賓の目玉である大公国の公女のソフィアが来場すると、エリオットはその洗練された跪礼カーテンシーに感服した。

「公女殿下には本日は遠路王国まで来て頂き、ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそお招きに預かり、ありがとうございます。父の大公も私がご招待に預かったことを喜んでおりました」

「大公陛下には久しくお会いしておりませんが、ご健勝で何よりです。国王陛下も今回公女殿下をお招きできることをことのほか喜んでおりました」

「ありがとうございます。両国の親善に尽くすことができることを光栄に存じます」

「今夜はどうかごゆっくり楽しんで言ってください」

 今夜の大仕事が無難に終わってホッとしているエリオットに、次の来客が声を掛けた。


「殿下、今夜はお招きありがとうございます」

 見るとその人物はジャン・ロランだった。

 エリオットは、おおっと小さく声を上げた。

「来てくれたのか。しかも珍しく時間通りじゃないか」

「殿下が主催のパーティに遅れるはずがないでしょう」

「いや、私の誕生パーティには、まともに来たことが無かったではないか」

「あれは殿下の個人的なパーティでしょう。これは殿下の大臣としての重要な社交ではないですか。訳が違います」

 王族のパーティを個人的とはと、エリオットは苦笑したが、すぐに表情を変えて言った。


「公女殿下を頼むぞ」

「そう言われましても、何をどう頼まれるのですか」

「そこは、ほら、いつもの業で」

 片目をつぶってそう言ったエリオットにジャンは渋い表情で言った。

「簡単に言わないでください。公女殿下は只の貴族令嬢じゃないんですから、男爵の子弟風情には手に余ります」

 エリオットはそこを何とか頼むと言って肩を叩くと、待っている来客に言葉を掛け始めた。


 ジャンは会場を見渡したが、その夜の来客に平民も多数いるためか大人しい感じだった。

 さすがに王族主催で大公国の公女が招かれているパーティに、問題のある者は呼ばれていないということだろう。

 そしておそらく、外交部からも色々とうるさく言われているに違いない。

 外交部の慎重さもわかるが、そうなると逆に会の盛り上がりを邪魔することにもなりかねない。

 ジャンがそんなことを考えていると、交流会の開始を告げるエリオットの挨拶が始まり、献杯が終わるとダンスのための音楽が鳴り始めた。


 ジャンは手にしたシャンパンを片手に、煌びやかな明かりの下で踊り始めた人々の向こうにいる公女殿下に目を光らしていた。

「ロラン様、来ておられたのですね」

 聞き覚えのあるよく通る声が、ジャンの耳に届いた。

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